SERIES 2023.03.31 │ 12:00

『神風怪盗ジャンヌ Complete Blu-ray BOX』発売! マンガ家・種村有菜インタビュー①

作品に充満するポジティブなエネルギーで、多くの乙女たちに(大袈裟な物言いではなく)生きる勇気、戦う強さを与えてきた種村有菜。デビュー20周年を過ぎてなお、ますます旺盛なその創作意欲の源にあるのは何か。これまでの作品を振り返りながら、あらためて語ってもらった。

取材・文/前田 久

※雑誌「ガールズFebri」(2016年6月発売)に収録されたインタビューの再掲載です

最初、マンガ家になるのは無理だと思っていた

――子供の頃に触れた作品で、ご自身の人格形成や、後の作品に影響を与えたと思うものは?
種村 私をオタクにしたのは、小学校1年生のときに見た『風の谷のナウシカ』なので、宮崎駿さんは私のオタク人生の中でなくてはならない人ですね。それから、自分にとってのオタク第2期の始まりが『ふしぎの海のナディア』なので、庵野秀明監督からもかなり影響を受けていると思います。

――グッと来たポイントはどこだったのでしょう?
種村 おふたりとも女の子の描写に並々ならぬこだわりがあるんですよ! そこにいちばん影響を受けていますかね。

――エッセイではいわゆる「ぴえろ魔法少女シリーズ」、とくに『魔法の天使 クリィミーマミ(以下、クリィミーマミ)』が好きだったとの発言がありますが、そのあたりはオタクとして好きだったわけではなく、普通に子供の目線で好きだった?
種村 そうですね。世代的に『クリィミーマミ』に始まる「魔法少女もの」4作品があって、そのあとに『アイドル伝説えり子』『アイドル天使ようこそようこ』があり……この流れには大変お世話になりました。

――その流れで『美少女戦士セーラームーン』には行かなかった?
種村 『セーラームーン』のときはお兄ちゃんに迫害を受けていたんです。「お前も中学生なんだから、アニメなんか見るんじゃない」って言われて、テレビのチャンネルを変えられる。だから、『なかよし』を買っていたいとこと協力して、原作で追いかけていました。コミックスも集めていましたね。

――そんな種村先生が、自分でもマンガを描いてみようと思い立ったのは、何がきっかけだったのですか?
種村 最初はイラストレーターになりたかったんです。マンガには絵を描く以外にも、お話を作るとか次元の違うスキルが必要だから、自分には無理だと思っていたんですね。でも、学校のクラスではいつも「3番目くらいには絵がうまいよね」と言われる位置で、イラストレーターの道も難しいと感じていたんです。ただ、いとこだけは私の絵がいちばんうまい、好きだ、と言ってくれて。だから私、いとこにずっとオリジナルの絵を描いて、プレゼントしていたんです。誕生日に私の描いた絵が100枚欲しいと言われて、本当に100枚描いて贈ったこともありました。もちろん、描いたのは全部オリジナルのキャラクターです。

――すごい!
種村 そうやって描いていくうちに「このキャラのマンガが読みたい」と言われて。それで本格的なマンガを描くようになりました。それまではまったく描いたことがなかったんですよ。同人誌もやっていませんでした。

読者のファンレターがなければ今の私はなかった

――マンガの描き方で影響を受けた人は?
種村 マンガはとにかくたくさんの作品を読んでいたので、具体的な名前を出すのは難しいんですが……当時の『りぼん』連載作家さんは、全員から影響を受けていると思います。中でもとくに楠桂先生、谷川史子先生、長谷川潤先生、それから、さくらももこ先生にもすごく影響を受けています。『りぼん』以外だと、当時『少女コミック』で描かれていた藤田和子先生と篠原千絵先生ですね。

――ああ、その影響関係はとても納得しますね。投稿を経ての読み切りデビュー作から初連載まではずいぶん早かったと思いますが、これは当時の担当編集さんの方針だったのでしょうか?
種村 いえ、全然そんなことはなかったです。編集部には正直なところ、デビュー読み切りは全然期待されていなかったんですよ。でも、デビュー作が『りぼん』の増刊号に載ると、ファンレターが500通も来たんです。本誌ではなく増刊の、しかも読み切りのデビュー作にこんなにファンレターが来ることはないぞ!って、編集部の方が驚いて電話をかけてきたことをおぼえています。その連絡が来たときは2作目のネームを直している途中だったんですが、編集部から「もう枠を空けたから、直さなくていいのですぐに原稿にしてくれ」と言われて。私はやる気にあふれていたので、締切は1ヵ月後なのに2週間後にはもう原稿を送って。

――す、すごい。
種村 その頃の私はとにかく仕事がしたかったんです。「なんでもいいから仕事をさせてください!」って、ちょっとしたカットの仕事を回してもらったりもしていたくらい。とにかく「イラスト:種村有菜」という文字を誌面に残すことが大事だと思っていたので、「誰でもいい」仕事があるなら、とにかく回してほしいと編集部にアピールしていました。世間の誰も私のことを知らない状況で、まず編集部に自分を売り込むしかない!という気持ちもありましたし。そうこうしているうちに載った2作目の読み切りでも、またファンレターをたくさんいただいて、それで読み切り3作目は本誌で描くことになったんです。その判断には「やる気がある」というのも作用したみたいで、やる気アピールも生きた感じでしたね。そこから本誌での連載が決まっていきました。読者の方がファンレターを送ってくださらなかったら、今の私はなかったと本当に思いますね。

曲や歌詞からインスピレーションを受けて膨らんでいったアイデア

――初の長期連載となった『神風怪盗ジャンヌ(以下『ジャンヌ』)』を思いついたきっかけは何でしょうか?
種村 『ジャンヌ』の大元(おおもと)は投稿用に描いた読み切り作品で、その時点で作品の基本の形がほとんど形成されていたんです。その作品で担当編集さんがついてくださったので、あらためて描き直してみようかな、と思ったのがきっかけです。ただ、元の読み切りはもうちょっと明るいノリの作品で、連載作品にするにあたってまろんちゃんのバックボーンなど、細かい設定を深く考えていきました。

――『ジャンヌ』は、途中のサプライズ展開がファンの皆さんに強い衝撃を残している印象です。
種村 フィンちゃんがまろんちゃんを裏切る展開ですよね。私としてはそんな反応は全然予想していなくて、「こんなのバレバレだよ」ってなぜか思っていたんです。そうしたら読者の皆さんから「めちゃくちゃビックリしました」と言われることが多くて、逆にこっちがビックリしました。あの展開は、FAIRCHILDというバンドの『おやすみソルジャー』という歌からインスピレーションを受けたものなんです。『おやすみソルジャー』は『ジャンヌ』の裏テーマ曲にしようと思っていて、自分の中でテーマから外れそうになると、聞いて初心に帰るようにしていました。その歌詞に「運命が落としたtraitor」というフレーズがあって、「traitor」=「裏切り者」という言葉が、当時19歳の私にはかなり衝撃的だったんです。そう歌詞にあるからには『ジャンヌ』にも裏切り者を出さないと!となぜか思って、裏切り者になるとしたらフィンだよな、って。自然な発想でした。そんな風に曲全体というより、歌詞の一行だけから想像を一気に膨らませていたんですね。ちなみにデビュー後しばらくの作品は、FAIRCHILDの曲を聞いていただくと、そこからものすごく影響を受けていたことがわかります。『かんしゃく玉のゆううつ』も、「忍者のうた」からインスピレーションを受けていますし。endmark

種村有菜
たねむらありな 1978年生まれ、愛知県出身。「りぼんオリジナル」(1996年6月号)に掲載された『2番目の恋のかたち』でデビュー。初の長期連載作品『神風怪盗ジャンヌ』は累計発行部数500万部を超える大ヒットとなり、TVアニメ化もされた。マンガ家のみならず、トークイベントの自主企画やネットラジオなど幅広く活動を展開。2013年から「メロディ」にて『31☆アイドリーム』を連載するほか、2015年より大人気スマートフォン向けアプリゲーム『アイドリッシュセブン』のキャラクター原案を手がける。
後編(②)は4月4日公開予定
商品情報

「神風怪盗ジャンヌ Complete Blu-ray BOX」好評発売中
【品番】EYXA-14049~52/B~C
【形態】Blu-ray Disc4枚組+CD2枚組

【収録内容】
[本編DISC]全44話

仕様
キャラクターデザイン香川久描きおろしイラストA使用箔押しスリーブケース
キャラクターデザイン香川久描きおろしイラストB使用インナージャケット
32Pブックレット
[特典CD]
本編サウンドトラック2枚組

  • ©種村有菜/集英社・東映アニメーション