TOPICS 2021.04.26 │ 12:00

NOMAD メガロボクス2
森山監督&藤吉プロデューサーインタビュー

『あしたのジョー』を原案としながら、独特な世界観を見事に構築して高い評価を得た『メガロボクス』。その続編となる『NOMAD メガロボクス2』へと至る過程にどのような試行錯誤があったのか。ジョーの新たな戦いはどのように描かれるのか。監督である森山洋氏とプロデューサーの藤吉美那子氏(TMS)に聞いた。

取材・文/富田英樹

NOMAD メガロボクス2
原作・高森朝雄(梶原一騎)、漫画・ちばてつやによる ボクシングマンガ『あしたのジョー』連載開始50周年を記念して製作された『メガロボクス』。原案として『あしたのジョー』の要素が取り入れられているが、多くの部分でオリジナルの世界観を構築して、国内外で高い評価を得た。その続編となる本作『NOMAD メガロボクス2』では、メガロニア初代チャンピオンとなったジョーの放浪の旅と、その後の戦いが描かれる。

『あしたのジョー2』ではなく、『メガロボクス』の続編として

――前作『メガロボクス』は海外での反響が大きかったそうですね。
藤吉 クランチロールという配信会社で北米を中心に展開したのですが、2018年4月に始まった新番組のなかでは最多の再生数だったそうです。私自身、なぜそこまで人気が出たのか興味があり、現地での反応を聞いてみましたが、ちょっと昔のセル画アニメ風のビジュアルが受けているとのことでした。それが目を惹いたうえで内容も面白かったから、というシンプルな理由で海外の方に受け入れられたと聞いています。

――ちなみに男女比率や年齢層はどうだったのでしょう?
藤吉 男性が多いと聞いております。20~30代を中心として、40代までの男性が中心ですね。

――作品の人気と『あしたのジョー』の認知度は関係あったのでしょうか?
藤吉 それがあまり関係なかったようです。『あしたのジョー』の原作マンガは当然として、弊社で制作している過去のアニメ版も海外展開はしており、それは認知されています。ただ、『あしたのジョー』=『メガロボクス』という認識はあまりなかったようで、見た目が面白い近未来風のセル画調アニメ、新しいボクシングのアクションアニメとして見ていただけたようです。

――海外での人気は予想外だったのでしょうか? それとも当初から海外を意識していたのでしょうか?
藤吉 『あしたのジョー』という偉大な作品を原案としながらもオリジナル作品として新たに送り出す以上、まずはとにかく日本のお客様に面白いものとして受け入れてもらえることを目的としていたので、海外での高い評価というのはうれしいサプライズという気持ちでした。それに、海外市場を意識した要素やアイデアを入れていく作り方を『メガロボクス』のコアメンバーは良しとしないと思います。前作が大団円で終わっていることもあって、その続編をどういう内容にするのか。本当に自分たちで面白いと思える作品をお客様に提案できるかを最優先に考えてアイデア出しをしました。

――では、『あしたのジョー2』的な位置づけというよりも、完全に『メガロボクス』の続編なんですね。
藤吉 そうです。もともとは原案となっているマンガ『あしたのジョー』連載開始50周年という冠で『メガロボクス』が生まれたのですが、その『メガロボクス』の2期を作ろうという企画が出たときには、あくまで『メガロボクス』の続編という意識で着手しました。そうは言っても、原案としての『あしたのジョー』を傷つけるようなことのないように注意はしています。

――『あしたのジョー2』には強烈な印象を残すキャラクターが登場します。『メガロボクス2』にもそれを彷彿とさせるキャラクターが登場しますね。
森山 続編としてどういう物語にするかというアイデア出しの段階では『あしたのジョー2』的な要素を取り入れるという話もありましたが、進めていくなかでまったく違う方向になっていきました。たとえば、チーフというキャラクターがカーロス・リベラっぽいかなという印象があるかもしれませんけど、それを意識していたわけではなくて、結果としてああいうキャラになった。僕も含めて誰もそれに気がついていなかったというか、あまり自覚的ではなかったという感じです。

帰るべき場所を失い放浪を続ける、変わり果てたジョーの姿。

作品に流れるラテンのイメージ

――『メガロボクス2』ならではの新しい表現はありますか?
森山 前作は主人公であるジョーの生き方をもとに、彼の世界を描いていったのですが、今回はそれを広げて『メガロボクス』の世界を構築するそのほかの人たちにもスポットを当てています。作品世界を広げていきたいという思いがあったので、そういった世界観を広げるという試みが新しい要素になっているかと思います。

――ラテン系文化の印象が強いですが、たしかに前回の『メガロボクス』とも世界観がやや異なっているように感じます。
森山 そういった世界観の広がりが『NOMADメガロボクス2』をオリジナルの続編として意識したところと言えるかもしれません。前作はどうしても『あしたのジョー』という作品を念頭に置いて考えていましたが、今回はそれを切り離して考えられたのが異なる印象というものにつながっているのかと。あまり表に出している設定ではないですが、たとえば、南部贋作というキャラクターがいますが、彼も南米の血が入っているという設定があります。だから車のなかに十字架を飾っていたりする。僕たちの間でキャラクターを深めるための裏設定みたいなものですが、そういう細かな部分からもキャラクターの背景や世界観を広げていきました。

――森山監督が南米に興味を持ったのは何かきっかけがあったのですか?
森山 映画やドラマが好きで、近年では南米の麻薬関係のドラマやドキュメンタリー番組も非常に多く、そういった映像を見ることが多かったというのもあります。作中では日本では見られないような何もない荒野や砂漠のような場所が出てきたりしますが、それらも僕のなかでは南米であったり、メキシコやテキサスのイメージになります。普段から好きで見ているものの影響が強く出ているのだと思います。

――エンディングテーマ曲もスペイン語ですね。
森山 藤吉さんからも話があったように、作品を評価してくれる海外からの声を聞いていて、極端に海外を意識することはしないまでも、やはり世界中の人に見てもらいたいという気持ちはあります。だからキャラクターや作品のなかにいろいろな世界観を混ぜ合わせることで、映像としてより豊かになっていくんじゃないかと考えました。言語もいろいろと取り込んでいければ、という考えのもとで、今回はスペイン語や南米の文化を取り入れてみたということです。

物語序盤の主要人物、チーフ。

今作のテーマは「死」を描くということ

――『メガロボクス』のジョーは目的に向かって突き進む印象でしたが、今作でのジョーは大きく変化していますね。
森山 まず、続編であるならば、ジョーを主人公にするというのが作品のコンセプトになるだろうという考えにまとまっていきました。成長したサチオを主人公にするという方法などもありましたが、結局は番外編にしかならないだろうと。ただ、ジョーについては、彼の人生のなかの一瞬かもしれないけれど、前作でキッチリと描いたつもりです。だからジョーで次に何が描けるのかを考えたときに出てきたのが、人の死ということでした。キャラクターの死そのものは前作でも描いてはいましたが、実際に画面のなかで人が死ぬということ自体は描いていない。前作は生きていくことに重点を置いてそれをテーマとしていたので、今回は家族や身近な人が死ぬということをテーマに据えることで、前作とは違うジョーが描けるのではないかと考えました。

今作では登場人物たちの「死」が明確に描かれる。

――ちなみに、お気に入りのキャラクターやエピソードはどれでしょうか?
藤吉 私は1期も2期もサチオが好きです。キャストではサチオ役の村瀬迪与(むらせみちよ)さんだけが幼少期と青年期の両方を演じているのですが、私の一般レベルの知識では、この作品で女性が17歳くらいの男の子を演じるのはちょっと厳しいんじゃないかなと思っていました。仲間のボンジリやサンタは男性が声を当てるので、余計に浮いてしまうんじゃないかと勝手に心配していたのですが、音響監督の三好さんも、森山監督もそこは村瀬さんを信じて大丈夫だと言ってくださって。 実際、アフレコ現場ではもう声を聞いているだけでグッとくるようなお芝居で……なんだか本当にサチオと同化しているというか、村瀬さんの演技でさらに良いキャラクターになったと思います。
森山 続編に限って言えば、前半に登場するチーフや後半から登場するマックです。このふたりはとても魅力的なキャラクターになったと思っています。

――楽器も弾けるし歌も歌えるし、チーフはすごくカッコいいですよね。
森山 そうですね(笑)。それなりに年齢は重ねていて、ああいう枯れてはいるけど、まだ熱いものを秘めているというキャラクターがすごく好きなんですよね。

――最後に『メガロボクス2』の今後の見どころについて教えてください。
森山 今作から登場するチーフ、マックという新キャラクターが重要な存在になっていきます。物語の前半部分でチーフはいったん離脱していくというか、ジョーからは離れていきますが、なぜチーフを主軸にしたお話を前半に描いていたのかが後半での展開で生きてくる構成になっています。今回はジョーの贖罪というものがひとつの軸になっていますが、彼が進んでいく道のりのなかでチーフの物語が生きるような、そこにまた戻っていくような構造にしているので、続けて見てもらえると楽しんでいただけるんじゃないかと思います。

物語後半の主要キャラクターとなるマック。ジョーにどのような影響を与えるのか……?

藤吉 第5話くらいから前作のメインキャラクターたちがどんどん出てくるので、お話の展開もスピーディーですごく面白くなります。全体を通したテーマとしてジョーの過去にあった出来事についても、世間でよく言われるセカンドチャンスじゃないですけど、彼がこの先をどう生きていくかというテーマはいろいろな人に共感してもらえると思います。こういう内容は通常のアニメではあまりない渋いテーマですけど(笑)、そういう点では大人の視聴者の方にも楽しんでいただけると思っています。endmark

森山洋
もりやまよう。マッドハウス出身。小池健監督、荒木哲郎監督作品でビジュアルコンセプトなどを担当。代表作に『LUPIN THE ⅢRD 血煙の石川五ェ門』(プロップデザイン)、『進撃の巨人』(ビジュアルコンセプト)、『甲鉄城のカバネリ』(コンセプトアート)など。前作『メガロボクス』でTVシリーズ初監督を務め、本作が監督2作目となる。
藤吉美那子
ふじよしみなこ。トムス・エンタテインメント制作本部所属。『LUPIN the Third 峰不二子という女』や『劇場版それいけ!アンパンマン』でデスクを担当。前作『メガロボクス』」がプロデューサー初作品となる。
作品情報

『NOMAD メガロボクス2』
TOKYO MX、BS11にて放送中
各配信サイトにて配信中

  • ©高森朝雄・ちばてつや/講談社/メガロボクス2プロジェクト