第5話 魔宮貴族
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虚淵 睦天命と嘲風(チョウフウ)はいずれどこかで会って、つばぜり合わなきゃいけないふたりだろうなというのはありました。浪巫謠の保護者ふたりと言いますか、同担拒否のファン同士と言いますか。
どちらも浪巫謠に向けているのは「母性」ではあるんでしょうね。ただ、それぞれの母性の働き方が真逆であるが故に、衝突してしまう。どちらにとっても「浪巫謠は放っておけない危うい人である」という見え方は共通しているんですよ。でも、そういう人とどのように接するかは違う。可能性を信じたうえで、ひとりで立てるように見守っていこうという睦天命と、徹底して自分が保護して管理しないとどうなってしまうかわからないと考える嘲風とで食い違うんだと思いますね。このくらい食い違わせてしまうぐらいに、浪巫謠が魔性の男でもあるんでしょう。
この回では凜雪鴉(リンセツア)と浪巫謠の再会もありますね。たぶん、こいつらがふたりだけで出会うと、あっという間に殺し合いになっちゃうんですけど、お互いそれどころじゃない場面でばかり顔を合わせるので、なんとか穏便に済んでいるというところです(笑)。
第6話 謀略の渦
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虚淵 この話数では阿爾貝盧法(アジベルファ)のお城の中をがっつり描写してもらいました。彼が部屋に飾っている絵とか、結構お気に入りだったんですよ。向こうで作ってもらったんですけど、いい絵があがってきて。だから、これをどう印象的に見せるかというところで、会議室で少し揉めたりしました(笑)。「もうちょっとこの部分を見せたいんで、画面のいいところに置けませんかね?」みたいな話をずっとLINEでやりとりしたのを覚えています。
それだけいろいろこだわってもらったセットを壊しながらの派手な大立ち回り。やっぱりこういうのが屋内戦の華ですよね。「カンフーものといえば、物は壊れまくるものだ」みたいな。
安索亞特の多脚は、源覚の描いたデザインをちゃんと活かそうとしてくれたのがうれしかったですね。脚をぶら下げているだけかと思いきや、ちゃんとワキワキ動きまくるという。あれは、何人かで下で操演しているんだと思います。あと安索亞特といえば、お面をかぶっていますけど、中の顔をどうするかで議論になったりもしたんですよ。「もうちょっと肌の色を悪い感じにしたい!」とか(笑)。魔宮貴族で唯一、リテイクを出したキャラクターです。そういうところに、どうもこだわってしまうんです。結局は口元までしか映りませんでしたけど、でも、だからこそ、こだわることで際立つものがあるんですよね。
第7話 魔道の果て
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虚淵 阿爾貝盧法がしゃべりまくるシーンのある回です。ストーリー的には停滞するんだけど、情報量は妙に多い。シナリオライターが仕切ったお話、という感じがしますよね。通常のアニメだったら、もうちょっとわかりやすい「見ごたえ」を配置したいと考えると思います。そこを語りで押し切ってしまう。霹靂布袋劇ならではの画面の情報量の多さがあってこそ成立したエピソードではないかと。
阿爾貝盧法の語りに関しては、これはもう、ほぼほぼ演じてくださった三木眞一郎さんの引き出しによるものです。台本を読み込んだうえで、布袋劇の人形の動きとキャラクター性の落としどころとしてあのしゃべりが出てきたと思うんですけれども、こちらとしてはもう「何も文句ないわ、これ……」という気持ちでした。素晴らしかったです。別作品でお仕事したときもそうですが、どうも自分は三木さんにガツッと観念を語るシーンをお願いすることが多い気がしますね。
この段階で殤不患は地下に向かうんですけど、ここはじつは、たまたまTVシリーズ2期で誅荒劍(チュウコウケン)を持たせていたおかげでうまく展開できました。あれがなかったら、どうやって降ろそうかと頭を抱えるところだったんですけれども、「便利なものがあったじゃん!」と考えているうちに思い出しまして。
第8話 再会
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虚淵 ようやくバトルのテーマソングが流せるところに来た感じです(笑)。序盤でセッティングしたキャラたちがどんどん退場していく。あとの尺を考えると、やむを得ないというところではあるんですが。
殤不患と睦天命が久しぶりに共闘するわけですが、ここでの歌は(睦天命役の)東山奈央さんに無理なお願いをしました。あの歌(「His/Story」)はシナリオで指定してあったものなんです。『西幽玹歌』であの歌が流れるバトルシーンががっつりとエモーショナルなものだったので、その流れをここでも引っ張りたかったんですよね。
睦天命の武器とロボの接続は有線です。今どきはエレキギターとアンプの接続もワイヤレスでできるみたいですけど、やっぱり機械は有線だろう!みたいな感覚が、自分にはいまだにありますね。エルガイムのバスターランチャーだって、おそらく永野護さん的にはギターにシールドをつなぐモチーフだと思うんですが。そういうことなんですよ。ギターはステージ上で動きますし、ワイヤレスのほうが動きやすいんでしょうけど、やっぱりあれをつなぐのがいいんじゃん!と(笑)。
あとはこの話数だと、浪巫謠を追い詰めるのが、ついに精神世界にまで行く。これも『西幽玹歌』の影響で生まれた展開ですね。自分の育ちにおける心の傷が、彼のあり方を根本的に歪めてしまっているところをあらためて掘り下げよう、と。その流れでの安索亞特の退場が、休德里安(キュウチリアン)の武器をいかついものにしすぎちゃったばかりにアクションをしそびれて、おとなしめになってしまったのは反省点です。致命傷を負ったあとでひと言ある展開を盛り込みたかったので、一撃でミンチになっちゃいそうな武器の攻撃は受けられないと考えてしまったんです。今にして思えば、首だけになってもしゃべるとか、そのぐらいしちゃっても良かったなと。魔族なんだから。
- 虚淵玄
- うろぶちげん 株式会社ニトロプラス所属のシナリオライター、小説家。『魔法少女まどか☆マギカ』『PSYCHO-PASS サイコパス』『仮面ライダー鎧武/ガイム』『楽園追放 -Expelled from Paradise-』『GODZILLA 怪獣惑星』『OBSOLETE』など、数々の映像作品の原案や脚本を手がける。