アニメの作り方を知ると、なぜ『エヴァ』が優れているかがわかる
――薄々わかっている読者の方も多いと思いますが、3本目は『新世紀エヴァンゲリオン劇場版 Air/まごころを、君に』です(笑)。
雨宮 もう全然、クリエイターの話じゃなくなっていますけど(笑)。
――たしかに「『エヴァ』オタの当時の盛り上がりを聞く」みたいになっています(笑)。ともかく『シト新生』から4カ月ほど間が空いて公開になったわけですけど……。それこそ冒頭は「REBIRTH編」なので、『シト新生』のときに一度見ているわけですよね。
雨宮 だから最初の20何分かは前よりも冷静に見ていたんです。ただ、エヴァ量産機が降ってくると、お腹が痛くなってくる(笑)。量産機については『シト新生』の前に、すでに発表になっていたんですよ。ただ、実際に活躍する前に『シト新生』は終わっていたので「ついに見られるぞ!」と思っていたら、トンでもないヤツらだった(笑)。量産機はめちゃくちゃ好きで、いっぱい絵を描いた気がします。
――(笑)
雨宮 やっぱり前半の『Air』でバーッとテンションが上がるじゃないですか。でも、それがプツッと終わって、不意にエンドロールが流れる。で、「あれ?」っと思っているうちに後半の『まごころを、君に』が始まって、あれよあれよという間にどんどんすごいステージに連れて行かれるわけです。……しかも、最後はパッと終わるじゃないですか。みんな「ここで終わ……え?」って思う。内容的にはちゃんと完結しているんですけど、映画としては「はい、終わりですよ。皆さん帰ってください」っていうスタイル。だから、劇場が明るくなった瞬間の風景は、いまだに忘れられないです。「もうないんだよね」っていう気持ちもあるし、それと同時に突き放されたような気分もあって。
――あらためて『まごころを、君に』のレイアウトや作画を見ると、その凄まじさにゾッとするところはありますよね。
雨宮 めちゃくちゃカッコいいですから。TVシリーズで「ああ、この人たち、観客まで殴っちゃったんだから、もう音楽できないよな」と思っていたわけです。でも、「劇場版で、もう一回やるよ!」って言われて「お、再結成。また見られるんだ」と思って見に行ったら、なんだかよくわからない前衛演劇が上演されていた、みたいな。しかも「何を見ているんだ……」と思っているうちに幕が降りてくる。でも、まあ、ロックを浴びに行ったんだから、これでいいんだよな、みたいな。そういう感じが完結編にはあった気がしますね。
――咀嚼(そしゃく)するのにも時間がかかったのでしょうか。
雨宮 時間がかかりましたし、世間的にもこの夏以降、『エヴァ』熱が落ち着いた感じがありましたよね。完全に終わったんだなって。その頃にはもう、僕も立派なアニメオタクになっていたので、同じような刺激を求めて他の作品を見たりするんですけど、まあ、見つからない。で、もう一度『エヴァ』を見直したり。その頃には再放送もやっていたので、それを録画して「よし、これで第壱話から何度も繰り返し見られるぞ」って(笑)。そんな感じでした。
アニメオタクになって
同じような刺激を求めて
他の作品を見たりするんですけど
まあ、見つからない
――今の雨宮さんは監督として作品を演出する側に回っているわけですけど、演出スタイルに『エヴァ』から受けた影響ってあると思いますか?
雨宮 意図的に『エヴァ』に寄せることはあるんですけど、それはあくまでおふざけというかパロディの部分で。とはいえ、それ以外にもきっと、自分では気づかずにそうなっているところもある気がします。……あとアニメの監督をやってよかったなと思っていることがひとつあって。アニメーターをやって、監督をやると、アニメの作り方を知るわけじゃないですか。そうすると、なぜ『エヴァ』が優れているかという解像度がさらに上がるんです。
――(笑)。作る側に回ってわかる『エヴァ』の凄さがある。
雨宮 たとえば、TVシリーズだとグロス回(※1話まるごと外部のスタジオに発注するエピソード)が発生するわけですけど、そのときに監督がどう介入するかがすごく大事なんです。『エヴァ』で言えば、ベガエンタテインメントがグロス受けした第拾話(「マグマダイバー」)は、コンテがめちゃくちゃすごい。ファンにはあまり人気のない回かもしれませんけど、「ここでセルの枚数を減らす」とか「ここは前の素材を流用する」とか、いかにカロリーコントロールをしてうまく仕上げるか――いちばん手間のかからない方法で、最大の効果を上げるための工夫が詰まっているんです。
――もう少し具体的に伺えますか?
雨宮 たとえば、動画枚数が増えるとアニメーターが大変になるので、コンテの段階で枚数を極力減らさなきゃいけない。『エヴァ』でいうと、冬月とゲンドウが対話している場面があるじゃないですか。冬月は口パク3枚でしゃべるんですけど、ゲンドウは話している途中も口元を手で隠しているから止め絵でいけてしまう。しかも、第壱話でゲンドウがしゃべっているところを口パクで見せているから「この声はゲンドウです」っていうのが視聴者はわかっている。『エヴァ』はそういうことをいろいろなところでやっているんです。
――雨宮さんの監督作で言うと、『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』がわりと近かったかなと思うのですが(笑)。
雨宮 あっ、近いです! あれも要するにロックの文法で。原作がロックなんだから、アニメもロックであるべきだ、というところから、動かさないし、セルを使わないっていう手法を採ったのかもしれません。「ロック」というか「衝動」みたいなことなのかな。
――あるいは「ルールを裏切る気持ちよさ」みたいな。
雨宮 僕にとって、初めてそういう体験をしたのが『エヴァ』でした。とはいえ、みんな、そういう経験がちょこちょこあると思うんですよ。僕の場合は、それが『エヴァ』だったということなんだと思うんです。
KATARIBE Profile
雨宮哲
演出家/アニメーター
あめみやあきら 1982年生まれ。東京都出身。演出家/アニメーター。GAINAXを経て、現在はTRIGGERに所属。アニメーターとして数多くの作品に参加し、最近では演出家としても活躍。監督作に『SSSS.GRIDMAN』『SSSS.DYNAZENON』『ニンジャスレイヤー フロムアニメイシヨン』。