まさか実現するとは思わなかった、夢のコラボレーション
――本作では主題歌をB’zが担当した非常に大きなサプライズとなりました。日本を代表するロックユニットとのコラボレーションは、どのような経緯で実現したのでしょうか?
小池 映画の制作が正式に決まった段階で、プロデューサーから「小池監督の作るハードボイルドでスタイリッシュなルパンの世界観と、B’zさんの音楽は絶対に相性がいいはずです」という、非常に熱烈な提案があったんです。僕自身、まさか本当に実現するとは思っていなかったので驚きましたが、「もし本当にやっていただけるのであれば、クリエイターとしてこれほどうれしいことはないです」と即座にお答えしました。幸運なことに、B’zのおふたりも『ルパン』がお好きだということで、「ぜひ前向きに考えたい」という夢のようなお返事をいただくことができました。

――監督から楽曲に関して何か具体的なオーダーはあったのでしょうか?
小池 僕の中にあったいくつかのイメージはお伝えさせていただきました。具体的には、「何かに挑戦しようとしている人の背中を、力強く押してくれるような、鼓舞するようなエネルギーがほしい」ということ。ルパンというキャラクターは一見、飄々(ひょうひょう)としていますが、その根底には、困難に立ち向かう者へのリスペクトや、ある種の応援するような精神を持っていると思っているんです。そうしたら、本当にこちらの想像を遥かに超える素晴らしい楽曲を上げてきてくださって。『LUPIN THE IIIRD』シリーズが持つ、ジャジーでアダルトな雰囲気に加えて、スピーディーで疾走感のあるカッコよさもあって。歌詞も、まさに現代を生きる若者への応援歌のようなメッセージになっていて、感動しましたね。制作終盤、心身ともに追い詰められているときにこの曲を聞くと、なんだか僕自身が応援されているような気分になって「よし、俺も応援されているんだから、もうひと頑張りしよう!」と思いながら机に向かっていました(笑)。本当に、最高の楽曲を提供していただきました。
そこにいる少女が自分の体験を語っているかのようなサリファの「生感」
――キャスティングに関しても、非常に豪華な布陣で驚きました。物語の鍵を握る少女サリファ役は、森川葵さんが演じています。
小池 森川さんの起用は、プロデューサーからの推薦でした。彼女のさまざまな出演作での演技を拝見して、非常に多面的な表現ができる方だなと感じていたんです。幼い少女のような純粋な声も出せるし、それでいて、どこか影のある、芯の強さも感じさせる。これはサリファという複雑なキャラクターにぴったりだと思いました。それにご本人がすごく器用な方で、「ワイルド・スピード森川」と呼ばれるほど、何でもあっという間に習得される方だとうかがっていたので(笑)。これは面白いものが生まれるんじゃないかと、期待も込めてお願いしました。

――実写で活躍している方に声優をお願いする際、何か特別な演出やディレクションを行のでしょうか?
小池 アフレコにはあまり慣れていないということだったので、本番収録前に一日、リハーサルの日を設けました。そこで基本的な流れを確認していただいた上で本番に臨んだのですが、もう見事でしたね。本当にそこにいる本物の少女が、自分の体験を語っているかのような「生感」があって。でも、それが決して素人っぽく聞こえるわけではなく、ちゃんとキャラクターとして成立している。作り込んでいるわけではないのに説得力がある。その絶妙なバランス感覚は天性のものかもしれません。素晴らしいお芝居で、さすがは「ワイルド・スピード森川」だなと(笑)。
偉大なキャラクターと、そのファンに真剣勝負で向き合い続けた12年間
――クライマックスでは、高山みなみさんや島本須美さんといった、アニメファンなら誰もが知る「レジェンド」の方々も登場します。ファンにとってはこの上ないサプライズでした。
小池 あのシーンは、我々なりのファンサービスとして、過去の劇場版ルパンのヒロインを演じられた方々に、時空を超えて集結していただこうというコンセプトで用意しました。島本さんなんて、我々の世代からすればクラリス(『カリオストロの城』)そのものですから、このオファーを受けてくださったこと自体が奇跡のようで、まさにオールスターキャストになりました。

――最後に、12年間という長い旅路を終え、どのような心境ですか? そしてファンへのメッセージもお願いします。
小池 まずは、無事にこの作品を完成させることができて、心の底からほっとしている、というのが偽らざる心境です。一方で、もちろん大きな達成感もあります。僕が子供の頃にスクリーンやテレビにかじりついて見ていた、あの憧れのルパンの世界と、今、自分がクリエイターとして「こんなルパンが見たい、描きたい」という思いのすべてを、この12年間、シリーズに注ぎ込んできました。それを栗田さんはじめ、素晴らしいキャストと最高のスタッフが、僕の想像を超えるかたちでフィルムに焼き付けてくれた。このシリーズは僕にとって、「ルパン三世」という偉大なキャラクターと、それを愛し続けてくださるファンの方々と、真剣勝負で向き合い続けた12年間でした。この映画には、言葉では説明していない「小ネタ」や、キャラクターの行動原理を示す伏線もたくさん仕込んであります。「なんであのとき、ルパンはあんな行動をとったのか?」 その答えがセリフではなく、ほんの一瞬の映像の中にだけ隠されていたりします。ぜひ、一度見た方も、二度、三度と劇場に足を運んでいただいて、そういった作り手の遊び心やこだわりを見つけて、より深くこの世界に浸っていただけたら、僕としてはこれ以上の喜びはありません。
- 小池健
- こいけたけし 1968年生まれ。山形県出身。高校卒業後、マッドハウスに入社し、アニメーターとしてキャリアをスタート。2000年に石井克人監督の実写映画『PARTY7』のオープニングでアニメーションディレクターとキャラクターデザインを務めたことで注目を集め、2003年に初監督作となる『TRAVA FIST PLANET』を発表。『アニマトリックス(ワールド・レコード)』や『REDLINE』の監督を経て、2014年から『LUPIN THE IIIRD』シリーズの監督を務めた。