「友情」は自分が携わる作品に欠かせないテーマ
――内海監督のアニメ遍歴をうかがいたいのですが、子供の頃に見ていて、パッと思いつく作品は何になりますか?
内海 兄が見ていた『聖闘士星矢』を一緒に見ていました。かわいいものよりもカッコいいものが好きだった、というのは昔からあります。
――では、意識的にアニメを見た最初の作品というと……。
内海 高校生のときに見た『遊☆戯☆王デュエルモンスターズ(以下、遊☆戯☆王)』(※2000年から放送されたスタジオぎゃろっぷ制作版)ですね。
――今回、1本目に挙げていただいた作品ですね。
内海 高校生の頃まではマンガ家を目指していたんです。それこそ友達と組んで、『週刊少年ジャンプ』に投稿したりとか。少年マンガが好きだったんですけど、私はストーリーを作るのが苦手だったので、友達がストーリーを、私は絵を描いて、それで投稿して編集者から連絡をもらったこともあるんです。
――それはすごい!
内海 ところが、いざ話をしてみたら「お話を書いた方と話がしたい」と。「絵の方はまだまだです」と言われて(笑)。その頃はただ絵を描くのが好きなだけでぼんやりと目指していたマンガ家の道だったんですけど、この作品に出会ってはっきりと自分のやりたいことが決まりました。
――そもそも見始めたきっかけは何だったんでしょうか?
内海 偶然です。もちろん、『遊☆戯☆王』自体の存在は知っていたんですけど、絵柄が独特だったこともあって苦手意識があり、見たことがなかったんです。でも、たまたまつけたテレビで放送していて、なんとなく見始めたら毎週気になっていって……気づいたらハマっていたという(笑)。というのも、何週かに一度、すごくクオリティの高い回があるんですよ。それまでアニメの絵が毎週違うなんて気づかなかったし、意識したこともなかったんですけど、その回だけ作画のクオリティが明らかに違っていて、素人ながらに「アニメって描く人によってこんなに変わるんだ?! こんな仕事をできる人がいるんだ!」と興味を持ったんです。そしてクレジットを見ると、共通してある方が携わっていて……。それがアニメーターの加々美高浩(かがみたかひろ)さんだったんです。
――加々美さんは『遊☆戯☆王』の初期から関っていますよね。
内海 そうですね。当時はシリーズで作画監督をされていた加々美さんに興味を持ったことがきっかけで、私の夢は作画監督になりました。そこからアニメーションに興味を持つようになり、作画監督ってどんな仕事なんだろうと、アニメーターを目指すきっかけになったんです。
加々美さんの魅力的な作画を見て
アニメーターになりたい
と思ったんです
――加々美さんのお仕事の、どんな部分に惹かれたんでしょうか?
内海 『遊☆戯☆王』の独特の絵柄をこんなにカッコよく描けるんだ、という衝撃ですよね。アニメだと、往々にして原作の絵のテイストが変わってしまうことがありますけど、原作のテイストをしっかり守りつつも、アニメらしい魅せ方になっていて、加々美さんらしい魅力のある絵に仕上げている。それが本当に素晴らしかったんです。しかも作画監督だと、1話分まるまる加々美さんの絵で見ることができる。
――加々美さんの持ち味を、1話通して楽しめる。
内海 加々美さんはレイアウトはもちろん、動きまでしっかり手を入れられていて――当時は専門的なことはまだわかっていなかったですけど、ほかの話数と比べてみても明らかに動きが生き生きとした、そのキャラクターらしい芝居が入るんです。それは、キャラクターが魅力的に見える理由のひとつだと思います。絶対的な画力と、どんなデザインでも魅力的に落とし込める技術、そして迫力あるレイアウトや生き生きとした芝居作り、そのすべてに惹かれて「私もこういう仕事ができる人になりたい!」と思ったんです。
――ちなみに『遊☆戯☆王』が、今の内海さんのお仕事に影響を与えていると感じることはありますか?
内海 ありますね。多感な思春期にハマったせいだと思うんですけど、『遊☆戯☆王』の「友情」の部分です。世間的にはカードバトルが有名な作品と認識されていると思うんですけど、根底にあるのはキャラクター同士の友情だったり、人間ドラマのほうで。私はそこにすごく惹かれたんです。しかも、『遊☆戯☆王』を通してできた友達がいたり……。
――その友達というのは、たとえば一緒に同人活動をしたり?
内海 そんな感じです(笑)。作品を通して仲良くなって。もちろん、今までも友達はいたんですけど、本当の意味での友達ができたのが本当にこの頃だったので、そのときの楽しさや喜びは計り知れないくらい大きくて。それが遊戯と城之内に重なったことで、よりこの作品への思い入れが大きくなったのと、自分が携わる作品に欠かせないテーマとして「友情」が揺るぎないものになりました。
――なるほど。
内海 自分が作品を作っていても、心に響くとか、感情が動かされることってすごく重要だと思っているんです。それは見ている人だけじゃなく、携わっているスタッフももちろんそうで。作り手の琴線に触れて、その人が共感できれば、それは必ず画面にも現れるんです。そうやって出来た作品はきっと見ている人の心も動かす。そういう作品に出会えたからこそ今の自分があるので、自分もそういう作品を作っていけたらいいなと思っています。
KATARIBE Profile
内海紘子
監督
うつみひろこ アニメーター、演出家として『けいおん!!』『日常』などに参加したあと、TVアニメ『Free!』で初監督。吉田秋生原作の監督2作目『BANANA FISH』に続いて、初のオリジナル作品『SK∞ エスケーエイト』を発表。こちらも大きな反響を呼んだ。