なにげない「ボヤキ」がOPアニメを手がけるきっかけ
――『Next Summit』でOPアニメの絵コンテ・演出を担当するに至った経緯について聞かせてください。
伊礼 本編では第7話Bパートの原画と第9話Bパートの演出を担当していますが、ちょうど第9話の演出をしていた際、ラインプロデューサーの藤田(規聖)さんと雑談していて、そこでポロっと「絵コンテと演出をセットでやりたい」とこぼしたのがきっかけです。
――第9話は演出のみの参加ですが、本当はコンテもやりたかったんですね。
伊礼 そうですね。当時、私が所属していたスタジオでの別仕事があって、時間的にも物量的にも厳しかったので手放さざるを得なかったんですけど、やっぱりどうせならコンテからやってみたかったという気持ちがあったんです。ただ、本編のスタッフィングはすでに固まっていたので、この作品でやれるチャンスがあるとは考えていませんでした。だから言ってしまえばボヤキのようなものですね。ところが、その数日後に藤田さんから「OPアニメが残ってるけど、やる?」と(笑)。
――本編は埋まっていたけど、OPはまだ空いていた。
伊礼 そうみたいなんです。ただ、OPやEDアニメは本編と違って脚本があるわけでもないですし、どう手を付けたらいいのかわからず、果たして今の自分にできるだろうかと一週間くらい悩みました。そもそも私自身、まだ絵コンテや演出の経験は数えるほどしかないんです。もちろん、ゆくゆくはOPアニメも手がけてみたいとは思っていましたけど、それはまだ先の話だと思っていたんです。
――でも、悩んだ結果、挑戦することにしたんですね。
伊礼 そこはもう「当たって砕けろ」です(笑)。振り返ってみると、初めて演出や絵コンテを手がけたときもそんな気持ちでしたし、「とりあえずチャンスがあればやってみよう」が私のモットーでしたから。
意識したのはあの名作アニメのOP
――OP主題歌(「想いのち晴れ」)を下敷きに作っていったと思うのですが、事前のプランはありましたか?
伊礼 楽曲が届くまでは、自分なりにいろいろと考えていました。個人的に『ヤマノススメ』シリーズでは『セカンドシーズン』で石浜真史さんが手がけたOPアニメが好きだったので、なんとなくそういう方向性をイメージしていたんですが、いざ楽曲が届いたらすごくテンポの速い曲で、事前に組み立てたイメージはすべてリセットされました(笑)。
――完成したOPアニメはカットの切り替わりも多く、ほぼ全キャラクターが登場したりと、「全部乗せ」で欲張りな内容だなと感じました。
伊礼 そういう印象を持っていただけたらうれしいです。曲のテンポが速いので、必然的にカットの切り替わりも速くなったのですが、うるさい印象にならないように意識しました。仕上がりには満足していますが、どこかでまだちょっとうるさい感じが残っている気もしていて、そこは見返していて恥ずかしく思ったりもするのですが(笑)。
――そうなんですね。とくにサビに入ってからのシーンで、家族がメインキャラクターたちを見送る視点というのは新鮮でした。
伊礼 そのシーンは自分でもチャレンジでしたね。こういう見せ方が映えるのかどうか不安だったんですが、オンエア後の反響をチェックしたところ、おおむね好評のようでホッとしました。じつはこの一連のカットは、最初はあおいとひなたのふたりだけの予定だったんです。でも、作画監督の河本(有聖)さんから「ここはもっと芝居優先で動かしたい」と言われて、それなら人数が多いほうが盛り上がるだろうと思って3人を追加しました。今思えば、メインキャラクター全員の家族側の視点が描けたので、そこがよかったのかなとも思いますね。
――かえでが駅の改札口へ向かっていく途中、ちょっとジャンプして両足をタッチするなど、キャラクターごとのお芝居も効いています。
伊礼 かえでのジャンプについては、一瞬ガニ股になるので、女の子の描き方としてはどうかな?という意見もあったんですよ。でも、個人的には「それもかわいいんじゃないかな」と感じて、悩んだ末にそのままGOしました。皆さんからもわりと評判がよくて、ここは自分の感覚を信じてよかったなと思います。
――小刻みにカットが切り替わるので、何度見ても新しい発見があるのも魅力ですよね。
伊礼 そうですね。山本(裕介)監督からもそうした方向性のほうがいいと言われて、そこは意識的に狙った部分です。私の中では『けいおん!』TVシリーズ2期のOPアニメが理想形なんです。1クール目と2クール目バージョンありますが、どちらもテンポが速くて見るほどに好きになっていくので、絵コンテを描いているときからなんとなく頭の中で意識していましたね。
とにかくうらやましいと思った「吉成劇場」
――他にこだわったポイントはありますか?
伊礼 サビの後半で、メインキャラクター5人が登山している姿のバックにサブキャラクターたちが描かれている一連のシーンは好きですね。本編では見ることのないシーンばかりなので、とくに描いておきたかったんです。
――あおい、ひなたの両親とここなの母(麻衣)の5人が談笑しているカットなどは、たしかに貴重ですね。
伊礼 あおいとひなたは幼なじみで親同士も面識がありますし、家族ぐるみでキャンプに行っていてもおかしくないんじゃないか……という私の妄想です(笑)。キャンプ以外でも、みんなで集まって庭でバーベキューしたりお酒を飲んだりとか、そういう家族同士のつながりがあったらいいなと思っていて、それがどうしても描きたかったんです。
――吉成鋼(よしなりこう)さんがひとりで手がけていたEDアニメも話題でしたね。
伊礼 いちアニメーターとして本当にうらやましいです。背景や仕上げ、撮影までこなしてしまう技術力もそうですが、なにより表現力がすごすぎますよね。本編も素晴らしいアニメなんですけど、この「吉成劇場」のおかげでそれまでの内容を忘れてしまうようなインパクトがあって。最後にすべてを持っていってしまう感じで、悪く言えば「ズルイな」って(笑)。
――伊礼さんにも「いつかはひとりで手がけてみたい」という気持ちはありますか?
伊礼 もちろん、あります。協業には協業の楽しさがあるんですけど、すべてをひとりで完結させる個人的な作品にも興味があって、ずっと夢見ています。だからいつかはチャレンジしてみたいなと思っていますね。
- 伊礼えり
- いれいえり 韓国出身。アニメーター、演出家。アニメーターとしての主な参加作品は『Re:ゼロから始める異世界生活』『リトルウィッチアカデミア』『メイドインアビス』『少女☆歌劇 レヴュースタァライト』『シン・エヴァンゲリオン劇場版』など。近年は絵コンテや演出としても活動の幅を広げている。