Febri TALK 2021.12.24 │ 12:00

斉藤健吾 アニメーター

③ アニメにおける演出の力を実感した
『ハイキュー!!』

インタビュー連載の第3回で取り上げるのは、迫力の試合シーンが大きな反響を呼んだバレーボールアニメ『ハイキュー!!』。自身がアニメーターとして参加した際のエピソード、そして初めての監督作『空色ユーティリティ』に与えた意外な(?)影響まで、たっぷりと話してもらった。

取材・文/宮 昌太朗

「間」の演出によって、試合会場にいるような没入感が生まれる

――『ハイキュー!!』は『キルラキル』とも放送時期が近い作品でしたが、リアルタイムで見ていたのでしょうか?
斉藤 そうですね。『ハイキュー!!』は個人的に初めて「アニメが原作のマンガを超えた」と思った作品なんです。もちろん、原作も面白いんですけど、アニメはそれに輪をかけて面白い。とくに第1期の第24話は、主人公たちの烏野高校が青葉城西高校と戦うエピソードなんですが、そこでの演出というか、間の取り方がめちゃくちゃカッコいいんです。止めで見せている部分もあるんですけど、止めとカメラワーク、「間」の演出で緊張感が伝わってくる。監督の満仲勧(みつなかすすむ)さんのコンテ・演出回なんですけど、演出や「間」の大事さに気づかされました。この第24話は何度も見返しましたね。

――アニメにおける演出の力を実感したわけですね。
斉藤 当時の僕は演出をやったことがなかったので、演出がどういう仕事をするのかわからなかったんです。アニメーターだと担当するカットやシーンを作ることに集中してしまって、エピソード全体を見渡すことができないんですね。それが『ハイキュー!!』を見て、演出が画面をコントロールすることでこんなに緊張感が生まれるんだ、と思いました。1コマ、2コマを抜くか抜かないかという世界で、この「間」が大事なんだなと思えた作品です。

――斉藤さん自身がアニメの制作側にいたというのも「すごい」と思えた理由のひとつかもしれないですね。
斉藤 そうですね。じつは『ハイキュー!!』を見てから「間」が気になってしまって、他のアニメが見られなくなった時期がしばらくありました。「そのセリフの後ろ、そんなに空けるの?」とか「テンポめっちゃ悪いな」とか……。その点『ハイキュー!!』はテンポ感や間がすごくよくて没入感がある。他のアニメを見ているときが「テレビの前にいる自分」だとすると、『ハイキュー!!』は試合会場の観客のひとりになっているような感覚さえあったんです。

――実際、斉藤さんは『ハイキュー!!』に原画で参加していますよね。
斉藤 何話か参加していますが、体育館の中はすべて3Dレイアウトで作っているんですよ。そのレイアウトを原図として使ったり、相手からのボールをレシーブするシーンはキャラクターを描き替えるだけでいいように素材が用意してあったりする。 シリーズを通して、作り方が徹底しているなと感じました。

――クオリティを下支えするためのインフラが整備されているわけですね。
斉藤 さすが大きなスタジオが制作しているだけのことはあるな、と思いました。自分で演出をすることになって、『ハイキュー!!』から受けた影響をより実感するようになりました。年末にオンエアされる監督作(『空色ユーティリティ』)でも「間」にこだわりましたし、その予告編の作業でも「1コマ削って」「1コマじゃそんなに変わらないですよ!」「いや、変わるんだよ!」みたいなやりとりをしました(笑)。

第1期、第24話の

間の取り方がめちゃくちゃ

カッコいいんです

――自身の初監督作『空色ユーティリティ』の話も出ましたが、今後も演出を続けてみたいという気持ちはありますか?
斉藤 『空色ユーティリティ』は、初めてのことだらけで楽しかったのですが、まだまだ自分は絵が描きたいんだな、と思いました。もしも「演出と作監、どちらをやりますか?」と言われて選ぶとしたら、やっぱり絵の部分は手放せない。そこを誰かにまかせることはまだできないかなと思います。

――『空色ユーティリティ』では雨宮哲さんと一緒に絵コンテを描いていますが、絵コンテについてはいかがですか?
斉藤 絵コンテもまだ正解がよくわからないんです。原画のように「カッコよければいいんだよな!」とは思っていますが(笑)。もともと僕は、0から1を生み出すのがあまり得意ではないんです。高校生のときにアニメーターを選んだ理由のひとつは、マンガが描けなかったからなんです。ストーリーを作れなかったんですね。絵コンテは0から1を生み出す作業なので「この構図でいいのか?」「この流れでいいのか?」と、どうしても悩んでしまいます。専門学校時代にも絵コンテを描いたことがあるのですが、1分半の尺の絵コンテに1週間くらいかかってしまいました。

――「これでいいんだ!」と思いきることができれば、描けるようになるかもしれないですね。
斉藤 そうですね。『キルラキル』のときのように、自分の中で「これでいいんだ」というものがスッと落ちてくれば、絵コンテもできるようになるのかなと思います。とはいえ、今はまだ他のアニメーターさんが上げてきた絵に手を加えたり、絵をコントロールしたいという思いのほうが強くて。演出をやりたくないわけではないんですけど、まだまだ「かわいい絵を描きたい!」と思ってしまいますね。endmark

KATARIBE Profile

斉藤健吾

斉藤健吾

アニメーター

さいとうけんご 1988年生まれ。大阪府出身。専門学校を卒業後、アニメーターとして数多くの作品に参加。これまでに参加した主な作品に『アズールレーン びそくぜんしんっ!』『SSSS.DYNAZENON』など。初監督作『空色ユーティリティ』が2021年12月31日にオンエア予定。

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