TOPICS 2025.12.02 │ 12:00

『ガンダムW』の魅力を現代に伝えるために 監督・岩澤亨が取り組んだ王道の画作り③

発表から瞬く間に評判となり、現在(11月28日時点)までに約600万回近く再生されている『新機動戦記ガンダムW(以下、ガンダムW)』の30周年記念映像『-Operation 30th-』。この映像の監督を務めた岩澤亨氏に聞くロングインタビュー完結編では『ガンダムW』の制作を経て実感した「アニメ作りに求められているもの」について話してもらった。

取材・文/森 樹

当時のファンに失望されない映像を作る

――隅沢さんをはじめ、カトキハジメさんなど当時のスタッフも参加していますが、その熱量を感じた部分はありますか?
岩澤 逆に冷静に作品を捉えているように思いました。カトキさんも、今回のコックピットをデザインしていただいた石垣純哉(いしがきじゅんや)さんも、当時はタイトなスケジュールの中、発注に対していかに応えていくかで必死だったそうなんです。むしろ美術監督の益田健太さん(GROUND)とか、当時、ファンとして見ていたスタッフたちが熱かったですね。「このキャラやメカを描きたかった!」と意欲的に取り組んでくださいました。

――岩澤さんは、双方のスタッフのバランスを取る立場というか。
岩澤 そうですね。逆に言えば、これだけの熱意があるのであればとお任せしたところもありましたし、カッコよければOK、みたいなシンプルな判断もありました。

――今回、「Overture~Just Communication~」 と「Main theme song~RHYTHM EMOTION 30th Anniversary-」 を提供しているTWO-MIXとのやり取りはいかがでしたか?
岩澤 とても熱心に取り組んでくださいました。僕のほうから「当時っぽさが出せるとうれしいです」とお伝えしたり。永野椎菜さんからは、豪華にサウンドを大きめに乗せたバージョンと、当時っぽく抑えたバージョンの2パターンの楽曲を提供していただいて。今回は、その両方をミックスするかたちでやらせてもらいました。

――場所によって使い分けた、ということですか?
岩澤 そうです。抑えたバージョンでは入っていない音をあとから追加するなど、複数のパターンを、しかもパラデータ(楽器ごとに独立して存在する音源データ)で出してくださったので、シーンに合わせてうまくミックスすることができました。

――そういう細かい部分を含めて調整できたことも、今の再生回数につながったのかもしれませんね。
岩澤 当時のファンが見たかった映像を作る、失望されないものを作るというのはずっと意識していました。あらためて、このタイミングで出すのに相応しいものにしなければならなかったので。

みんなが見たいものを制作していく大切さ

――もし、『ガンダムW』に関する新たな映像企画がスタートするとしたら、今回のコンセプトを踏まえて作るべきか、あるいはもっと違う考え方が必要なのか、どちらだと思いますか?
岩澤 映像面においては、当時を思い出すような映像も、今っぽい処理をするのもどちらも正解だと思うんです。今回はあくまで30周年記念ですが、ひとつの新しい続編としての『ガンダムW』を出すとするならば、また別の発想が必要になるのではないかと思います。今回は、ルックとしてはかなり『エンドレスワルツ』に近づけてもらいました。やはり『エンドレスワルツ』って、あの当時の作品とは思えないクオリティです。近年でもあれだけ出来の良いアニメはなかなかないと思います。そこがひとつの基準点としてあったので。メカのアクションもひとつひとつがカッコいい。

――今回の作業を振り返ってどうでしたか?
岩澤 作業中から難しいなと思う部分は多かったですけど、あらためて考えても難易度は高かったですね。だから、視聴者の方々がここまでハマってくれて、高評価を得られるものになったのは素直にうれしいです。記念映像ですから、あまりに勝手なことをして、僕自身のエゴを出しても仕方がないですからね。TVシリーズにしても『エンドレスワルツ』にしても、これだけ好きな人がいるわけですから、自分の感性を過度に作品に反映するのは避けました。作品ならではの要素を大切にして、見たい人に向けて見てもらうのがいちばんだと思っていたので。とくに30年前の作品ですから、根強いファンの方に喜んでもらえるように。

――今回の制作は、岩澤さんのアニメに対する向き合い方にも影響を与えそうでしょうか?
岩澤 確信したのは、みんなが見たいものを作っていくことがいちばんだなということです。オリジナルではなく原作ものならば、その魅力を再現する、なるべくそのままを出していく。それは『葬送のフリーレン』も同じ気持ちでした。原作の要素からプラスアルファしつつ、原作で見たかったシーンを守ることが正解なのかなと。そういう王道的な演出は単純なので軽視されがちな要素ですが、王道には王道たる理由がある。もちろん、賛否両論を狙ってあえてそこを外すことも作品によっては必要ですが、「こういうものが見たい」に応えないと見てもらえない可能性も高いので。

――作品が持つ魅力と、何を見せたいかを意識した制作を念頭に置いておく。
岩澤 時代によって人が求めていくものは変わるにせよ、見たい人が見てうれしい映像を作らなければいけないとあらためて思いました。『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』はその筆頭じゃないですかね。「『SEED』ってこうだったよね」とちゃんと思い起こさせる映像になっていました。もちろん、新しいガンダムシリーズを制作するなら『水星の魔女』や『GQuuuuuuX』のような挑戦は重要ですし、それは求められているものだと思います。

――今回は周年を祝う記念映像として、その役割を果たせたのではないかと。
岩澤 そう思っていますね。記念映像を見て『ガンダムW』に触れてくれる人がいたらうれしいですし、『Frozen Teardrop』をはじめ、小説やマンガを追って見てみたいと思ってくださる人がいたら、今回における僕の任務は完了です。endmark

岩澤亨
いわざわとおる アクションディレクター/作画監督。『-Operation 30th-』においては、監督・絵コンテ・演出を手がける。近作に『takt op. Destiny』『葬送のフリーレン(第1期)』(アクションディレクター)、『チ。―地球の運動について─』(OPディレクター)など。
作品情報

Dolby Cinema®版『新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 特別篇』11月28日より1週間の再上映が決定!

原作:矢立肇 富野由悠季 
監督:青木康直
声の出演:緑川光 関俊彦 中原茂 折笠愛 石野竜三ほか
配給:バンダイナムコフィルムワークス

さらに「新機動戦記ガンダムW Endless Waltz 特別篇 4KリマスターBOX」が2026年3月25日(水)に発売!
30周年記念映像『新機動戦記ガンダムW-Operation30th-』も映像特典として収録。
<4K ULTRA HD Blu-ray&Blu-ray Disc>
価格:¥11,000(税込)
発売・販売元:バンダイナムコフィルムワークス

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