第1話 帰郷
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虚淵 TVシリーズ4期のシナリオは、各陣営の話の流れを先に書いたうえで、あとから編集して各話に内容を分散させました。海外ドラマの『ゲーム・オブ・スローンズ』を意識していたんです。あの作品のシナリオが実際にどのように書かれていたかはわかりませんが、バラバラな話がバラバラな場所で進んでいくやり方が面白いなと思って取り入れてみました。
1話は魔界の実情を語る、設定開示に終始した印象ですね。バトル要素も模擬戦みたいなところで終わり。でも、そこは花無蹤(カムショウ)と霸王玉(ハオウギョク)の本来の武器が見られる貴重なシーンではあります。それ以降は、与えられた神誨魔械(シンカイマカイ)ばかりを使うようになるので。花無蹤のナイフなんて、使わないのがもったいないくらい凝った作りなんですよ。
魔界の民衆が苦しんでいる様子は、魔王の為政者としての邪悪さが端的にわかるところだと思います。国体としての先を見てはいるんだけど、将来のための犠牲はまったく惜しまない。一種のディストピアですよね。国の栄光を的確に見据えてはいるけれど、そこに至る筋道で人が流す涙は一切、斟酌しない。そんな管理社会なんです。そうした社会を築いている意図は、11話で魔王の口から明らかになるんですけれども。
第2話 魔界の宴
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虚淵 この話数では1話で語り損ねた、他の陣営のお話を進めるうえでの下準備をしています。丹翡(タンヒ)が何をやっているのかを見せたり、晏熙(アンキ)殿下が顔を出したり、東離の政治がどうなっているのかを描いたり、ですね。
魔界では浪巫謠(ロウフヨウ)のパートがいよいよ動き始めます。浪巫謠が徐々に魔人化していく過程は、霹靂社さんが見事にやってくれました。あの身体変化は、もともと「魔族にはみんな角がある」というデザイン上の縛りがふんわりとあって、それを踏まえたものです。ちなみに刑亥(ケイガイ)の角って、髪をまとめているんだか角なのか、どっちつかずに見えるんですけど、じつはあれは髪をまとめているんです。これはコミカライズから取り入れたアイデアなんですけど、たぶん、彼女の角は本当はもっとちんけなんですよ。なので、髪を結って、大きな角を装っている。そんな裏設定が、あの角にはあります。
あとは安索亞特(アンサァト)のおもてなしも、ちょっとした見どころですね。食べたくない食事の山……目玉の入っているうどんとか、そういうの(笑)。あれは美術の人たちが本当に頑張ってくれました。この作品の食事シーンへのこだわりは、こんなところでも発揮されています。
第3話 侠客の決意
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虚淵 ここから殤不患(ショウフカン)がやっと活躍し始めますね。ここまでは、酒を飲んでくだを巻いてばかり。殤不患が合流するまでに、魔界ではこのくらいまで話を進めておかなければ……と、1話のコメントで言った各陣営ごとに話を進めるやり方で、物語のペース配分を考えて出番を各話に割り振った結果、こうなってしまいました。物語の展開のために、殤不患が割を食った感じですね(笑)。
あとは魔宮貴族の迦麗(キャレイ)が、バトルシーンを挟みづらかったTVシリーズ4期の中で、ひとつ見せ場を作ってくれていますね。せっかくなのでここで説明しておくと、魔宮貴族というのは極端な話、悍狡(カンコウ)を殺せばそう扱われるんです。悍狡より弱いのが庶民、悍狡を殺せると貴族の最初の序列、男爵クラスになれる。そこから先は、劇中の描写にはないのですが、どれだけ武勲を立てるか、力の証明を立てたかで地位が上がっていくんです。だから浪巫謠も、貴族の血族だからといって最初は厚遇されない。でも、力の証明ができた途端に、刑亥がへりくだり始めるという。魔界はそういう、すごく歪んだ実力主義の社会なんだと思います。それを魔王が方針を変えて「仁の心を育め」とかめちゃくちゃなことを言い出すので、魔族本来の価値観も否定され始め、さらに歪みが生じていくわけです。
天工詭匠(テンコウキショウ)の仕掛けていた罠が容赦ないのは、アクションができないおじいちゃんの強さをどうアピールするかを考えて、ああいう描写になりました。過激な罠を仕掛けても、睦天命(ムツテンメイ)の聴覚は労(いたわ)っているところも込みで、キャラクター性が出ています。ゴア描写に関しては『西幽玹歌』の終盤もそうでしたが、霹靂社さんならではの勢いですよね。モブには何をしてもいい(笑)。やっぱり南の国のゴア描写はすごいですね。東南アジアのホラー映画とか「血のりの量、おかしくないか?」みたいな勢いがあるというか。暖かい国ほど、ゴア描写にカーニバル感が生じるんですかね。
第4話 奇巧対決
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虚淵 霸王玉が単に「力自慢」だけだと、神蝗盟(シンコウメイ)という魔術結社の法師というすごみを出しづらいなと思って、彼女に与えられた魔術の力として「骨噛の秘術」という、食べたものの力を奪う能力を見せました。その設定があるから、霸王玉はどこにいて、何が出てこようとも食うんです(笑)。
鬼奪天工(キダツテンコウ)と天工詭匠の奇巧対決に関しては、もう霹靂社さんにやりたい放題にやってもらいました。実現するかどうかはまだわからないんですけれども、このふたりの過去に関して何らかのかたちで書けないか、分解刑(ニトロプラス)と相談しています。
とんでもない技術で世の中を変えてしまおうと企んでいた鬼奪天工と、師匠の言いつけを守って、趣味ではやりたい放題やるけど、世に出さないように隠しておこうと考えていた天工詭匠。その考え方の違いで、ここまで関係がこじれたということなんでしょうね。
あと、この話数で言うと「迦麗は魔宮七位という、幹部クラスの中ではそれほどの序列でもないのに、浪巫謠を相手に随分粘ったな」と感じた人がいるかもしれませんね。魔宮貴族の序列って、位付けをされてはいるものの、私闘は禁止という時点で魔界の価値観からしたら矛盾しまくっている制度なんですよ。だからあいつらには内紛が絶えない。みんな、その地位に釣り合った強さだと本当は思っていないし、実際、位付けというのは加盟順ぐらいのものなので、まったく内実とそぐわないんですよね。
ちなみにあいつらが奪い合っている魔宮印章は、この世界に魔人をいっぱい招き寄せたときのキーアイテムの残りでしょうね。それが今は残り8本しかなくて、これを魔王が預けた8人が「魔宮貴族」として別格に扱われている……みたいなことかなと。だから先ほど説明したみたいに、定義の上での魔界の貴族たちはもうちょっといたんだと思います。
- 虚淵玄
- うろぶちげん 株式会社ニトロプラス所属のシナリオライター、小説家。『魔法少女まどか☆マギカ』『PSYCHO-PASS サイコパス』『仮面ライダー鎧武/ガイム』『楽園追放 -Expelled from Paradise-』『GODZILLA 怪獣惑星』『OBSOLETE』など、数々の映像作品の原案や脚本を手がける。