劇場版の物語は最上級の「ごった煮鍋」
――『ゾンビランドサガ』の映画化について、三石さんはどのようにとらえていましたか?
三石 じつは第2期『ゾンビランドサガ リベンジ』の収録が終わった直後から、我々役者陣の間でも「次は劇場版をやりたいね」という話で盛り上がっていたんです。制作サイドも「スタッフの体制が整えば実現はありうる」とお話しされていましたし、私自身も制作が始まるのを楽しみにしていました。映画の制作発表から公開まで4年もかかってしまいましたが、時間をかけたぶん素晴らしい内容になったので「よし!」という感じですね。
――劇場版の物語に触れた印象はどのようなものでしたか?
三石 本当にすごいシナリオだと思いました。第2期が「宇宙人が地球を侵略しに来る」というぶっ飛んだラストを迎えたのに、物語の主軸にちゃんと佐賀をからめて、ゾンビと佐賀ならではのものを使って戦うという。とんでもない広げ方をした風呂敷をあれほどきれいにたたむなんて、このお話を作りあげた宇田(鋼之介)さんをはじめとする監督陣と脚本家の村越(繁)さんは天才、この作品に対する深い思い入れを感じました。ただ、制作の都合上、台本が前半と後半に分けて渡されたんです。たしか前半が、ヘリで佐賀に向かった幸太郎が、円盤の攻撃を引き付けるため囮になって撃墜されたところまでだったかな。収録も前半と後半とでだいぶ間が空いたので「この先どうなっちゃうの!? 早く続きをください!」と思っていました。
――そんなところでお話が途切れていたら、気になって仕方ないですよね。では、完成映像を見た感想はいかがでしたか?
三石 佐賀が危機的状況に陥ったなかで繰り広げられる人間ドラマと、いろいろありながらもフランシュシュと佐賀の皆さんが協力して宇宙人を撃退する物語が、小気味いいテンポで描かれていて。しかもラストにあんなに素晴らしいライブまで盛り込まれている。これだけいろいろな要素がごった煮になった鍋を、よくぞこれほどおいしく仕上げてくれたものだと感激しちゃって。2時間が本当にあっという間に感じました。
さまざまなたえを演じることへの熱意
――TVシリーズで、ベテランである三石さんが言葉を話せないたえを演じるというのがとても意外に感じました。
三石 私自身は、面白そうであればどんな役でもお受けするんですよ。違う角度から言うと、呻き声だけって誰でもできちゃうんです。その位置を監督から任されたからには意地でも何か伝えて存在感を出して、出番を削られないように(笑)、たえ役を演じるときは役者魂が燃えましたし、大切に演じさせていただきました。
――TVシリーズのたえは言葉は話せませんが、うっすら何を言っているのか伝わるところが面白いです。
三石 台本では特に何も書かれていないんですが、演じる際はたえがなんと言っているのかを考えながらうめき声を発しているんです。第1期で生前の記憶を取り戻してネガティブオーラ全開になったさくらに、たえが懸命に呼びかけるシーンがありましたが、言葉にならない言葉で思いを伝えようとするのはとてもやりがいがありました。
――懸命にさくらの名前を呼ぶ姿は、グッとくるものがありました。
三石 さくらの名前は「あうあ」と発音すると決めているんです。そして第2期では「ありがとう」を「あいあお」と発音するようになりました。自我のないゾンビのたえは、さくらたちとの関わりを通して少しずつ育ててもらっている状態なんです。それはまるで少しずつ言葉を覚えた赤ちゃんが、日本語らしきものをしゃべり始めるような感じで。劇場版の序盤では、円盤に吸い込まれていくときに「あぶね」といっていますし(笑)。たえもさくらたちと同様に、少しずつ心が成長しているんです。
孤軍奮闘していた、たえの心の変化
――記憶を取り戻したたえは、終始冷静沈着な女性でしたが、演じて特に印象に残っていることは?
三石 物語前半で、たえが敵の小型艇を奪って逃げるときに、操縦桿に手を突っ込んで「気持ち悪いわね」と言うくだりがあるんですが、あのシーンには宇田総監督のこだわりがつまっていたんです。ネチョネチョした感触からくる「気持ち悪い」という不快感をセリフに込めるのではなく、「気持ち悪さ」を冷静に分析して言葉にする感じといいますか。並大抵のことでは心がぶれない、どこまでも冷静で落ち着いた山田たえという人物の本質があのシーンに込められていました。
――年齢が29歳で、その年齢でアイドルをやることに抵抗感を示していたところも、クールさとのギャップを感じました。
三石 昭和のアイドルである純子ちゃんに憧れていた世代なので、世代的にはさくらのお母さんくらいでしょうね。皆さんは「そこ気にするところ!?」と思われるでしょうけど、私からすると昭和の時代に生きたリアルな29歳の反応だったので「まあ、そうだよね」と思いました(笑)。
――最後に、三石さんにとってたえはどんなキャラクターになったのか教えてください。
三石 たえを演じるにあたって、ハリウッド映画を見あさってゾンビの研究をしたり、ニワトリの動画を延々見たりと、たくさんのエッセンスを取り込みました。そして一番大事な「本番はピュアに」臨むこと。これまでいろいろとキャリアを積んできましたが、たえは芝居の基本姿勢を再確認させてくれました。そして声優だからこそできるいろいろな表現や演じることの楽しさを教えてくれました。「あいあお」、と伝えたいです。![]()
- 三石琴乃
- みついしことの 12月8日生まれ。フリー。主な出演作は『新世紀エヴァンゲリオン』(葛城ミサト)、『ドラえもん』(のび太のママ)など。

劇場版 ゾンビランドサガ ゆめぎんがパラダイス オフィシャルファンブック
フランシュシュ7名+巽幸太郎役・宮野真守に加え、監督陣、脚本、挿入歌の作詞家、音楽プロデューサーなど、作品制作の舞台裏も楽しめるキャスト&スタッフインタビューを収録。その他、スタッフコメント付きストーリープレイバック、プロデューサーによるTVシリーズから劇場版に至るまでの振り返り記事、これまでのステージ衣装で振り返るフランシュシュの軌跡など、企画記事も充実!
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A4変形判・128ぺージオールカラー
発行 一迅社
- ©劇場版ゾンビランドサガ製作委員会






















