TOPICS 2024.05.15 │ 18:00

祝・放送十襲年! 今石洋之と中島かずきが振り返る
TVアニメ『キルラキル』①

放送開始から十襲(周)年を迎えた、異色の学園バトルSFアニメ『キルラキル』。その監督・今石洋之と脚本・中島かずきによる対談をお送りする。第1回では、対談直前に行われた上映会のエピソードを起点に、本作に込めた制作陣の想い、そして今、あらためて『キルラキル』の魅力について語ってもらった。

取材・文/宮 昌太朗

マコは中島さんの脚本じゃないと存在しないキャラクター(今石)

――先日、十襲年を記念して、池袋・Mixalive TOKYOで上映会がありましたね。
今石 その上映会で1本、好きなエピソードを選ぶことになって、ちょこちょこと見返したんです。そうするとやっぱり「こんなのはもう作れないな」みたいな気持ちになりました。どの作品を作っても毎回思うことではあるんですけど、「あの当時だからこそ、作れたんだな」と。あまり計算していないというか――『天元突破グレンラガン』のときよりは計算しているつもりなんですけど、それでもまだ、当時のスタジオ(TRIGGER)の体力と作品がやろうとしていることが釣り合っていないっていう(笑)。当時の現場でできる量が10だとしたら、倍の20くらい発注している感じがある。まあ、だからこそ成長できたところはあるんですけど。

――ちなみに今石監督は、上映会でどのエピソードを選んだんですか?
今石 いつもなら「ベストエピソードを選んでください」と言われると、ちょっとヘンな回を選ぶんです。『キルラキル』で言えば、第四話(「とても不幸な朝が来た」)とか第十三話(「君に薔薇薔薇…という感じ」)とか。メインのお話をやったあとの、次の回を選ぶんですね。というのも、主力の回はコンテマンも作画監督も全力でやってくれるから、監督がそれほど手を入れなくても結構な仕上がりになる。だから、そうじゃない回のほうが自分で手を入れることも多いし、ヘンに思い入れができたりするんです。でも、今回の上映会に関してはやっぱり、ちゃんとした回を選ぼうかな、みたいな(笑)。
中島 それは、今石さんも歳を取ったということですよ(笑)。
今石 いやいや。あと、お客さんの人気投票で選ばれたエピソードも上映されたんですけど、それがちょっと想像と違ったんですよ。
中島 そうそう。人気投票だとマコが圧倒的に人気があって、第四話とか第七話(「憎みきれないろくでなし」)、あとは第二十三話(「イミテイション・ゴールド」)とか。

――それはちょっと意外ですね。
今石 第一話(「あざみのごとく棘あれば」)とか最終話(第二十四話「果てしなき闇の彼方に」)よりも人気がある。
中島 こんなことならマコなんか出すんじゃなかったなあ(笑)。
今石 えーっ! マコにいちばん思い入れがあったのは中島さんでしょう(笑)。
中島 いや、いちばんはすしおくんだよ。僕はあくまで客観的に大人の判断として書いていただけです(笑)。
今石 あはは。ただ、マコってやっぱり中島さんの脚本じゃないと存在しないキャラクターだと思うんですよ。言動を成立させている理屈が誰にも説明できない感じは、中島さんだからこそだよなって。

中島 いやいや、マコにはマコなりにロジックがあるんですよ。
今石 そのロジックの組み方が、常人の組み方じゃないんです(笑)。たしかに筋は通っているけど、そういう考え方を普通の人はやらないよっていう。
中島 いや、道を歩いていても、よくそういう会話をしている人がいるじゃないですか。「吉野屋に入る?」「いや、松屋のほうがいいよ」って言いながら、フレッシュネスバーガーに入っていく、みたいな。
今石 その会話に意味はあるのかと(笑)。

ここまで「遊び倒せる」作品はもうないかもしれない(中島)

――中島さんは上映会で見てどうでしたか?
中島 極めて知的に、ロジックを積み重ねた作品だと思いました。嘘です(笑)。それはさておき、さっき今石さんもおっしゃっていましたけど、TVシリーズでこれだけ遊び倒せることはもうないだろうな、とは思いますね。タイトルもそうだし、サブタイトルから予告編まで、自分の好きなことをとにかく詰め込んで、どこまで遊べるかやってみる。そういうところがありました。

――たしかに、中島さんの色が強く出ているシリーズのようにも思います。
中島 基本的に、他人の話を聞かない人しか出てこないんです。そういう我の強いキャラクターだけでどこまで話を進められるか、みたいなところがあったのですが、そういう作品ってスタッフや監督の理解がないとできないんです。今石さんはそこを理解してくれるし、こちらがどれだけキャラクターを暴れさせても、ちゃんと作品として定着させてくれる。……というか、あなたはそういうものを求めてますよね?と(笑)。今ものびのび書いていないわけじゃないですけど、これだけのびのび書けることは、もうないかもしれないなとは思いますね。

――10年前だからこそできた、という部分がやっぱりある。
今石 あと、時代もありますね。今はもう少し考えないと、作れないところはあります。それこそ肌の露出とか。
中島 満艦飾(まんかんしょく)家の描写は、僕でも抑えるだろうなと思いますね。たぶん今の子たちは、お風呂を覗く、みたいなことを許してくれないよなって。もし、お風呂を覗くシーンを作るとしても、もうちょっと丁寧にエクスキューズを作って――たとえば、お風呂を覗かないとこの人は死んでしまうんですよ、とか。この人は命がかかっているんです、さあ、あなたは彼を断罪できますか?みたいな(笑)。

――素直に、お風呂のシーンをカットすればいいんじゃないですかね(笑)。
今石 いやいや、カットはしたくないんですよ(笑)。
中島 あはは。ただ、そうやってロジックを積むだけ積んで、理屈を通したうえでやる風呂覗きのシーンが面白いかと言われたら、そんなに面白くないねって。それでカットする気はします。
今石 たしかに(笑)。

中島 やっぱり僕らが作っているのは商業作品なので、お客さんに見てもらいたいわけです。「わからない」と言われるのはしょうがないですけど、むやみな不快感は持ってほしくない。ただ、その一方で完全に無菌状態にしてしまうと、免疫力が落ちて、みんな死んでしまうわけで。だから、やっぱり我々があえて汚名を被(こうむ)って、有害なものを発信していく、という考え方もある。
今石 あはは。
中島 「これが人類の免疫のために必要なんだ」という高い志のもとにやる。決して理解はされないんだけど、でも俺たちは人類のために汚名を被って滅ぶんだ、と。そういう気持ちでやっていくという道もある(笑)。
今石 とはいえ、できることなら滅びたくはないです(笑)。endmark

今石洋之
いまいしひろゆき 1971年生まれ、東京都出身。大学卒業後、ガイナックスに入社し、アニメーターとして活躍。2004年に公開された劇場作品『DEAD LEAVES』で初監督を務め、その後も『天元突破グレンラガン』『プロメア』『サイバーパンク: エッジランナーズ』など、数多くの話題作を手がける。
中島かずき
なかしまかずき 1959年生まれ、福岡県出身。2010年まで編集者として働くかたわら、劇団☆新感線の座付作家としても活躍。2004年に『Re:キューティーハニー』で初めてアニメの脚本を手がける。最近の主な参加作に『BNA ビー・エヌ・エー』『バック・アロウ』など。
作品概要

『天元突破グレンラガン 対 キルラキル 展』
2024年夏に開催決定!!

  • ©TRIGGER・中島かずき/キルラキル製作委員会