Febri TALK 2022.09.19 │ 12:00

岡田有章 美術監督/メカニカルデザイナー

①再びアニメ愛を持った
『AIR』

『機甲戦記ドラグナー』や『鎧伝サムライトルーパー』など、1980年代からアニメ美術に携わる岡田有章。劇場版『Gのレコンギスタ』や『機動戦士ガンダム 水星の魔女』など、近年も話題作で活躍するベテランデザイナーに自身にとって特別なアニメ作品を聞くインタビュー連載。第1回は、アニメに対する考え方が変わったという『AIR』。

取材・文/岡本大介

アニメってもっと自由でいいんだと既成概念が吹き飛んだ

――京都アニメーション制作の『AIR』は2005年の放送なので、当時の岡田さんはすでに美術監督としてバリバリと活躍している時代ですよね。
岡田 そうですね。アニメの原体験としては『宇宙戦艦ヤマト』や『マジンガーZ』などがあって、学生時代は『機動戦士ガンダム』や『戦闘メカ ザブングル』など、好きだった作品はいろいろあるのですが、今回はあえてアニメ業界に入ったあとにとくに印象に残っているものを挙げました。

――なるほど。『AIR』はどんなタイミングで見たのですか?
岡田 アニメ業界で20年間ほど美術の仕事をしたあとで、ゲーム会社に就職した時代があったんですけど、そこから再びアニメ業界に戻ってきた際、あらためて「アニメのことをちゃんと知らなきゃ」と痛感したんです。というのも、それまでアニメ業界で働いていた20年は、目の前の作業に追われて、ほとんど作品そのものを見ることがなかったんです。背景だけを描いているぶんにはとくにそれでも問題はなかったんですけど、アニメ業界に復帰するにあたっては企画初期から参加させてもらう機会が増えたので、いろいろなアニメを見て勉強しようと思ったんです。過去作品からリアルタイムの作品まで、とにかくジャンルを問わずにいろいろなアニメを見まくったんですが、TVアニメ版『AIR』はそんなときに出会った作品です。すぐに夢中になって勉強はそっちのけになっちゃいました(笑)。

――どんなところが面白かったですか?
岡田 最初はビジュアルでした。生き生きとしたキャラクターや美術に惹かれて「これはすごいアニメだ!」と確信したんですが、話数が進むごとにシナリオの精度に驚かされました。それまでは、いわゆる恋愛ゲーム系の作品ってどちらかと言えば苦手意識があったんですけど、それが一気にひっくり返されて大好きになりましたね。

――価値観が変わるほどハマったんですね。
岡田 そうですね。もともとサンライズのロボットアニメに参加することが多かったので、どれもカラッとした作品ばかりだったんですよね。前向きな少年の成長物語が多かったので、恋愛ゲームやライトノベルに多いネガティブな主人公というものになじみがなかったんです。でも、『AIR』を見てからはそういう主人公も全然いいじゃん、と思うようになりましたし、『灼眼のシャナ』や『涼宮ハルヒの憂鬱』など、ライトノベルもたくさん読むようになりました。

ファンタジーやオカルト

ホラーなどの要素が

絶妙に絡み合うことで

独特の雰囲気を醸し出していた

――具体的に印象に残っているシーンはありますか?
岡田 海辺の田舎町という閉ざされた舞台で、ファンタジーやオカルト、ホラーなどの要素が絶妙に絡み合うことで独特の雰囲気を醸し出していて、それがまず魅力的ですよね。ヒロインたちのバックボーンが徐々に明かされていく展開もよかったですし、中盤から急に1000年前の夏の出来事が描かれるという構成も新鮮でした。それまでそういうタイプの作品と出会ったことがなかったので、あらゆるところが衝撃的でしたね。

――原作ゲームは「泣きゲー」として有名ですよね。
岡田 アニメを見ていてももちろん泣きました。観鈴(みすず)のことをなんとか救ってあげたいと、かなり感情移入しながら見ていました。シナリオも作画も演出も素晴らしくて、TVシリーズでこんな高品質なアニメが作れるんだと驚いた記憶があります。それから『CLANNAD -クラナド-』や『Kanon』など、Key原作で京都アニメーションの作品をチェックしたんですけど、どれも素晴らしかったですね。

――見返すこともありましたか?
岡田 夏になるとやはり『AIR』を見たくなってしまうんですよね。当初は2~3年に一度くらいで見返していました。

――自身の仕事に影響を与えた部分はありますか?
岡田 『AIR』って、カメラアングルひとつとってもすごく自由だし、演出も新しく感じたんです。それまで僕が主に参加していたサンライズ作品は、フォーマットを重視した作りになっていることが多かったので、アニメってもっと自由でいいんだなと既成概念が吹き飛んだ気がしました。美術に関しても、それまではあまり凝りすぎると他の美術スタッフの負担が大きくなるので、描きやすいラインに落とし込んで作業量を軽減しようとばかり考えていたんです。でも、『AIR』に関してはスタッフがすごい熱量をもって臨んでいて、キャラも背景もいっさい妥協していないような感覚をおぼえたんですね。スタッフ全員が一丸となって、切磋琢磨しながらいい作品を作り上げていこうとしないと達成できないクオリティにビックリしたというのが本音で、僕もいつかこんな仕事がしてみたいという気持ちがフツフツと湧いてきました。

――アニメ業界に戻ってきて、あらためてアニメ作りの素晴らしさを感じたんですね。
岡田 そうですね。もちろん、効率やコストを軽視していいというわけではないですけど、それまでの僕は過剰に自制していたのかもしれないと思い知らされました。せっかく縁があってもう一度アニメ業界に戻ってきたのだから、これからはもっと一本一本の仕事を大切にしようと思いましたし、アニメ愛のようなものを取り戻すきっかけになった気がしますね。endmark

KATARIBE Profile

岡田有章

岡田有章

美術監督/メカニカルデザイナー

おかだともあき 1960年生まれ。東京都出身。1980年代から美術マンとして主にサンライズ作品に参加。ゲーム業界に転身後、フリーランスとして再びアニメ業界へ。主な参加作品は『勇者エクスカイザー』をはじめとする勇者シリーズの他、『星界の紋章』『絶園のテンペスト』『翠星のガルガンティア』『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE』『さよならの朝に約束の花をかざろう』など多数。