Febri TALK 2025.03.25 │ 12:00

LAM イラストレーター

③見るたびに元気と勇気をもらえる
『REDLINE』

クールでキャッチーながらもとことん刺激的な作風が人気を集めるイラストレーター・LAM。キャラクターデザインを中心に、各種ビジュアルワークや書籍イラストなどを手がけ、個展「千客万雷」の盛況も記憶に新しいLAMが選ぶアニメ3選。3本目は、人生でもっとも多く鑑賞してきたと断言する『REDLINE』。

取材・文/岡本大介

「こういうエンタメがあっていいんだ」と感動した

――『REDLINE』は2010年公開の劇場作品です。これはいつ頃見たんですか?
LAM これは劇場では見ていなくて、公開からしばらく経ったあと、たまたまBlu-rayで鑑賞した作品なんです。公開当時、僕は美大生で、周囲でチラホラと話題には挙がっていたものの、自動車にもレースにも興味のない自分は好みじゃないだろうと思っていたんです。

――たしかに、LAMさんの作風からはかけ離れていますね。
LAM ですよね。ただ、いざ見てみたらどういうわけか大号泣しちゃって(笑)。最後の最後、ゴールをした主人公とヒロインがキスをして、画面に「LOVE」「The End」と派手で巨大なテロップが表示されて終わるっていう、これだけ聞くとなんだかチープそうな終わり方なんですが、それがめちゃめちゃ気持ちよくて、「こういうエンターテインメントがあっていいんだ」と感動したんですよね。

――キャラやデザインの好みとは違うところで感銘を受けたんですね。
LAM そうなんです。泣いたのはエンディングなんですけど、冒頭からラストまで、画面の隅々からクリエイターたちの熱い想いや熱量の高さがヒシヒシと伝わってくる作品で。映画のキャッチコピーが「限界を超えろ」なんですけど、その言葉はまさに監督をはじめ、作り手の皆さんを形容しているなと思います。

クリエイター魂に火をつけてくれる

――製作期間は7年、10万枚の手描き作画で作られている作品ですからね。
LAM 途方もないですよね。だからこそ、締め切りが重なって大変だったり、メンタル的に辛いときに見ると必ず元気と勇気がもらえるんです。これを見ると自分のクリエイター魂に火がついて、クリエイターとしてあるべき姿を思い出させてくれる、僕にとってはガソリンのような存在ですね。

――では、けっこうな回数見ているんですね。
LAM 100回以上は見ていると思います。僕の中での唯一の心残りは、これだけ音楽が素晴らしい作品を劇場で見られなかったことだったんですけど、2021年にリバイバル上映されたタイミングで映画館で鑑賞することができたんです。冒頭のレースシーンで、車が観客の前をものすごいスピードで通過していったあと、そこで初めてバスドラムの音が入るんですけど、その一発目のキック音を聞いた瞬間、思わずうれし泣きしちゃいました。

――とくに好きなシーンはありますか?
LAM ビジュアルでいえば本当にどのカットも素晴らしいんですけど、あえて挙げるなら、終盤でJPとソノシーがトランザム20000に乗り込んで、ニトロで加速していくシーンです。かなり有名だと思いますけど、画面がギュイーンって伸びる演出が印象的ですよね。そのあとのゴールまでの展開はずっと熱くて、最後はライバルたちに見守られるなかでキスをしてエンディングへと入っていく、あの一連の流れは本当に大好きです。

――とくに好きなキャラクターはいますか?
LAM やっぱり主人公のJPはカッコいいなと思います。以前から木村拓哉さんが演じる男らしいキャラクターが好きなんですよ。JPもその路線ですごく合っているなと思いますし、それでいて三枚目っぽいヌケ感もあって、絶妙ですよね。男性キャラで言うと『シティーハンター』の冴羽獠なんかも好きなんですけど、共通点を感じます。

すべてのクリエイターに贈りたい作品

――LAMさんというとどうしても女性キャラへのこだわりが注目されますけど、男性キャラのビジュアルにはどんなこだわりがありますか?
LAM 男性らしいセクシーさがあるキャラクターが好きですね。JPの場合も、身体つきはほっそりとしているんですけど、たとえば首周りの筋(すじ)や筋肉だったり、ゴツゴツとした手などを見るとやっぱり男っぽいですし、そういうところに惹かれます。じつをいうと、学生時代は男性キャラを描くのはそこまで好きじゃなかったんですよ。女性キャラだと「可愛いな」とか「セクシーだな」ってモチベーションが自然と湧くんですけど、男性キャラにはそういう感情がなかなか抱けなかったんです。でも、あるとき僕が好きなキャラクターや俳優さんって、みんなセクシーだということに気づいたんです。だったら女性キャラと同じように、男性キャラもヨコシマな気持ちを入れて描いてみようと思ってやってみたら、これがすごく上手くいったんです。それからは性別は関係ないなと思うようになって、男性キャラも楽しんで描けるようになりました。今は男性キャラを描く機会もかなり増えて半々くらいになっているんですが、とても楽しいです。

――そうだったんですね。では、最後にあらためて『REDLINE』から受けた影響について聞かせてください。
LAM 膨大な時間と労力、熱量をかけて作られた作品だけが持つ輝きがあって、まさに血と涙の結晶だと思います。モノづくりに関わる人であれば絶対に心に刺さると思うので、若いクリエイターの方にオススメを聞かれたら、必ずこの作品の名前を挙げています。僕自身、見るたびに「この人たちのようになりたい」と心が奮い立ちますし、末長く後世に伝わっていってほしい作品だと思います。endmark

KATARIBE Profile

LAM

LAM

イラストレーター

イラストレーター。ゲーム会社に勤務後、2018年からフリーのイラストレーターとして独立。キャラクターデザインやビジュアルワーク、書籍イラストなど国内外問わず幅広く手がける。2024から2025年にかけて東京・大阪で個展「千客万雷」を開催。

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