Febri TALK 2022.03.14 │ 12:00

小倉信也 設定考証/デザイン

①初めて「設定」を意識した
『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』

数々のSF作品にて設定やSFの考証を手がけ、さらには自らデザインすることも多い小倉信也が選ぶ「仕事に影響を与えた」アニメ3選。インタビュー連載の第1回は、メカニックや世界観設定に目覚めた『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち』について。

取材・文/岡本大介

「設定」という“画”を描けば、アニメが作れると思った

――『さらば宇宙戦艦ヤマト 愛の戦士たち(以下、さらば)』の公開は1978年ですから、小倉さんは当時中学生ですね。
小倉 衝撃のストーリー展開にも驚きましたが、その世界観やSFメカの造形への興味が強かったです。もちろん、74年放送のTVアニメ『宇宙戦艦ヤマト』から見ていましたが、当時は小学生でしたしね。それが『さらば』の頃になると設定資料が掲載されたムックが登場し、アニメや特撮映画がどう作られているのかが紹介され、あの映像を作るために「設定」という“画”が描かれていることを知りました。

――「設定」に対する興味の芽生えですね。
小倉 子供の頃って親から「絵(マンガ)ばかり描いて!」って怒られませんか?(笑)  それが「設定」というアニメなどの映像作りのスタートになる“絵(画)”があることを知って、絵を描く自分を肯定できるようになりました。「絵が描ければ、アニメや映像の仕事に就けるかも?」と将来を思ったものです。

――『さらば』のビジュアルのどんなところがそう思わせたのですか?
小倉 見て、あらためてアニメが“絵”で作られていることに気づくのです。しかも、大量の絵で。当時の映画パンフレットには「使用動画枚数」「総カット数」「爆発回数」とかの数字が載っていたと思います。そして、それらの絵を大勢で手分けして描くためには、設定を物語の分だけ描いて用意する必要があることを『ロマンアルバム』というムックで知るわけです。

――とくに好きなメカニックデザインはありますか?
小倉 宮武一貴(みやたけ かづたか)さんがデザインされた戦艦たちが最高ですね!  この時期の宮武さんは『宇宙海賊キャプテンハーロック』のアルカディア号なども手がけていて、いちばん「宇宙戦艦」している頃のデザインだと思います。設定資料集にも三面図や細部の設定、透視図解などが描かれていて、当時はそれらを模写して、どのようにデザインされているのかを分析していた記憶があります。

衝撃のストーリー展開にも

驚きましたが、その世界観や

SFメカの造形への

興味が強かった

――映画として印象深いシーンはありますか?
小倉 序盤、地下ドックに入っていたヤマトが海上へ姿を現して、そのまま離水して浮上するシーンです。じつはオリジナル版だと、一瞬カクンと船体が落ちてから持ち直すんですよ。これは演出ではなくセルの撮影順番を間違えたらしいんですけど、あれがいいんですよ(笑)。

――オリジナル版ということは、現在のリマスター版などでは修正されているんですね。
小倉 そうですね。ビデオやレーザーディスク版だとそのシーンが残っていると思います。あの発進シーンって、ギリギリでヤマトに乗船した島大介がカッコよく登場して、緊張している古代進に対して「話はあとだ、俺がやろう」って操舵を代わるじゃないですか。それなのにカクンとなるわけで、そこを島の「慣性制御切替“転(こ)け”」って設定解釈を入れるのが、私や玉盛(順一朗)さんの乙な楽しみ方なんですよ(笑)。なので、あのシーンが修正された際は「なんで直すの? あれが良かったのに」と思いましたね。

――設定資料集をもとに模写していたとのことですが、当時はプラモデルも発売されていましたよね。そちらはいかがでしたか?
小倉 その頃には自分で「どのようにオリジナルの『設定』をデザインするのか」に興味が移っていました。だから既製のメカのプラモデルよりも、自分で図面を引いて、バルサ材という模型製作用の木材を加工して自作していましたね。

――自作ですか? それはすごいですね。
小倉 バルサ材はカッターで切ったり削ったりできるので、子供でも簡単に作れるんですよ。裕福な友達のラジコン飛行機の模型などを参考に「なるほど、こういう構造になっているのか」といろいろ観察して、試行錯誤しながらやっていました。

――その経験は、今の仕事にも生かされていたりするんですか?
小倉 生きていると思います。オガワモデリング時代にはずっと特撮で使う模型を作っていましたし、宮武さんに初めて自分のデザインを見てもらったときも、デザインの稚拙さは別にして「立体としての量感がわかる」という言葉をいただきました。二次元で書く図面と三次元の立体物って、意外と受ける印象が違って難しいんですよ。平面の図面では見映え良さそうに見えても、実際に立体にすると思った以上に痩せて見えたりするので。そこは立体物を作ってきたことが役立ったかなと思います。

――『さらば』で設定に目覚めた小倉さんですが、その後『宇宙戦艦ヤマト2202 愛の戦士たち』や『宇宙戦艦ヤマト2205 新たなる旅立ち』にSF考証として関わることになりますね。
小倉 作品中でも重要なキーワードになっていますが、やっぱり「縁」のようなものは感じますね。『ヤマト』はSF的な合理性よりもロマンが肝要。アニメ『プラネテス』以降に確立した自分の仕事スタイルの特徴を考えると、「思えば『ヤマト』から遠くに来たもんだなぁ……」というタイミングで、自分の“原点”とも言うべき『ヤマト』の仕事依頼が来る! ひょっとして、コレこそが「ロマン」なのかもしれませんね(笑)。endmark

KATARIBE Profile

小倉信也

小倉信也

設定考証/デザイン

おぐらしんや 1965年生まれ。千葉県出身。オガワモデリングなどを経て、現在はフリーで活動。設定考証を担当した作品は他に『翠星のガルガンティア』『銀河英雄伝説 Die Neue These』『楽園追放 -Expelled from Paradise- 』などがある。

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