TOPICS 2021.09.17 │ 12:00

富山県美術館「富野由悠季の世界」展 富野由悠季×細田守 スペシャル対談②

異なるものを組み合わせることが作劇であると言う富野監督。そして、ふたりの対談は『機動戦士ガンダム』で描かれたリアルさとは何か、という根源的なテーマへとたどり着く。リアルな作劇とは何か、40年間語られなかった答えがここにある!

構成/富田英樹 協力/富山県美術館、北日本新聞社 富山会場主催/富野由悠季の世界 富山展実行委員会(富山県美術館、北日本新聞社)

住宅ローンとは外界との接点である

細田 かつてこれほど富野監督が『無敵鋼人ダイターン3』について語ったことがあったでしょうか(笑)。僕たちは『ダイターン3』を笑いながら毎週見ていましたけど、その裏側にこれほど過酷な思いをされていたとは。物語の舞台であるシン・ザ・シティというのも、当時は新座(にいざ)市にお住まいだったからなんですよね。

富野 そう、新座市の家のローンを払わなければならないということを笑いで乗り越えようとしたわけですが、こんな過酷なことをあと13年も続けられないというので、『ガンダム』の路線に切り替えたというのが真実の話なんです(笑)。

細田 主人公の破嵐万丈(はらんばんじょう)は大富豪という設定なのに、実際はそんな切迫した生活感から始まっているというのは、何ともキュートというか愛らしいと思えてしまいますね(笑)。

富野 ただ、作劇の仕事というのは反面教師的にそういう感覚があるようです。逆境を設定して物語を作るというような。そういう意味では『ガンダム』みたいにすれば楽に作れるとは言いましたが、そうそう楽でもないわけです。作家的なセンスも必要だし、それにはまず社会性を持つことが重要です。社会人でなくても、社会を想像する能力を持たなければならない。引きこもりの方に言いたいのは、徹底的に調査をするべきだということです。ネットであれ文献であれ、あらゆる範囲のことを調べなければいけない。あなたの興味のあることだけを調べていては、それでは社会思想を調べられないのです。そして、そういうことをやれば4畳半とか6畳の空間から脱出することができるかもしれません。つまり、自分の興味だけに囚われていたら地獄を見ますよ、引きこもりになっていきますよということが言えます。僕自身、そういう性癖があったからです。住宅ローンを払わなければならないというのは言葉の上でのレトリックでなくて、外的要因との接点を持つということでもあります。すると、そこを突破するためにはどうするかを考える。否が応でもローンの残債を計算するんですよ。それは完全に外と向き合っているんです。アニメの仕事をやりながらそれを考えることで、外との接点を持てる。そして……ああ、ダメだ。この話だけで終わってしまう(笑)。

細田 アハハハ!

質感の異なるものをひとつにする、というクリエイション

富野 要約して言うと、自分の好きなものから始めて、それをいっぱしのものにするにはどうするか。その周辺にあるものまでを調べていくセンスを持たなければいけない。メカが好きだからメカだけ調べるというバカなことは今すぐやめなさい。たとえば、メカと美女の組み合わせってあるでしょう。あれはなんとなくあるんじゃないんですよ。格好いいオートバイと美少女がいるのは、なぜかと言えば、オートバイだけ描いているとつまらないからです。カワイイ姉ちゃんだけ描いてもつまらない。その両方をマッチングさせたときに「フフフ、俺は天才だ」と思えるわけです。質感の異なるものをひとつにする、この作業をすることは接点を考えることにつながる。このお姉ちゃんをバイクと合わせるときに、跨らせるか横に立たせるか、跨らせたら猥褻だろうかという発想にポンといく。この発見が次の接点をつないでいくとか、次の物語を手に入れるということなんです。別の言い方をします。絶対にひとつのゲームにハマるな、ということです。ひとつのゲームを半年もやっていたら、それっきりになってしまう。思考回路が違う何か別のものを手に入れて、自分のなかに同居させていくことで、次の何か新しいものや、他人が考えていない別のものを発見することができる。これは異種格闘技なんですよ。同じものを組み合わせてなんとかなると思うのは、やめたほうがいい。まったく異なるものを組み合わせてもどうにもならないというのなら、クリエイターの素質はない。クリエイターになれる人はそれを統合していくことができるんです。自分がどういう場所にいるかということは、まだ30代であれば進路変更もできるでしょうから、まずは把握してください。全然違う話をしてしまいました(笑)。

細田 今のお話を伺うと、やはり富野監督がこれまでの作品でいかに異質なものを組み合わせて物語を作り上げていったかということがよくわかります。今回の展示で印象深いのは、アニメーションの絵をただ絵として提示するのではなく、安彦良和さんに代表されるようなイラスト調のビジュアルで見せてくれたという点にあると思います。あの当時にそんなことをやっていたアニメ作品なんてなかったし、セル画ではない質感のビジュアルに触れることによって、僕たちファンが受け止められる作品の世界観が大きく広がっていった。そういうことも考えて、富野監督は作品を作り上げていたんだと感じます。

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