自分と主人公との距離感が難しい
――次の作品『時空異邦人KYOKO(以下『KYOKO』)』も『ジャンヌ』同様にデビュー以前に簡単な設定があったそうですね。
種村 それがまさに、さっき話したいとこが「読みたい」と言っていたものなんです。響古は初めて自分の描いたキャラクターに名前をつけた子ですね。その落描きの時点で、妹姫のあたりの設定も考えていたはずです。
――他の作品でもそうした設定先行で、あとからストーリーを考えることが多いのですか?
種村 作品によりますね。タイトルから決めるものもあれば、キャラから話を作るものもあれば、ストーリーから決めるものもあって。『ジャンヌ』『KYOKO』はキャラから、『満月をさがして』はタイトルとストーリーからです。『紳士同盟†』は『うる星やつら』みたいにしたくて、とにかくキャラをたくさん描いて、そこから名前や話を決めて、そういった多種多様なキャラたちをまとめるための設定として帝国学園という巨大学園が生まれました。
――なるほど。順を追って聞きますが、『満月をさがして』はそれまでの2作とテイストが変わりますね。
種村 『ジャンヌ』と『KYOKO』は私の陽の部分なんです。だから、もっと陰の部分というか、毛色の違うものを描きたくなったんです。でも、それだけだと『りぼん』には載せられないので、タクトとめろこの可愛らしい容姿を出して明るくしました。ただ、やっぱりテーマは「命」と「夢」という陰のものですね。あともうひとつ、「もし、私がぴえろの魔法少女ものを作ったら?」というのが、作品のアイデアを考える入り口ではありました。
――文庫版に寄せた原稿で、先生の中でも少し特別な位置づけにある作品だと書いてありましたが、それは具体的にどのあたりでしょうか?
種村 やっぱり主人公の満月ちゃんが、他の作品の主人公と並べるとちょっと浮いていますよね。おとなしい頑固者というか、見た目にも陰の空気があるので。私のキャラはストレートに気が強い子が多いんです。
――10代の女の子がいきなりスターダムに上って、その中で戸惑いながら成長していくという姿は、先生自身のマンガ家としての姿にも重なるような。
種村 そうですね。でも、じつは一度、自分を投影しすぎたネームを描いて全ボツになったことがあるんです。そのときにあらためて「表現って難しいな」と思いました。投影しすぎてそのままの気持ちを描いても、ただの日記みたいになってしまう。もっと噛み砕いて、別物として表さないと表現にはならない。だから、その全ボツ以降はむしろ満月ちゃんを少し突き放す感じで描いていました。満月ちゃんあたりから、自分と主人公とをどんどん切り離していった感じはありますね。とはいえ、あまり高みから見下ろしすぎても感情移入できなくなってしまうので、キャラとの距離感の取り方は毎回難しいです。
――この作品では、登場人物の英知くんにも思い入れが深いとか。
種村 本当、タクトには申し訳ないんですけど、たしかに個人的に英知くんへの思い入れの強さはあります。満月ちゃんの初恋の人なので、綺麗に描こうと思って、私の中の理想の少年像を集めた子にしたんです。世間的な評価では「優しい男」って言われているんですけど、私の中ではそうではなくて、満月ちゃんにしか興味がないというか、満月ちゃん以外には絶対冷たいと思います。それくらい純粋なところがある。主人公が満月ちゃんで、読者の皆さんも満月ちゃんに感情移入するから優しく見えるだけなんですよ。
――やはり今でも、自身のキャラクターであえて1番を選ぶとしたら英知くん?
種村 どうだろう……でも、やっぱりそうなりますかね。「自分の手に負えない」という意味でも特別なんです。
普通の少女マンガを描くのに飽きていた
――続いて『紳士同盟†』ですね。先ほど『うる星やつら』をやりたかったとのことですが、一方で、お話は先生の作品の中でもとくにアダルトな一作です。
種村 当時、私がもう普通の少女マンガを描くのに飽きていたんですよ。とにかく読者に先読みされるのが嫌で。少女マンガって、ヒーローとヒロインが出てきたら最終的にはくっつくんだろうって思われちゃうじゃないですか。でも、どの方面にも可能性がある、誰と誰がくっつくかわからないよ!?みたいな変なマンガを作りたかった。「男女がくっつくなんて誰が言った!?」みたいな。だから描いている自分自身も、このキャラは最終的に誰とくっつくんだろう?とドキドキしながら描けました。なぜかドイツでやたらと人気があるんですよね。
――個人的には『りぼん』のマンガで「サセ子」という設定のキャラ(天宮潮)が登場したのが衝撃的でした。
種村 私、『風と木の詩』のジルベールがすごく好きなんです。だから、潮は私の中ではジルベールだと思って描いていました。少女マンガに同性愛や性的描写が入るのは当然で、私が描いているのは古き良き少女マンガだよ!って、当時からずっと考えていましたね。彼女のしていることはたしかに一般的な道徳からは外れているかもしれませんが、ちゃんと信念がある。マンガは学校で教えてくれる道徳の外にあることを伝えるものだと思っていますし、潮みたいな子って現実にも多いと思うので、描くことには何の抵抗もありませんでした。
――お話を聞いて、深く納得しました。さて、続く『桜姫華伝』は平安時代が舞台の和風ファンタジーです。
種村 マンガ家たるもの、まだ世間にないものを作りたくなるんですよね。そうなったときに、歴史ものというか、平安ものって『りぼん』にはまだなかったので、じゃあ作ってみようと。もともと自分が好きだったというのもありますし、海外の読者さんがとても増えていた時期だったので、会社の偉い方から「海外向けにしてほしい」という要望もありました。だから、ヒロインの名前を「桜」というわかりやすい和風な名前にして、日本を代表する作品である『かぐや姫』の物語、そして平安時代というキャッチーな要素を取り入れたんです。
主人公ふたりだけの物語を考えるのが新鮮で楽しい
――その後、『マーガレット』で始めた『猫と私の金曜日』は、絵柄もストーリーもガラッとテイストが変わります。キャラの人数も減り、お話も現代が舞台の恋愛ものに。
種村 せっかく『マーガレット』で描かせていただくんですから、普通の少女マンガを描きたいと思ったんです。その上で『桜姫華伝』と同じく、掲載誌にまだないものを作りたい気持ちもあって。そう考えると、歴代の『マーガレット』でも小学生の男の子がヒーローの作品はなかったんです。私自身は、昔から『花とゆめ』などでそういう作品も読んでいたので違和感はなかったですし、絶対魅力的になるだろうと。『花とゆめ』系の作品に出てくる小学生の男の子はわりと硬派で真面目な子が多かったので、じゃあ私は軟派にしてやろうということで、ちょっとタラシっぽい猫太君が生まれました。やっぱり、まだないところを突いていきたいんですよね。
――新機軸での執筆は大変でした?
種村 難しかったですね。画面的には、ファンタジーや時代ものよりもかなり楽になったし、キャラを絞ってとにかく主人公ふたりだけのお話を考えるのも新鮮で、楽しくはあったのですが。
――小学生の男の子と高校生の女の子の恋愛という設定こそ過激ですが、年齢のギャップや家庭環境に恋愛が左右されるところなど、これまでの作品と毛色を変えた地に足の着いた展開も印象的です。
種村 この作品は地道にやっていきたかったんです。なにより主人公の愛ちゃんが普通の女の子だったからですね。愛ちゃんは行動に制限の多い子でした。これまで描いてきた主人公たちと違って、何もできない。
「描けなくなるまで」描き続けたい
――現在(※取材は2016年2月に実施)は『31☆アイドリーム』『瞬間ライル』『アイドリッシュセブン TRIGGER -before The Radiant Glory-』の3作品を手がけています。
種村 『31☆アイドリーム』は初めて30代のキャラを主人公にしていて、それもあってか無理をしないで等身大で描いています。こう言ってはなんですが、あまりヒットさせようとも思っていませんし、掲載誌を盛り上げなきゃとかも思っていなくて、何も気負ったところがありません。編集部からも過度な期待をされていないのがわかるので、描きたいことをリラックスして丁寧に描いていこうと思っています。誤解のないようにしたいのですが、担当さんは私の作品をすごく好きでいてくれた方なんです。私のこれまでの作風をよくわかっているからこそ違うものを、という熱意あるオーダーで始まった作品です。『瞬間ライル』は、20年来の親友の喜久田ゆい先生とご一緒させていただいているんですが、彼女と友人としてお付き合いさせていただくなかで感動したこと、親友でいて良かったと思う瞬間がよくあるんですよ。でも、彼女はそれをなかなかマンガにしないんです。「あのときのネタ、マンガで出してよ!」っていうジレンマがずっとあって。かといって私が勝手にネタにすることも当然できない。ただ、共作だったらそれができる!と。私が彼女に感じたことや、彼女のおかげで成長できたことなどを、作品の中にどんどん出していきたいと思います。あと、喜久田先生は絵が上手で、私が自分の絵では表現できないものも描いてくれるというところで助かっていますし、信頼しています。
――『アイドリッシュセブン TRIGGER -before The Radiant Glory-』は、『風男塾物語』に続く、男性キャラクター中心の作品です。
種村 大元のソーシャルゲームにキャラクター原案として参加してはいるのですが、とはいえ原作はバンダイナムコオンラインさんですし、ノベライズは都志見文太先生が書かれています。要するに、他の方の作品を預かっている立場なので、かなり緊張しながら描いていますね。私が関わったことで、少しでも作品が悪くなることがあってはいけないですから。
――そうした多忙な創作活動のかたわら、トークイベントを自主企画したり、歌を歌ったり、多岐にわたる表現活動を展開していますよね。そうした広い意味での今後の活動の目標は?
種村 やっぱり本業はマンガ家ですから、あくまで主軸になるのはマンガで、良いマンガをさらに描いていきたいです。『マーガレット』で始まる新連載(『悪魔にChic×Hack』)も頑張りたいですね。
――ちなみに「いつまで描き続けたい」という具体的な目標はあるのでしょうか?
種村 それはもう、「描けなくなるまで」ですよ。幸い、今はお仕事をいただけていますけど、もしお仕事がなくなったとしても、たぶん私はずっと何かしらマンガを描いていると思います。
- 種村有菜
- たねむらありな 1978年生まれ、愛知県出身。「りぼんオリジナル」(1996年6月号)に掲載された『2番目の恋のかたち』でデビュー。初の長期連載作品『神風怪盗ジャンヌ』は累計発行部数500万部を超える大ヒットとなり、TVアニメ化もされた。マンガ家のみならず、トークイベントの自主企画やネットラジオなど幅広く活動を展開。2013年から「メロディ」にて『31☆アイドリーム』を連載するほか、2015年より大人気スマートフォン向けアプリゲーム『アイドリッシュセブン』のキャラクター原案を手がける。
作品名 | 掲載誌(掲載年) |
---|---|
【デビュー作】2番目の恋のかたち | りぼんオリジナル(1996) |
かんしゃく玉のゆううつ | りぼん(1997) |
イ・オ・ン | りぼん(1997) |
神風怪盗ジャンヌ | りぼん(1998) |
時空異邦人KYOKO | りぼん(2000) |
満月をさがして | りぼん(2002) |
紳士同盟† | りぼん(2004) |
絶対覚醒天使ミストレス☆フォーチュン | りぼん(2008) |
桜姫華伝 | りぼん(2009) |
風男塾物語 | マーガレット(2011) |
【エッセイ】有菜の種 | Cobalt(2012) |
猫と私の金曜日 | マーガレット(2013) |
31☆アイドリーム | メロディ(2013) |
瞬間ライル(※) | コミックゼロサム(2015) |
アイドリッシュセブン TRIGGER -before The Radiant Glory- | LaLaDX(2016) |
悪魔にChic×Hack | マーガレット(2016) |
アイドリッシュセブン MEZZO”-紫青の霹靂- | LaLaDX(2016) |
アイドリッシュセブン 流星に祈る | LaLaDX(2017) |
アイドリッシュセブン クーラーとパンツ | LaLaDX(2017) |
アイドリッシュセブン グッドモーニング、ラフター! | LaLaDX(2017) |
アイドリッシュセブン Re:member | LaLaDX(2018) |
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- ©種村有菜/集英社・東映アニメーション