読者は浮気の目撃者
――第11話「堕性」(第3巻収録)に描かれた大阪旅行で、ゆにと風羽子のベッドシーンでは、セックスを丹念に描く意気込みが伝わってきました。
岩見 「ベッドインして朝チュン」な表現もできるけど、「浮気百合」だから、セックス描写からは逃げたくないと思っていました。浮気の定義は人によって違うかもしれませんが、ここでゆにと風羽子の絶対的な浮気が確定した。それを読者の皆様に目撃してもらうことで、あとのお話で描かれるゆにの葛藤や、七瀬への罪悪感、のしかかる重みが変わってきます。
――脱いで、触って、その感触をどう感じたか、ひとつひとつじっとり描かれて。
岩見 これまで参加させていただいた百合アンソロジーでも、セックスを描くことはあったから、それを見ていた読者の皆様にとっても、期待を裏切らない表現ができたと思います。ゆにたちを応援してくださる皆様に感謝の気持ちも込めて気合を入れたシーンです。最初は拒否しているのに次第に堕(お)ちて、快楽に溺(おぼ)れていく流れを描くのも好きですね。
――第15話「惑溺」で七瀬に浮気がばれてしまう場面では、七瀬がその場で問い詰めたり、怒って感情にまかせないのが七瀬らしいと思います。
岩見 七瀬は育ちが良くて、部活でもあまりトラブルに面したことがないんです。中学時代に恋愛沙汰は少し経験したけれど、だからといって衝動的にならず、冷静に考えたうえで答えを出すタイプ。一度持ち帰って考えて「ゆにを許す」という答えが出たんですね。ただ、育ちが良いゆえにゆにのメンヘラ気質に気づいてあげられない。
――七瀬にイライラしてしまう読者は、そういうところに「もっとゆにを見てあげて」と思ってしまうんですね。
岩見 ゆにも、バレーも、親友も、七瀬にとってはすべてが1番。そこがいいところだけど、ゆには「自分を1番だと言ってほしいのに」というもどかしさがあります。
――七瀬は1番を決められない、ゆには1番になりたい、風羽子は2番でいいと言いながら本当は1番になりたい。
岩見 それが風羽子の中の矛盾なんですよね。素直に言えないし、その本音に自分でも気づいていない。風羽子は両親とも関係が良くないから「愛してくれなかったらどうしよう。だったら2番でいれば傷つかずに済む」という考えです。
『今日カノ』でキャラクターを描く大切さを知った
――優月(ゆづき)の赤ちゃんを抱いて「2番でいい」から「ゆにちゃんのママになりたい」に変化したのは驚きました。
岩見 「好きな人の赤ちゃんなんて絶対に気持ち悪い」と風羽子は思っていたのに、実際に目の前にしたら、愛おしいと感じたことに風羽子自身も驚いたと思います。それはゆにを好きな自分がいたから、そう思えたのだと風羽子は考えて「今度は私がママになる」という発想に至ったんです。ただ、それはそれで歪(ゆが)んだ認識だから、今後の展開でまた少しずつ変わっていくと思います。
――七瀬の親友・雪(ゆき)についてもお聞きしたいです。このふたりは恋愛関係に発展しないのでしょうか?
岩見 可能性はゼロじゃないですが、七瀬があんな感じだから発展しない……かも? 雪は七瀬のことが好きだけど、「私たちは親友」と無意識に自覚しないようにしています。どちらかが行動を起こせば関係が変わるかもしれません。ゆにからすれば、七瀬の雪に対する行動も浮気に近くて、イライラしてしまうポイントです。
――第6巻では、みんなが体育祭をがんばっている裏で、ゆにと風羽子は体育倉庫でこっそりいけないことをしていますね。岩見先生のSM好きがすごく表れている。
岩見 風羽子ママがゆにをお仕置きしてくれるから、描く側としてもありがたい限りです。風羽子が鉢巻(はちまき)でゆにを縛る場面は、ぜひ読者の皆様にも見てもらいたいです。SMは好きだけどわざわざボンテージを着たり、あらかじめ準備されたSMではなくて、日常のそこにあるものでSMをさせたいんです。拷問も同じで、日常にあるもので拷問を描きたいです。
――『絶交』では楽器屋や文房具を使って相手を攻めていましたね。
岩見 そこに対するこだわりは強いです。その場あるものでやるのが臨場感や現実感がって、感情の発露としてのSMになる。それがすごくいいです。
――風羽子を「瀧(たき)」と呼ぶ、謎めいた女の子も新たに登場して、この恋愛模様がいい意味でどうぐちゃぐちゃになるのかますます楽しみです。
岩見 新しいキャラクターを登場させるのは、皆さんがどう感じるのか緊張しますね。
――『今日カノ』は岩見先生のこれまでの作品の中でも、いちばんの長期連載作になりました。ここまで描き続けて、岩見先生自身の変化はありましたか?
岩見 『今日カノ』を描いてからは、皆さんに風羽子が好きとか、ゆにがかわいいとか、キャラクターに対する感想をたくさんいただくようになりました。今まで連載がうまくいかなかったときは、シチュエーションや関係性に重きを置いて作品を描くことが多かったんです。『今日カノ』のおかげでキャラクターの大切さをあらためて実感できました。だからこの子たちに感謝しているし、いいクズになってくれたと思っています。
- 岩見樹代子
- いわみきよこ 2011年に『絶交』で『アフタヌーン』で萩尾望都特別賞、2012年に同誌にて『千代のくちびる』で四季大賞を受賞。2017年に『あのレモンかじって。』で第17回 百合姫コミック大賞受賞を経て、『コミック百合姫』にて『透明な薄い水色に』『ルミナス=ブルー』を連載。現在は『今日はカノジョがいないから』を連載中。
作品名 | 掲載誌(掲載年) |
---|---|
絶交 | アフタヌーン2012年1月号 付録[アフタヌーン四季賞portable2011秋](2011) |
千代のくちびる | アフタヌーン2012年7月号 付録[アフタヌーン四季賞portable2012春](2012) |
あのレモンをかじって。 | コミック百合姫 2017年9月号(2017) |
エプロン | コミック百合姫 2017年10月号(2017) |
透明な薄い水色に | コミック百合姫 2017年12月号(2017) |
半透明少女遺伝子 | パルフェ: 2 おねロリ百合アンソロジー(2018) |
ルミナス=ブルー | コミック百合姫 2018年12月号(2018) |
sugar cigaret | レズ風俗アンソロジー(2019) |
my sugar cat | レズ風俗アンソロジー リピーター(2019) |
あいかぎ | シロップ NIGHT 初夜百合アンソロジー(2019) |
つぶらな純潔 | 恥ずかしそうな顔でおっぱい見せてもらいたい 赤面おっぱいアンソロジー:4(2020) |
やくそく | シロップ HONEY 初夜百合アンソロジー(2020) |
こどものままで | シロップ PURE おねロリ百合アンソロジー(2020) |
clockwork sugar night | レズ風俗アンソロジー プレミアム(2020) |
永久少女信仰 | コミック百合姫 2020年12月号(2020) |
今日はカノジョがいないから | コミック百合姫 2021年8月号(2021) |
