Febri TALK 2022.09.23 │ 12:30

岡田有章 美術監督/メカニカルデザイナー

③いろいろな夢がかなった
『クロムクロ』

『機甲戦記ドラグナー』や『鎧伝サムライトルーパー』など、1980年代からアニメ美術に携わる岡田有章。『ガンダム Gのレコンギスタ』や『機動戦士ガンダム 水星の魔女』など、近年も話題作に活躍するベテランデザイナーに自身にとって特別なアニメ作品を聞くインタビュー連載。3作目は、自身が世界観作りから参加した『クロムクロ』。

取材・文/岡本大介

SF設定のアイデアを採用してもらえたのは、SFファンとしてもうれしかった

――『クロムクロ』はP.A.WORKSによるオリジナルTVアニメです。岡田さんは「ヴィジュアルコンセプト・メカデザイン」のクレジットで企画段階から参加していますね。
岡田 岡村天斎監督に声をかけてもらい参加させていただいた作品ですが、とにかく楽しかったです。ロケハンに同行したり、SF設定のアイデア出しまでお手伝いさせてもらうなど、普段は美術だけを担当することが多いですから、すごくいい経験をさせてもらいました。あと僕は『true tears』が大好きで、こんなに素晴らしい仕事をされているP.A.WORKSさんの作品に参加できるという喜びも大きかったですね。おそらく自分には一生縁がないだろうと思い込んでいて、勝手に凹んでいましたから(笑)。

――ちなみに、これまでにメカデザインの経験はあるのですか?
岡田 一応はあるんですよ。2007年に放送された『GR-GIANT ROBO-』という作品でコンセプトデザインを担当させてもらって、そのときにロボットも描いたんです。ただ、そちらは原作があるのに対して『クロムクロ』は完全オリジナルなので、やっぱり苦労はしましたね。

――主人公機のクロムクロはどんなコンセプトでデザインしたのですか?
岡田 岡村監督からは「とにかくガンダムっぽいのだけはダメ」とだけ言われました(笑)。個人的には作品の世界観とマッチするように、鎧や甲冑っぽい雰囲気を出したいと思っていたんですが、実際に甲冑を着せてしまうと武者ガンダムに似てしまうんですよ。なので、ガンダムとはまったく違う関節構造にして、かつ甲冑を着せないでも鎧感が出るようなデザインを目指して試行錯誤しました。ただ、クロムクロのデザインがあまりに大変だったので、他のロボットたちはしれっとガンダムに似た関節構造に逃げちゃいましたが(笑)。

――でも、結果として、クロムクロの異質感が際立っていて映えましたよね。
岡田 そうですね。岡村監督も途中まではとくに気にしていなかったのですが、ラスボスをデザインする際に「あれ? そう言えば、クロムクロっぽいロボットって他にいないね。なんで止めちゃったの?」って言われて、ギクッとしまして(笑)。それで(最終決戦に登場するライバルの機の)ロックヘッドとオーガだけは頑張ってクロムクロと同じ構造にしました。

――個性的なロボット同士によるアクションシーンは本作最大の魅力ですね。
岡田 ロボットたちがキビキビと動いているのは岡村監督のおかげだと思います。監督がすべてのカットをチェックして動きのカッコよさを追求していましたから。完成したアクションシーンを初めて見たときは、僕の想像をはるかに超えていて感激しましたね。

ロボットたちがキビキビと

動き回るアクションシーンの

カッコよさは

想像をはるかに超えていた

――車両形態に変形するザ・キューブのデザインも印象的でした。
岡田 呼び名が「馬」であることはすでに決定していたので、車両形態の他に馬っぽい乗り物にもなれば面白いなと思っていて、じつは2段階の変形を考えていたんです。でも、どうしてもキューブからは馬にはならなかったんですよね。3Dデータで矛盾なく作る必要があったので変形に嘘がつけなくて、結局、時間切れであきらめました。岡村監督は何も気にしていませんでしたが、個人的には『クロムクロ』で唯一の心残りです。

――そうだったんですね。メカデザインは背景を描くのとはかなり違う作業だと思いますが、昔からやりたかったんですか?
岡田 今は成り行きで背景をメインに描いていますが、学生時代はなんでも描きたかったですし、それこそ世界観をイチから自由に作り上げていきたいと思っていた時期もありました。そういう意味で『クロムクロ』ではロボットのデザインも担当させていただけたので、もうめちゃめちゃ楽しかったんですよ。

――ヴィジュアルコンセプトとしては、黒部研究所の全体図を設計したんですよね。
岡田 そうです。黒部にロケハンに行ったあと、国土地理院の3D地形図などを参考に、スケール感などを検証しつつ、ダムと研究所の配置を決めました。やっぱり実際の景色を見られたことは大きかったですね。

――デザイン以外の仕事で印象に残っていることはありますか?
岡田 SF設定のアイデアを採用してもらえたことですね。もともと枢石(くるるいし)というガジェットを使ってワームホールを作るという大まかな設定はあったんですが、細かい部分は決まっていなかったんです。入口と出口が直結して出入りが自由というものではなく、現地と目的地に共有空間を作り、そこに入った船だけが移動できる限定的なシステムなんですけど、これを提案して、採用されたんです。ひとりのSFファンとしてとてもうれしかったですね。

――岡田さんにとって『クロムクロ』はどのような位置付けの作品になりましたか?
岡田 冒頭にも言った通り、とにかく楽しくて仕方なかったというのがいちばんで、アニメの仕事をしていて本当によかったなと感じました。憧れのP.A.WORKS作品に企画から参加できたことや、メカを含めた世界観のビジュアルを作る仕事をさせてもらったことで、僕のいろいろな夢がかなった感じがします。こんな体験は二度とないかもしれないし、ひょっとしたらこの先はもう余生かも?と寂しくなったくらいです(笑)。一生忘れられない幸せな体験をさせていただきました。endmark

KATARIBE Profile

岡田有章

岡田有章

美術監督/メカニカルデザイナー

おかだともあき 1960年生まれ。東京都出身。1980年代から美術マンとして主にサンライズ作品に参加。ゲーム業界に転身後、フリーランスとして再びアニメ業界へ。主な参加作品は『勇者エクスカイザー』をはじめとする勇者シリーズの他、『星界の紋章』『絶園のテンペスト』『翠星のガルガンティア』『僕のヒーローアカデミア THE MOVIE』『さよならの朝に約束の花をかざろう』など多数。