新房昭之監督のセンスに当てられてどハマり
――アニメは2007年の放送なので、LAMさんは当時は高校生ですか?
LAM そうです。もともと久米田康治先生の絵柄が好きで、『週刊少年マガジン』で連載が始まった当初から読んでいたんです。立ち絵をブチ抜きで使う独特なコマ割りや小気味の良いテンポ感などが大好きで、そんな作品がアニメ化されるということで、注目していました。しかもシャフトさんは当時いちばん好きな制作スタジオだったので、好きな作品と好きなスタジオが手を組むという、僕にとってはまさにドリームタッグで、とても興奮したのを覚えています。
――高校生時代のLAMさんは、順調にオタク街道を突き進んでいたんですね。
LAM もうどっぷりでした。マンガやラノベを読み、アニメを見て、ゲームをして、ニコニコ動画を見るという、忙しい高校生活で(笑)。まさにかぶれまくっていた時期でした。しかもちょうどシャフトさんの『ぱにぽにだっしゅ!』(ガンジスと共同制作)や『ひだまりスケッチ』にどハマりしていたこともあって、『さよなら絶望先生』も楽しみで仕方なかったです。蓋を開けてみたら、僕の想像をはるかに超えた映像に仕上がっていて、ものすごく刺激を受けました。原作が持っているシニカルさやシュールな世界観はそのままに、アニメではさらにオシャレに昇華されていて「なんだこれは?!」と。今振り返ると、新房昭之監督のセンスに「当てられた」ということだと思うんですけど、とにかく面白かったですね。
――新房監督の特異な作家性は『月詠 -MOON PHASE-』あたりから顕著だと思いますが、『さよなら絶望先生』ではそれが確固たるものになった感じがありますね。
LAM そうですね。当時の僕は美術予備校に通っていて、将来は美術大学を目指そうかなとぼんやりと考えている時期だったので、そういう意味でもすごく影響を受けました。脚本はもちろん、カメラアングル、テキストや記号を使った演出、実写素材を含んだ画面構成、奇抜な色彩など、すべてが普通じゃない。これまでのアニメーションとは違う文脈で作られているかのような絵作りで、そのどれもが革新的で挑戦的なのに、全体として見るとオシャレでカッコよく見えるのがすごいなと。絵やデザインで食べていこうと考え始めていた僕にとっては、プロのクリエイターからガツンと洗礼を浴びた感覚でした。
クリエイターとしてのルーツ
――とくに衝撃的だったのはどんな部分ですか?
LAM いちばん覚えているのはOPやEDです。第3話までは暫定版で白黒の映像が流れて、第4話で完成版が流れるというのも新鮮でしたし、「人として軸がぶれている」(第1期OP曲)や「林檎もぎれビーム!」(第3期OP曲)など、大槻ケンヂさんの楽曲も大好きですし、前衛的な映像や世界観も含め、いまだによく見返しています。あと劇団イヌカレーさんが手がけた(『【獄・】さよなら絶望先生』の)OADのOP映像も印象的で、そっちも鮮明に覚えています。
――本編中で印象に残っているシーンやとくに好きなキャラクターはいましたか?
LAM キャラクターでいうと小森霧(こもりきり)ちゃんという引きこもりのキャラクターが好きでした。劇中でよく「開けないでよ」っていうアイキャッチのような画面が登場するんですけど、それがすごく好きで、当時はそのカットを携帯電話の待ち受けにしていたくらい(笑)。僕の個展「千客万雷」では、解体新書風に絵と構図で見せる「記録」シリーズという企画をやったんですけど、これはOP映像へのオマージュであるとともに、劇中のさまざまなアイキャッチの影響もあるんです。「漢字」や「記号」をデザインとして取り込むことで、エロスやグロテスクすらも上品に提供することができるんだというのは驚きでしたし、とにかくアイキャッチのデザインが可愛くてカッコよかったイメージが強いです。
――そうだったんですね。他にも本作から影響を受けているところはありますか?
LAM 僕は今、クリエイターとして「和」のモチーフやテイストを大切にしているんですけど、それは本作と『モノノ怪』の影響ですね。耽美な世界観という意味でも色濃く影響を受けていると思いますし、個展を開く際もインスピレーションの源泉として真っ先に見返しました。
――なるほど。LAMさんのイラストも情報量がかなり多く、新房監督作品の画面作りにも通じる部分を感じますが、そこはいかがですか?
LAM たしかにサービス精神のある作品が好きになったきっかけは、この作品のような気がします。個展でもすごく意識したところなんですけど、やっぱり来てくださるお客さんに喜んでもらいたいとか驚かせたいっていう感覚が強くて、それってシャフトさんの作品、とりわけ新房監督作品をたくさん摂取してきたからだと思うんです。ストーリーやキャラクターといった作品そのものの魅力はもちろん大切ですけど、それとはまた違う種類のワクワクやサプライズというものを与えてくれましたし、それはエンタメ業界に生きるクリエイターとして重要なことだと思います。ですので、第1回でお話しした『ローゼンメイデン』が僕の描くキャラクターのルーツだとすれば、『さよなら絶望先生』は僕のクリエイターとしてのルーツなのかなと思っています。
KATARIBE Profile

LAM
イラストレーター
イラストレーター。ゲーム会社に勤務後、2018年からフリーのイラストレーターとして独立。キャラクターデザインやビジュアルワーク、書籍イラストなど国内外問わず幅広く手がける。2024から2025年にかけて東京・大阪で個展「千客万雷」を開催。