Febri TALK 2022.04.27 │ 12:00

雨宮哲 演出家/アニメーター

②リアルタイムな体験としての
『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生』

インタビュー連載の第2回で取り上げるのは、TVシリーズから間を開けて公開された劇場アニメ『新世紀エヴァンゲリオン シト新生』。TVシリーズの総集編に新作パート加え、次の劇場版につなげるという異色作を、当時の雨宮少年はどう受け止めたのか。

取材・文/宮 昌太朗 プロフィール写真撮影/立川政吉

『エヴァ』との出会いが、僕が1982年に生まれた理由だったんだなって

――で、2本目が『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 シト新生(以下、シト新生)』なんですが(笑)。TVシリーズから少し間を空けての公開になりますよね。TVシリーズが終わったあとも、ずっと情報を追いかけていたのでしょうか?
雨宮 そうでしたね。ビデオで録画した回は当然、見返すんですけど、他にもフィルムブックとか。あとは設定資料集やマンガ版を読み込んで、とにかく情報を追いかける。「使徒って何だ?」「リリンって何?」「あの赤い十字架にかけられている、半分のヤツって何なの!?」って。……今でもテンションが上がっちゃうんですけど。

――そういう状況で『シト新生』が公開になって。初日に見に行ったんですか?
雨宮 いや、公開日には行けなかったんです。期末試験の初日で(笑)。

――まだ中学生だし。
雨宮 だから気が気じゃなかったんですけど……。ただ、その前にラストの2話を作り直すっていう話は知っていた気がします。第弐拾四話までの総集編(DEATH編)と、第弐拾伍話&最終話のリメイク(REBIRTH編)を劇場公開するんだ、って。しかも『シト新生』はキービジュアルがカッコいいんですよ。「人類の存亡を賭けた戦いが、今始まる。」ってキャッチコピーが書かれていて。見終わったあとに振り返ると「そんな内容だっけ?」みたいな気持ちになるんですけど(笑)、とにかく文字で埋め尽くされていて、すごい情報量なんです。ビジュアル的にも「エヴァ弐号機ってまだあるの?」「シンジ君が何かやりそうな顔をしている!」とか。アスカが突っ伏しているのを見て「これはなんかあるな」みたいな。

――どんどん気分が盛り上がってくる(笑)。実際に見に行っていかがでした?
雨宮 映画が物語の途中で終わっちゃうっていうのは、知っている状態で見たんですよね……。ただ、「REBIRTH編」が始まる前まで来ると、お腹が痛くなっちゃうんですよ。楽しみすぎて、胃液の分泌量が増えてしまって(笑)。こんなこと『エヴァ』でしか起きないんですけど、「DEATH編」のあと、エンドロールが終わって映倫のテロップが出てくると気分が悪くなってくる。

――(笑)
雨宮 こう言うと「DEATH編」を軽んじているようで、あまりよろしくないんですけど……。もちろん、「DEATH編」もめちゃくちゃいいんですよ。内容を追いかけようとすると難解なところがあるんですけど、キャラクターの心理描写でつなげていると思って見ると、すごくキレイな構成になっている。まあ、体験という意味で『シト新生』はリアルタイム感が強かったんです。『Air/まごころを、君に』とは自分の中ではやっぱり感触が違うんですよね。このあと、さらに盛り上がった感じもあるし。

――それは世の中的にも自分的にも?
雨宮 そうですね。4カ月くらい待たされたのかな? いちばんいいところで終わって、完結編を見ることになるまでの間。それがピークだったのかなって。

「REBIRTH編」が始まる前まで

来ると、お腹が痛くなっちゃう

楽しみすぎて、胃液の分泌量が

増えてしまって(笑)

――『エヴァ』がきっかけでアニメーターを目指すようになるんですか?
雨宮 そうなっていればよかったんですけど、それがちょっと違うんですよね(笑)。僕がアニメーターになったことと『エヴァ』がアニメだったことは、じつはあまり関係がなくて。アニメは大学に行ってから「作りたい」と思うようになるんです。最初にインパクトを受けたのは『彼氏彼女の事情』ですけど、あとは『アベノ橋魔法☆商店街』かなあ。『アベノ橋魔法☆商店街』で今石(洋之)さんがコンテ・作画監督を手がけた回(第3話と第12話)がすごく好きだったので「アニメーターをやりたい!」と思ったのかもしれません。

――それでGAINAXを受ける?
雨宮 そうですね。だから『エヴァ』みたいな作品が作りたくてGAINAXに行ったわけじゃないんですよ。……まあ、GAINAXに行けば『エヴァ』の情報があるかもしれない、みたいな下心はありましたけど(笑)。ただ、そういう理由で会社に入ったとわかったらヤバいじゃないですか。

――たしかに(笑)。
雨宮 だから会社に入った当初は、あまり表に出さないようにしていました(笑)。今はもうオープンにしていますけど。……それで言うと、たとえば『カメラを止めるな!』を見たり、YouTubeで面白い動画を見て「俺も映画を作ろう」って思い立つのはわかるんです。でも、『アベンジャーズ/エンドゲーム』を見て「映画を撮ろう」とは思わないじゃないですか(笑)。それくらい『エヴァ』は自分にとって特別なもので。だから、自分とは関係がないものだし、今後『エヴァ』以上のものに出会うことはないなっていうところに最終的には落ち着いたんですけど。

――あきらめたというか(笑)。
雨宮 やっぱり思春期に浴びたロック以上のものなんてないし、ないならないでいいと思うんです。もしかしたら、そういう経験がまったくないまま「何のために生まれてきたんだろう?」みたいな人もきっといるだろうし。自分はちょうどいい時期に『エヴァ』を見ることができたんだな、って思います。『エヴァ』と出会えたのが、僕が1982年に生まれた理由だったんだなって。endmark

KATARIBE Profile

雨宮哲

雨宮哲

演出家/アニメーター

あめみやあきら 1982年生まれ。東京都出身。演出家/アニメーター。GAINAXを経て、現在はTRIGGERに所属。アニメーターとして数多くの作品に参加し、最近では演出家としても活躍。監督作に『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』。

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