TOPICS 2021.06.18 │ 12:00

機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ特集(全5回)
監督・村瀬修功インタビュー①

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』で監督を務めたのは『虐殺器官』のアニメ映像化を手がけ、『新機動戦記ガンダムW』や『機動戦士ガンダムUC』にも参加してきた村瀬修功。富野由悠季の小説を映像化するという作業に、どのように向き合ったのだろうか。前・後編のインタビューでお届けする。

文/森 樹

富野さんから「内容に関しては何も聞くな」と言われました

――今回、監督に就任した経緯を聞かせてください。
村瀬 サンライズの小形尚弘プロデューサーからの依頼でした。

――『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ(以下、閃光のハサウェイ)』は、富野由悠季氏による小説です。この小説を映像化すると聞いたときはどのような印象を受けましたか?
村瀬 『閃光のハサウェイ』は、もともとサンライズでの映像化を前提としていない状況で書き下ろされた富野さんの小説です。それから時代が移り変わり、サンライズが自発的に映像化に取り組もうという流れがようやく生まれたのかなと思いました。

――どのようなコンセプトをもって映像化に取り組んだのでしょうか?
村瀬 まずは富野さんのところに、映像化の監督を手がけるということで挨拶に伺いました。そのときに「内容に関しては何も聞くな」と言われまして(笑)、以降、本当に何も聞かないまま進めています。ただ、お会いしたときに2本ほど映画を見せていただいたんです。「こんな映画にしたい」と。それはアジア圏で製作された実写映画で、1本は『閃光のハサウェイ』と同じく、男ふたり、女ひとりが主役の物語でした。最初は真面目にそのニュアンスやスタイルを当てはめつつ、調整するようなことをやっていたのですが、そもそもの世界観やジャンルが違うのでうまくハマりませんでした。そこで脚本のむとう(やすゆき)さんとも話し合い、小説の内容にかなり戻した形ですね。

キャラクターはガンダムらしいラインにアレンジ

――今回はpablo uchidaさんによるデザインワークスのほか、絵コンテから重要な場面をビジュアルに起こしたカラーキーも制作されています。これまでのガンダム作品にはなかったスタイルです。
村瀬 カラーキーに関して言えば、サンライズが積極的にやっていなかっただけだと思います。各セクションがバラバラにイメージしたものをまとめても空間的ライティングとしてはひとつにならないので、イメージを統一する必要がありました。しかも今回はuchidaくんという天才的なデザイナーが参加してくれたので、そのビジュアルセンスを使わない手はないなと。ただ、それをまた現場に落とし込む難しさもあったので、今後はきっちりと体制を整備していかねばと思いました。

――キャラクターデザインにはuchidaさん、恩田尚之さん、工原しげきさんが参加していますが、ケネスをはじめ、大幅なアレンジが加えられています。
村瀬 キャラクターに関しては、ガンダム作品らしいラインというものがあるじゃないですか。小説でキャラクターをデザインされた美樹本晴彦さんも、小説とゲームでテイストを変えていたので、ある程度ガンダムらしいラインにアレンジしています。ハサウェイはほぼ変わらないですが、ケネスは今回の映像に合わせたイメージに、ギギも小説では10代半ばの設定ですが、あの役柄を映像として表現しづらいので年齢を上げました。実際のアレンジは主にuchidaくんにお願いし、「自分のカラーを出していいよ」と伝えました。恩田さんの手によるアニメーションデザインも含め、いいバランスのリアルなキャラクターになったと思います。

メカのベースはCGで、必要なところだけ描いています

――メカに関しては、CGモデルを使っていますね。
村瀬 CGを使うことになったのは物理的な問題です。私もアニメーターですから、ユニコーンガンダムと比べても2倍以上の線があるΞ(クスィー)ガンダムとペーネロペーを縦横無尽に動かすのはムリだというのはわかりました。なので、ベースはCGを使いましょうと。あとは必要なところだけ加筆して、どうしても描きたいところは描く形で進めています。制作の終盤では、CGを使って進めた絵コンテもあったので、そういう意味では新しい作り方にもなっていますね。

――CGモデルをどう動かすかにも時間を要したのではないでしょうか?
村瀬 CGモデルのデザイン決定がギリギリまで遅れてしまったのもあって、アニメーションを詰め切る時間がなかったという反省と課題は残りました。

――とはいえ、『機動戦士ガンダムUC』『機動戦士ガンダムNT』を手がけてきた第1スタジオの制作陣ですし、カトキハジメさん、中谷誠一さん、玄馬宣彦さんなど、一線級のメカデザイナー/アニメーターが参加しています。
村瀬 そうですね。それだけの方々が参加されているので、逆に「ガンダムならこれをやっちゃいけない」という線引きを調整するのに多少時間がかかりました。デザインに関しては小説からデザインを変える案も出したのですが、カトキさんから小説版とゲーム版を両立したデザインを作りたいとの意見もあったので、その方向性でまとまりました。

――メインキャストの3名は揃ってアフレコを行ったとのことですが、事前に物語について丁寧に説明したそうですね。
村瀬 これまでは、アフレコ前に物語を説明するようなことはやっていませんでした。原作物の場合、役者さんの作ってきたイメージをベースに微調整させてもらう感じで。ですが『閃光のハサウェイ』の場合、前日譚となる『機動戦士ガンダム 逆襲のシャア』が小説と映像でストーリーがパラレルになっていることもあり、映像化にあたり取捨選択、アレンジなども加えています。ですから、ハサウェイのキャラクター像はこういう風にしたいという映像側のイメージを小野賢章さんにお伝えしました。最初は5~10分の予定だったのですが、気がついたら1時間半くらい話してしまいましたね(笑)。ギギも捉えどころのないキャラなので、上田麗奈さんには映像にするにあたって付けた方向性を、またケネス役の諏訪部順一さんも含めてお三方に、今後の展開から逆算する形でそれぞれのキャラクターの方針を伝えさせてもらいました。

初めて『ガンダム』を見る人にも楽しめる内容に

――そうした難しい調整を乗り越え、『閃光のハサウェイ』の第1部が完成したわけですが、作り終えての感想を聞かせてください。
村瀬 CGパート、手描きパートのミックスも含め、作画のデジタル化が遅れていたこともあり、現場的な苦労やロスは多くありました。撮影や仕上げはデジタルに移行しているので、もう少し環境を統一できれば進めやすくなるのかなと思います。物語としては1本目はすべての発端でしかないので、キャラクターの関係性がどうなっていくのかも、事の真相もまだ何もわからない状態です。また、小説の映像化としていちばん難しいところなのですが、小説を未読の方がどういう風に見てくれるのかをつねに考えていました。『ガンダム』を見ていない、もっと言えば『逆襲のシャア』を見ていない方に楽しんでもらえるにはどうすればいいのか。もともとのオーダーとしても「ガンダムファンも、これまでガンダムに触れてこなかった人にも伝わる内容で」というものだったので、それを両立させることを目指しました。

――初めて『ガンダム』に触れる人にも楽しめるように。
村瀬 なので、今作でハサウェイ・ノアに出会った人でも物語を追っていけるように『閃光のハサウェイ』は構成したつもりです。そんな方たちにこの作品がどのように捉えられるのか、今はすごく興味がありますね。endmark

村瀬修功
むらせしゅうこう。アニメーション監督、演出家。監督作に『虐殺器官』『Ergo Proxy』『GANGSTA.』など。映画『ブレードランナー2049』に連なる『ブレードランナー ブラックアウト2022』のキャラクターデザイン、作画監督、原画なども手がける。
作品情報

『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』
2021年6月11日(金)全国ロードショー

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