第9話 覚醒
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虚淵 TVシリーズ3期でごまかしたところ……禍世螟蝗(カセイメイコウ)との最初の戦いで、浪巫謠が本気を出していたらどうなっていたのかというifを、夢の中でシミュレートされてしまう展開ですね。ホントに浪巫謠が人間を辞める気で暴れていたら、禍世螟蝗すらも危なかったかもしれない。そんな夢のシーンとリンクして休德里安を倒すというのは、相当難しい表現かなと思いながら脚本を書いたんですけど、そこは見事にタイミングを合わせて霹靂社さんがやってくれました。
魔人・浪巫謠の出番はオープニングとここだけ。人形がめちゃくちゃな代物だったんですけど、活かしきれなかったのが残念です。あの人形、じつは電飾されているんですよ。胸のクリスタル部分が内側から発光ダイオードで光って、レッド浪巫謠、ブルー浪巫謠、グリーン浪巫謠に変形できます……みたいな。すごいんだけど使い道あります?と思っていたら、案の定使わなかった(笑)。霹靂布袋劇の新たな可能性を切り開いてくれた人形なんですが。
崖を登りながらの殤不患と睦天命のやりとりのシーンは、シナリオだけだとロボの動きがどういう状況なのか判断に困ったみたいだったので、僕がアッセンブルボーグを適当に組んで動画で実演して見せました。アッセンブルボーグにスズランテープを通して「こんな風に腕が離れて、こんな風にひっついて、その繰り返しで登っていきます」って。ふたりの会話の内容は、大人だし、相手の事情も理解はしているんだけど、それはそれとして、こすらずにはいられない、納得していると思われるのは嫌だ……みたいな感じですかね。がっつりロッククライミングしているときにやることか?という気もしますが(笑)。
そうしたやりとりがある一方で、嘲風はますます気の毒なことに。完全にもう「頭おかしい人」扱いされてしまって。彼女も浪巫謠と同じ、ある意味、いじめがいのあるキャラではありましたね。まわりの人間の心がどんどん離れていってしまう。情念が強すぎて誰も理解者になってくれない。
あとは少年時代の殤不患……任少游(ニンショウユウ)は登場した段階で正体バレバレなんですけど、それでも別名をつけるのは霹靂布袋劇の伝統的なものみたいです。ぶっちゃけてしまえば、キャラとして商品展開をするときに名前がいるらしいんですよ。だから一応、別名がつく。あの人形の造形は、候補をいくつかもらって最後まで悩みました。
第10話 託された心
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虚淵 裂魔弦(レツマゲン)が登場し、晏熙も久々に出てきて、そしていよいよオープニングで白蓮(ビャクレン)が持っている剣が話に絡んでくる。この話数はそのあたりも含めて、最終章への布石が多いです。全部、ちゃんと謎が明かされますので、そこはご安心いただければ。
禍世螟蝗と異飄渺(イヒョウビョウ)の姿をした凜雪鴉のやりとりは「何をするかは見通しがついているから全然いいよ」みたいなことですね。「お前、世の中に飽きて楽しみを求めているだけだろ? そこは満足させてやるから、部下でいるといいよ」と。禍世螟蝗は、こうやって相手が飢えているものを与えるというかたちで、ずっと忠誠を勝ち取ってきた人なんでしょうね。
第11話 魔王の秘密
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虚淵 魔王が登場して、ここでようやく窮暮之戰(キュウボノセン)とは何だったのか、魔族が何を考えていたのかが明かされます。結局は魔族の価値観なので「仁の心」というものを、あくまで戦略的なものとしか見ていない。人間に対して魔王がいちばん恐れたのがそこだったということなんですね。その場その場の楽しみしか求めない魔族は、人間に一瞬しか勝てないぞ、長い目で見たら負けてしまうぞ……と。
そんな魔王を知ることで、凜雪鴉の歪みの根幹が見えてくる。要するに、徹底した自己愛しかないヤツだということなんですよ。世の中でいちばん悪いヤツは、おそらく自分だろうと思っている。だから、そんな自分の鏡像を相手に策を張り巡らせたら、それは最高の悪党を相手にすることだから絶対楽しいよね……みたいに考えるわけです。つまり、凜雪鴉は自分と同格の邪悪を求めて、ずっと地上をさまよっていたということなんです。根本的に自分しか見ていなかったヤツ。他の人間は、それこそおもちゃとしての面白さでしか測らなかった。そこが凜雪鴉の芯みたいなところですよね。
最終話 魔族の誇り
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虚淵 もうここまで来たら「とにかく鬱憤を晴らすぞ!」「バトルするぞ!」と。11話まででストーリー的な要件は果たして、あとの決着は最終章に持って行けるので、ひたすら戦う。ある意味では、もうこの12話(最終話)から最終章が始まっているくらいな感じもあります。最終章の入りのシーンにもできそうな内容ですね。
細かいところを見ていくと、嘲風はもう親の正体が何であれ、浪巫謠を追いかけられるならなんでもいいというスタンスですね。その浪巫謠ですが、雪山で氷の彫像になって終わるというのは結構初期から考えていたアイデアです。ここをTVシリーズ4期の締めにしよう、と。そこはぶれずにできましたね。彼の心象風景のいちばん根っこのところまで差し戻って、そこで自分を閉ざしてしまって終わろう、と。
浪巫謠に関しては、西川貴教さんの芝居も素晴らしかったです。連ドラに出たり、舞台に立ったり、歌以外の活動にも積極的だったタイミングに、たまたまこの『Thunderbolt Fantasy Project』への出演が噛み合った。うめいたり叫んだりというのは、じつはいちばん難しいところですからね。そこはロックシンガーだからこその声量、迫力でがっつり支えてもらって。もう本当にバッチリな演技をしてくださったのが、とてもありがたかったです。
- 虚淵玄
- うろぶちげん 株式会社ニトロプラス所属のシナリオライター、小説家。『魔法少女まどか☆マギカ』『PSYCHO-PASS サイコパス』『仮面ライダー鎧武/ガイム』『楽園追放 -Expelled from Paradise-』『GODZILLA 怪獣惑星』『OBSOLETE』など、数々の映像作品の原案や脚本を手がける。