驚きを隠せなかった第1話の冒頭
――まず、『タイバニ2』に参加した経緯を教えてください。
加瀬 最初はプロデューサーから依頼を受けたのですが、そのときにはシナリオやデザインがある程度完成している状況でした。なので、そのとき決まっていた構成から大きく外れないようにするのが私の役目だと思いました。もともと、私は『タイバニ』のファンだったんです。監督になることが決まってから見返したのですが、第1期であるTVシリーズから劇場版までを関わっていない立場として満喫して(笑)。そこから『タイバニ2』のシナリオをあらためて読み込み、今回の方向性をつかんでいきました。
――『タイバニ2』の特徴をどのように捉えましたか?
加瀬 私がシナリオでいちばん驚いたのは、第13話のクライマックスにあたる戦闘シーンが、第1話の冒頭に入っていたことです。当然、第1話の制作段階では第13話の制作には取り掛かっていないので、この戦闘シーンをどのように見せていくのかはけっこう悩みました。作業としては、第1話の冒頭で流れたシーンのみ先行して作ることになったのですが、シリーズ構成と脚本、ストーリーディレクターを担当された西田(征史)さんも「(冒頭のシーンは)13話にもちゃんと収録されますか?」と心配されていましたね。
――そういった構成上のチャレンジが制作現場的にも頭を悩ませたと。
加瀬 そうですね。あとはシナリオをすみずみまで読んで、今回目指す方向性と齟齬(そご)がないようにすることを心がけました。設定制作やデスクの方々に協力していただき、最終的には西田さんにも絵コンテなどを確認してもらってOKが出てから実際の作画作業に入るような流れでした。
――デザイン的な部分では、キャラクターデザイン、ヒーローデザインを手がけている桂正和さんが、キャラクターの服装やヒーロースーツをリニューアルしています。
加瀬 初めて『タイバニ2』のキャラクターを見たときは「ちょっと若返りしたかな」と思いました。劇中では数カ月の違いなので、本来は大きな差は出ないはずなんです。ただ、いろいろな事件を経て、みんなすっきりしたというか、新しい「HERO TV」をやるぞという雰囲気が出ていますよね。作画的には、服装のデザインにけっこう細かな修正がありました。
――どのような部分でしょうか?
加瀬 たとえば、今回の虎徹の服にはボタンがたくさんついているのですが、ボタン自体はジャケットではなく、下に着ているジレ(ベスト)についているんです。なので、ジャケットを脱いでもボタンが見える。そういう服装のパターンを話数ごとに細かくチェックする必要がありました。
――そのあたりは続編である『タイバニ2』として装いを新たにしたということですね。
加瀬 はい。ロボットものにたとえると、2クールが終わったあとにロボットの合体パターンが変わったり、パーツが少し変わったりするのと同じ現象ですね(笑)。見た目を変えると、視聴者としても新しいシリーズだと認識できるので。ヒーロースーツもディテール自体は増えていますが、ひと目でバーナビーやワイルドタイガーだとわかるように、第1期のフォルムに近いイメージになっていますね。バーナビーには「口」が追加されたのがポイントです。
「ただいま」と言えるようになったバーナビーの変化
――『タイバニ2』でのシステム上の大きな変更点としては、ふたり1組のバディシステムが取り入れられたことです。
加瀬 そこはあまり悩むことなく、すっとなじんでいきました。どのバディも面白くなっていて、とくにライアンは新しい側面が見せられて良かったです。カリーナとの「カップルじゃない男女コンビ」なのですが、ライアンがカリーナをあたたかく見守っている様子がすごく良いですよね。
――キャラクターを演出していくうえで『タイバニ2』ならではの描き方はありましたか?
加瀬 キャラクターの感情描写でいえば、作画参考用のキャラクター表には、あまり崩した表情は描かれていません。それがひとつの基準になっていて、それ以上に顔を崩す場合には、アニメーションキャラクターデザインの板垣(徳宏)さんに「このシーンではこの辺までやっても大丈夫?」と確認しながら進めました。
――主役である虎徹とバーナビーの描き方で変化させたところはありましたか?
加瀬 ふたりの関係性は、これまでいろいろなことを乗り越えているのであまり変わっていないですね。ただ、バーナビーの部屋はそれまですごく簡素だったのに植物が増えて。それに「ただいま」を普通に言えるようになったのは彼の変化を示していると思います。
――バーナビーの精神面での成長が描かれている。
加瀬 そうですね。一方で虎徹は子育ての部分で悩みが大きくなっていて、そちらにスポットが当たっていますね。
――他にメインキャラクターたちの中で変化を感じた部分はありましたか?
加瀬 アントニオには、カッコいい見せ場が多かったように思います。あとはパオリンですかね。これまでいちばん年下だったのが、彼女より若いラーラとバディを組んだことで、良い部分や成長を引き出しやすくなりました。
――キースが抱えるヒーローとしての孤独も描かれていて、これまで以上に各キャラクターの人間性が深く掘り下げられていたように感じました。
加瀬 それもバディシステムが大きく作用したように思います。バディという枠があると、相手が自分を引き上げてくれる代わりに、自分も相手を引き上げようとする気持ちが必然的に生まれるじゃないですか。もちろん、その過程では良い面だけでなく、マイナスな部分が描写されることもありましたけど、それも彼らの人間的な魅力につながっていったのかなと。シナリオ的にも、最後はヒーロー全員で危機に対処していく形になるので、それぞれの絆を映す土台として、バディという関係性が機能していたと思います。
- 加瀬充子
- かせあつこ 福島県出身。アニメーション監督、演出家。1970年代からアニメーターとして活動を開始し、数々のロボットアニメ、バトルアクションアニメに参加。監督作に『機動戦士ガンダム0083 STARDUST MEMORY』(第7話まで)、『最終兵器彼女』、『ヤング ブラック・ジャック』などがある。