――ひとりでマンガを描きながら、監修・キャラクターデザインとして映画『海辺のエトランゼ』にも携わったのですね。制作に参加していかがでしたか？
紀伊　普段から客観的に自分の作品を見るようにはしていますが、自分の作品を他の人が見て、そのうえでアニメ化してもらえたのはいい経験でした。大橋（明代）監督はスタジオ在籍時代の同僚なのですが、私が退職したあとに演出を手がけるようになった人で、友人であり趣味も近いので、仕事するうえでも気兼ねなくいろいろな意見を言えたのもよかったです。

――映画『アイの歌声を聴かせて』（2021年10月29日公開）ではキャラクター原案を担当しています。
紀伊　私の作業順序としては『海辺のエトランゼ』の映画より『アイの歌声を聴かせて』のほうが先で、こちらはプロデューサーの方が私のマンガをネットで見かけて吉浦（康裕）監督に提案してくれたのがきっかけだったようです。なので、おそらく私の「いつもの感じ」が求められているはずだろうと、なるべく普段通りのテイストを心がけてやらせていただきました。

――アニメとマンガの作画で、紀伊さんにとっての違いはありますか？
紀伊　アニメのキャラクター原案の場合は、なるべく線数やパーツを少なくすること。メインキャラクターは見てわかりやすく、キャラごとに見分けがつく造形を目指して、あとのかわいさやカッコよさなどはアニメーションで演出してもらうつもりでデザインしました。あくまで原案なので、自分よりあとに作業する方々に方向性を示すのが大事なんだろうと思っていました。意識しているのはそれくらいで、マンガだと自分ありきなので、もうちょっとふざけたり遊びのニュアンスが足されるかなと思います。

――紀伊さんはデビュー以降、連載、映画への参加と、活躍の幅を広げています。子供の頃に漠然と描いていた夢がかなった状態ですね。
紀伊　いわれてみるとそうなんですよね。漠然と「絵で働ければいいか……」でここまで来たなぁと。実際は継続することがいちばん難儀だなぁと感じます。継続するために自分のモチベーション維持や機嫌をどう取っていくか、どうすれば日々、気分よく過ごせるかを考えるようになりました。

――自分の中で何か答えはありますか？
紀伊　ないですね～！　長年の課題です。他のクリエイターの方は答えを見つけているのでしょうか？　 私はまだ模索中です。人によって全然違うと思います。

――これからやってみたいテーマやジャンルは？
紀伊　これまでと変わらず大きな流れの隙間にあるテーマに興味があります。大衆向けからはあぶれるけど、心の琴線に触れる作品に出会いたい。必要な人に向けた、隙間に作品を投げていきたいです。

――具体的にいうと、どういったものでしょうか？
紀伊　うーん、ガールズラブとか？　百合というより、現実的で完璧にラブと言いきっている元気なやつ。あと逆に恋愛しない関係性とか。もう10年ほどBLと向き合っているので、そのあたりに興味があります。漠然として明確じゃないですが、たとえば、お祭りで花火が打ち上がるとみんな空を見ますが、地面には落ちている石や花などさまざまなものがあるので、そういったものを探求したいです。

――「花火に照らされた地面の草木もきれいだよ」みたいな。
紀伊　いえ、きれいじゃなくてもよくて「そこにあるんだよ、石が」くらいの感じで……。私自身が大きい流れに乗りきれず、小川でぼんやりしてしまうことがけっこうあるので、同じ感覚の人に向けた作品になると思います。