Febri TALK 2022.12.30 │ 12:00

木村隆一 アニメーション監督/演出家

③その後の女児向けアニメの礎を築いた
『美少女戦士セーラームーン』

インタビュー連載の最終回で取り上げるのは、1992年から放送され、一大ブームを巻き起こしたアニメ『美少女戦士セーラームーン』。当時、大学生だった木村隆一監督はこの作品のどこにハマったのか? 『アイカツ!』に与えた影響についても、あわせて聞いた。

取材・文/宮 昌太朗

いろいろな人の「よさ」が存分に発揮されている

――3本目は、佐藤順一監督の『美少女戦士セーラームーン(以下、セーラームーン)』です。1992年に放送がスタートしているので、木村監督は大学生くらいですか?
木村 そうですね。テレビでやっていたのをオタク友達数人とたまたま見たんですが、「これはまた頭のおかしいアニメが始まったな」と(笑)。そこからめちゃくちゃハマって、毎週土曜日はみんなで家に集まって『セーラームーン』を一緒に見るという、アホみたいなことをやっていましたね。当時、同じ大学に通っていて、一緒にアニメを作っていた今石(洋之)君とも「『セーラームーン』、面白くない?」「面白いよね」という話をしていました。

――当時、木村監督の周囲でも話題になっていたわけですね(笑)。
木村 そもそも「タイトルがおかしいな」と思っていたんです。いったいこれは、どこに向けた作品なんだろう?と(笑)。今にして思えば、まさに直球の女児向けアニメだったわけですけど、振り切れたノリがすごく面白くて。いくらか話数が進んだところから見始めた記憶があるんですが、「妙なノリの作品だな」と思っていたら監督が佐藤順一さんだということに気づいて、そこからはちゃんと見るようになりましたね。話数が進むにつれて、作画もどんどん面白くなっていって。当時はまだ総作画監督制度みたいなものはなかったですから、各話ごとに作画監督の色がすごく出ていましたよね。僕は安藤正浩さんが作画監督を担当されている回がすごく好きだったんですけど、安藤さんの回は「本当に大丈夫なのか?」と思うくらいキャラクターが丸っこくデフォルメされていて、しかもそれがめちゃくちゃよく動く。久しぶりに80年代アニメのノリが味わえる作品だな、と。それでハマったところは大きいと思いますね。ストレートに楽しいし、思いついたことは全部やってみる、みたいなノリがある。あれはなかなかできないことだと思うんです。

――たしかに作品全体に勢いがありますよね。
木村 今回のインタビュー前にあらためて少し見返して来たんですが、ちょっと神がかっていますよね。スタッフの若さもすごく出ているし、いろいろな人の「よさ」が存分に発揮されていて、それによって作品全体がどんどん盛り上がっていく。そういう相乗効果みたいなものを感じるんですよ。いい企画だというだけではダメで、なにか運命みたいなものがないとああいう作りにはならない。『アイカツ!』の制作に取りかかった当初、まわりには30歳くらいの女性スタッフが多かったんですけど、子供の頃に何を見ていたかを聞くと、必ずといっていいほど『セーラームーン』が挙がるんです。まさにその後の女児向けアニメのスタンダードというか、礎を築いた作品だと思いますし、実際、『セーラームーン』には、このあといろいろな作品に派生していく要素がいっぱい詰まっている。もちろん、『セーラームーン』自体、いろいろな作品を吸収したうえで作られたものだと思うんですが、ここ四半世紀の子供向けアニメの起点になった、そういう作品なんじゃないかと思うんですよね。

限られた制作体制で、どれだけ面白いことをやるかを突き詰めている

――『アイカツ!』を作る際、参考にしたところはありましたか?
木村 雰囲気ですかね。物語の展開がシリアスになることも多いんですが、基本的なノリがすごく楽しいんです。子供が見るものだから、基本的には暗い気分にはさせないぞ、みたいな気迫を感じます。あと、思いついたことは、たとえ粗削りでも新鮮なうちに――自分たちが楽しいと思っているうちにやってしまう勢いでしょうか。『アイカツ!』のときも、思いついたことは出し惜しみせずにやるように心がけていました。僕は初期の『セーラームーン』が持っていた、そういう出し惜しみしない感じが本当に好きだったんです。実際に自分たちができていたかどうかはともかく、目標にはしていました。

――とにかくアイデアが詰まっているところは共通している気がします。
木村 『セーラームーン』は作画の枚数制限が厳しいなかで作られていたわけですけど、そういう限られた制作体制で、どれだけ面白いことをやるかを突き詰めてやっているんですよね。どこまでがキチンと考えられていて、どこからが思いつきなのかはわからないですが、最終的にすごくうまくハマっている。バンクの使い方ひとつを取っても、あの音楽がかかった瞬間に、見ている子供はめちゃくちゃテンションが上がると思うんです。もちろん、『セーラームーン』以前にも同じような手法を使った作品はあると思うんですけど、『セーラームーン』はすごくわかりやすい形で「こういう風にやれば、たとえ紋切型であっても面白く見える」ということを、明確な意思のもとでやっているんですよ。

――方法論が明快ですよね。
木村 半分はセンスでやったことなのかもしれないですけど、もう半分は考え抜いてやっていることで、それが結果としてすごくうまく機能していて。今見ても、学ぶべきことがいっぱい詰まっているなと思います。あと、さっきも少し話しましたが、シリーズの途中からどんどん熱量が上がっていくのがわかるんです。きっとスタッフのノリがよくなってきて、「自分たちは面白いものを作っているんだ!」と気づいたからなんじゃないかと思うんですけど。最初に組んだコンセプトがしっかりしていたからこそ、スタッフの気持ちに火が点いたんじゃないかなと思いますし、そういう熱量と意図が噛み合って出来上がっているんだな、と。

――『アイカツ!』は、かなりそこに近いものができていたように思います。
木村 目標ではあったので、『セーラームーン』に届いたとは思いませんが、雰囲気が近いものは作れたかなと思います。『アイカツ!』も、途中からスタッフが面白がってやってくれるようになったんです。やっぱりアニメに携わる者としては「私はこういう作品に参加していたんです」と言ったときに、後輩やファンに「知ってる!」と言ってもらえるのがうれしいんですよ。『アイカツ!』は、なんとかそこには到達できたかなと思いますね。endmark

KATARIBE Profile

木村隆一

木村隆一

アニメーション監督/演出家

きむらりゅういち 1971年生まれ、新潟県出身。大学卒業後、スタジオジュニオに入社し、演出家としての活動をスタート。数多くの作品で絵コンテ・演出として参加したのち、2012年に『アイカツ!』を監督。近年の監督作に『けものフレンズ2』などがある他、2023年1月からは『もののがたり』『アイカツ! 10th STORY ~未来へのSTARWAY~』が公開となる。