TOPICS 2024.05.01 │ 18:00

さとうけいいち監督に聞いた
TVアニメ『戦隊大失格』ができるまで①

悪の組織の戦闘員がヒーロー打倒を志して戦隊組織に潜入するという、異色のアンチヒーロー作品『戦隊大失格』。監督を務めるさとうけいいちへのインタビュー第1回目は、アニメ制作の方向性について聞いた。

取材・文/福西輝明 撮影/田川優太郎(CEKAI)

物語をブラッシュアップしてスピード感を出す

――アニメを制作するにあたって、原作を読んだ印象を教えてください。
さとう 海外ドラマ『ザ・ボーイズ』をはじめとして、国内外にはアンチヒーロー作品がいろいろあります。その中でも、悪者サイドの主人公が闇の部分を秘めた正義のヒーローに立ち向かう『戦隊大失格』は『ザ・ボーイズ』に通じるところがあったし、思いがけない方向に物語が展開するところに海外ドラマに近いイメージを抱きました。それで『戦隊大失格』のアニメを作るなら、全体のトーンを海外ドラマっぽいものにしたいと考えたんです。

――アニメの第1話は原作の内容をなぞりながらも、お話の時系列がアレンジされていました。これにはどんな狙いがあったのでしょうか?
さとう 「竜神戦隊ドラゴンキーパー」打倒のために、主人公である戦闘員D(以下、D)が大戦隊に潜入するところから物語が大きく動き始めるのですが、原作はそこにいたるまでの流れが少しスローに感じたんです。ただ、それは特殊な世界観や設定を読者に理解してもらいながら物語を展開するために必要なテンポ感であり、土台を作り上げるのに時間がかかるのは当然です。しかし、アニメは毎週20分強 という短い尺の中で、物語をどれだけドライブさせて視聴者を惹きつけるかがもっとも重要です。そのため、いろいろな要素を削ぎ落して面白い部分を抽出し、物語をブラッシュアップしてスピード感を上げる必要がありました。こうした物語のアレンジについては原作者の春場ねぎ先生ともやりとりを重ね、ご理解をいただきつつ進めていきました。

Dを中心とした物語として構成

――物語にスピード感を出すため、念頭に置いたこととは?
さとう 私がとくにこだわったのは、D以外のモノローグを全体的に減らす ことでした。私は、モノローグとは主人公のためにあるものと考えているんです。ドラマで主人公以外のキャラクターのモノローグが入ると、物語がその人物の視点に切り替わり、話の軸がブレる。だからD以外の人物が胸中で考えていることは、必要なもの以外は極力削りました。でも、他のキャラクターの心情を語る部分をすべて省略してしまうと、複雑な心理のやりとり自体がなくなってしまい、原作の持ち味が失われてしまいます。ですので、なるべくD以外のキャラクターの心情描写は「独り言」として口に出させるようにしました。それがリアリティというものではないかと。とくに『戦隊大失格』はさまざまな思いを秘めた登場人物が多数登場するので、可能な限りモノローグはDだけに絞り、Dが物語の中心になるように構成したんです。

――なるほど。
さとう また『戦隊大失格』は、物語の主軸となるサスペンス&ミステリー要素以外にも、「壮大なコメディ」としての一面もあると思うんです。大戦隊に潜入したDはドラゴンキーパー打倒のため必死に行動するのですが、大真面目にトンチンカンなことをやってしまったりと、シチュエーションコメディ的要素が散りばめられているんです。物語自体はシビアでシリアスなのに、Dがおかしなことをすることで張り詰めた空気がちょっと緩んで、シリアスに偏りすぎない。コメディ好きな私としては『戦隊大失格』のそういう部分が気に入っていますし、春場先生がシニカルな笑いの要素を大切にしていらっしゃるので、制作の際もコメディは大事な要素として扱っています。

戦闘員の会議は「先生のいない中学生のホームルーム」

――第1話は「日曜決戦」を描く導入&Aパートと、悪の怪人軍団の楽屋裏を描くBパートというかたちで構成されていました。この第1話を描くにあたって、とくにこだわったことは?
さとう 第1話では、戦闘員たちのわちゃわちゃした空気感を前面に押し出したいと思いまして。一般的に戦闘員たちは、本編ではもちろんですが、ヒーローショーやCMなどでも幹部や怪人にアゴで使われて、下っ端の哀愁を感じさせる存在として視聴者に愛されているじゃないですか。『戦隊大失格』の第1話で彼らを愛すべき存在として描くことができれば、Dのキャラクター性も主人公として立たせることができるだろうと考えたんです。その際に、戦闘員たちが幹部たちによって生み出されたのが13年前であることに思い至りました。つまり、彼らはまだ13歳、人間でいえば中学生なんですよ。それで第1話Bパートの戦闘員たちのやりとりを 「先生がいない中学生のホームルーム」みたいにすれば面白く演出できるだろうと考えたんです。まとめ役である先生=幹部がいないので意見を出し合ってもまとまらず、ぐちゃぐちゃの状態。そこにちょっと背伸びして斜に構えた生徒のようなDがなんやかやと口を出す、みたいな。

――Aパートの「日曜決戦」も面白い演出でした。
さとう Aパートは「日曜決戦」を超人気テレビ番組として、しっかり作り込もうと思ったんです。作品世界の中で「日曜決戦」がどれほどの巨大コンテンツとして人気を博しているかが伝わればと思って。ドラゴンキーパーのタイアップ商品やグッズ、Tシャツなどの関連商品を新たにデザインを起こして登場させ、作品世界の中でどれだけ人々に認知されているかを盛りに盛って描きました。これには 春場先生も喜んでくださいました。

――本作の音楽は『TIGER & BUNNY』で音楽を担当した池頼広さんが手掛けていて、また「日曜決戦」のレポーター役を太田真一郎さんが務めているなど、かつてさとう監督が手掛けた『TIGER & BUNNY』の中継シーンを彷彿とさせました。この演出は狙って作ったんですか?
さとう ヒーローが活躍するシーンの中継といったら、もうこれしかないと思いまして。私としては「『 TIGER & BUNNY 』を知っている人に伝わったらいいな」くらいのちょっとしたファンサービスのつもりだったのですが、思いのほか喜んでくださった方がいたようでよかったです。endmark

さとうけいいち
香川県出身。主な監督作は『 TIGER & BUNNY』(第1期)、『神撃のバハムート』シリーズ、『いぬやしき』など。また、『爆竜戦隊アバレンジャー』『忍風戦隊ハリケンジャー』といった「スーパー戦隊シリーズ」のキャラクターデザインも手掛けている。
作品概要

TVアニメ『戦隊大失格』
TBS系全国28局ネットにて毎週日曜午後4時30分から放送中!

  • © 春場ねぎ・講談社/「戦隊大失格」製作委員会