TOPICS 2025.02.10 │ 12:00

安田現象監督が語る劇場アニメ『メイクアガール』に込めた哲学②

これまで数々のショートアニメを動画サイトに投稿し、CGアニメの世界で高い評価を得ている安田現象。自身初となる長編アニメ『メイクアガール』が1月31日に劇場公開された。天才的な頭脳を持つ少年・水溜明(みずたまりあきら)と、彼に生み出された人造人間“0号”の触れ合いを描くサイバーラブサスペンスである今作は、安田監督の人生哲学が込められている。インタビューの第2回は、主人公である明とヒロイン・0号の関係性の変化について尋ねた。

取材・文/福西輝明

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

0号が「家族」になるまで

――物語が進むにつれて変化していく明と0号の関係性について聞かせてください。まず、0号を生み出した明がさまざまな教育を施している物語序盤では、明は0号をどう見ていますか?
安田 序盤では、明にとって0号はサポートロボットのソルトと同等の存在でしかなく、自分と同じ人間とは捉えていません。0号を作ったのも、友人である大林邦人(おおばやしくにひと)の「カノジョを作ればパワーアップできる」という言葉を真に受けたからであり、明にとって0号は自分をパワーアップさせるためのパーツでしかない。だからこそ、人造人間である0号が自分よりも人間らしく成長していく姿に焦りを感じるようになっていくんです。

――物語中盤で焦りを覚えた明は、0号を家から追い出してしまいました。
安田 0号に対する感情が変化して研究に集中できなくなったため、0号を自分の周囲から排除しようとしました。これでようやく研究に集中できると思ったら、余計に雑念が生まれてイライラが募(つの)ってしまった。自分の研究のために0号を生み出したはずなのに、いつのまにか0号に依存し、彼女との生活に心地よさを覚えるようになっていたんです。0号に大きな影響を受けた明は少しずつ人間らしくなっていき、その結果として彼は先ほどのお話に出た「後者の人間」になってしまったというわけです。

――0号との生活で明は研究者としてはパワーダウンしたけれど、人間としては成長した、ということでしょうか?
安田 世間一般からすると、明の変化は「成長」といえますし、0号と過ごす日々はとても幸福だったと思われるでしょう。でも、当事者である明にとってはそうではなかった。だから0号を追い出すことにしたんですが、いなくなって初めて0号が自分にとってどれほど大切な存在だったのかを認識した。そして、0号と家族になることは自分にとって大きな幸せになると結論付けたんです。

――終盤で拉致された0号を助けに行く段階では、明は彼女を家族だと思っているんですね。

0号がプログラムから解き放たれた瞬間

――一方、明に対する0号の思いはどのような変遷を辿(たど)ったのでしょうか?
安田 もともと0号は明に「『好意的に該当する行動』をとらなければならない」とプログラムされています。当初、0号はそんな自分をソルトと同列の存在と認識していますが、明の友人である幸村茜(さちむらあかね)や邦人と過ごす中で「普通の人間」が持つ情緒を身につけていきます。やがてアルバイト先でも笑顔で接客できるようになり、傍目(はため)には普通の人間と見分けがつかなくなりました。そうした行動のベースには「大好きな明のため」という思いがあるんです。

――物語中盤で明に「家族」になることを拒絶された0号は絶望していました。これは彼女が人間らしくなったがゆえの苦しみなのでしょうか?
安田 いえ、「明と家族になりたい」という感情は、もともと稲葉によって最優先事項として組み込まれたものなんです。0号自身は稲葉の指令や思惑については知りませんが、最優先指令を達成できないことに無意識のうちに苦痛を覚えていたんです。

――最終盤で明が0号を救出して大団円かと思いきや、突然0号が明に反逆する展開には驚きました。
安田 0号のあの行動は明だけでなく、稲葉の思惑をも超えたものでした。明への好意をプログラムされていたにもかかわらず、彼の命を狙った。それは創造主の支配を乗り越えて、0号が初めて「人間」になった瞬間だったといえるんです。

3Dアニメでも心地よく見られるフレームレート

――今作はフルCGアニメですが、動きがとても自然で、まるでセルアニメを見ているような印象がありました。絵作りのうえでとくにこだわったことは?
安田 今作では3DCGアニメの「動きが気持ち悪い」と思われてしまうポイントを、徹底的に排除することを心がけました。3DCGだろうが手描きだろうが、表現手法としてそこに違和感を覚えさせない描写をすることが大事だと思うんです。だから今作では3DCGどうこうではなく、まず「お客さんに作品を見てもらえるステージ」へ仕上げることをとても大切にしました。先日、僕の個展に来てくださった方が「もともと3Dアニメは嫌いだったけれど、安田さんの作品を見てから好きになりました」と言ってくださった方がいまして。ああ、これまで自分はこのために頑張ってきたんだとうれしくなりました。

――たしかに『メイクアガール』を見て「3Dアニメはここまできたか」と思いました。私は動きがぬるぬるしすぎる3Dアニメは苦手なんですが、今作はとても自然でした。
安田 ありがとうございます。それはシーンによってコマ落としをしっかりしているためだと思います。フルフレームにして動きを気持ち悪くすることでホラー的な演出にすることは、ジブリ作品でもすでにやられていますが、フレームレートに工夫を凝らすことでさまざまな見せ方ができるんです。日本のフルフレームのアニメは、じつは2コマ打ち(1秒間に12フレーム)だったりしますが、これはCGアニメでも心地よく見られるバランスなんです。『メイクアガール』でも基本は2コマ打ちにしつつ、場面によって広げたり削ったりの塩梅(あんばい)を調節して見せるようにしました。

繰り返し見るとさまざまな発見が……?

――今作はさまざまな伏線が張り巡らされていて、繰り返し見ることで新たな発見があると思います。リピーターに向けて楽しめるポイントを教えてください。
安田 作中では明や0号、そして他の機械たちの目が黄色く光る瞬間があります。あれは、じつは稲葉の指令で動いていることを示しているんです。そのことを頭に置きながらご覧になると、新しい気づきがあるかもしれません。また、私のショートアニメの中に忍ばせている「メジェド」(安田現象氏のアイコンにもなっている)も、じつはいろいろなところに出没しています。たとえば、海中絵里(うみなかえり)が持ってきた少女マンガの裏表紙とか、コンビニの前にあるのぼりとか。他にも何カ所かあるので、メジェドを探してみてください。endmark

安田現象
やすだげんしょう 株式会社ゼノトゥーン所属のアニメーション監督であり、3DCGクリエイター。『呪いの人形シリーズ』や『巫女シリーズ』『銀髪ナイフの子シリーズ』などのショートアニメを多数発表。また、MECRE - ryo (supercell) feat. yoei. 『笑ウ二重人格』のMVも手がけている。
作品情報

全国の劇場にて公開中

  • ©安田現象 / Xenotoon・メイクアガールプロジェクト