緻密に練られた会話劇が魅力
――『魔王2099』は魔法文明惑星アルネスと機械文明惑星アースが融合した世界を舞台に、近未来の配信業で信仰を取り戻そうと奔走する魔王の姿を描くサイバーパンクコメディですが、本作の第一印象を教えてください。
日野 「魔王」といえば、王道のファンタジーが最初に浮かぶと思うのですが、本作はそこにサイバーパンクという「近未来」を融合することで、面白さ、そしてエンタメ性がよりパワーアップしていると思いました。そして緻密に練られた会話劇がまた面白いんですよね。読み進めるにつれて、どんどんこの作品の魅力に惹き込まれていきました。
――そもそも、日野さんはアニメ以前に原作小説のPVでもベルトール役を演じていました。PVでは短い尺でキャラの魅力をアピールすることが求められますが、アニメとの違いはありますか?
日野 当時は原作を読み込めていなかったのですが、現場でベルトールの細かい設定や物語の概要などを教えていただき、その都度、演出でも調整しながら収録を進めていたので、基本的には(今回のアニメ版との)ベルトールの印象に大きな違いはありませんね。ただ、PVの収録のときは短い尺で作品の魅力を伝えるために、象徴となるセリフはよりインパクトが残るように表現しようと心がけていました。
――原作小説のPVに出演してから数年後、アニメ化すると伝えられた際の心境を教えてください。
日野 アニメ化に際して、マキナ役の伊藤美来さんとともに我々を再び呼んでいただけことが率直にすごくうれしかったですね。原作のPVのときはポイントでのセリフが多かったので、今回は物語を通してベルトールを演じられる喜びをかみしめています。
人たらしの才がある魔王ベルトール
――収録を経て、ベルトールをどのようなキャラクターだと解釈しましたか?
日野 ベルトールは非常に順応性の高い人物だなとあらためて思いました。彼は人の意見を聞く耳を持っていて、いろいろなものを吸収しようとする力があるんです。魔王と聞くと利己的で自分本位なイメージが強いと思いますが、彼は配下や仲間にプラスになることを常に考えているんですよね。人たらしの才があるんです。恐怖ではない部分で心を掌握するんですよ。
――ベルトールを支えるマキナとのやり取りも本作の魅力です。日野さんはマキナをどのようなキャラクターだと感じていますか?
日野 マキナは非常に忍耐強く、物事を冷静に判断できる賢さとベルトールのためなら非情にもなれる強さを併(あわ)せ持つ人物だと思います。そして、彼女は心の底からベルトールを慕い、支えている存在であることがすべての言動から伝わるので、ベルトールにとってもかけがえのない存在であることは間違いないですね。
――マキナ役の伊藤美来さんとの掛け合いで、とくに印象的だったシーンはどこですか?
日野 第2話はマキナとふたりでしゃべるシーンが多かったので、印象的なシーンが多いです。なかでも膝枕のシーンが面白くて好きですね(笑)。
――マキナや高橋といったヒロインとの掛け合いで意識していることを教えてください。
日野 ベルトールは基本的に誰が相手であろうともぶれず、彼なりの一定の礼儀を弁(わきま)えて向き合う人物なので、ヒロインによって大きく対応を変えることはありません。
魔王の佇まいから自然と出る驚きが面白い
――第1話は重厚なファンタジーテイストで物語が始まります。目覚めたあとと前とでは、演じ方を変えましたか?
日野 ベースはとくに何も変えてはいません。ただ、いくら魔王といえど、自分がいた世界と大きく様変わりした環境を見たときの第一声はオーバーに驚きました。それでも彼は非常に順応性が高い人物なので、そのあとは普段通りの冷静沈着なベルトールに戻しています。
――第3話から本格的に配信活動がスタートします。配信活動の様子を演じるにあたって、なにか参考にしたことはありましたか?
日野 息子がたまに見ているゲーム攻略の配信者のチャンネルを横で見ていました(笑)。テンション高めのゲーム配信者の方が多かったので、その雰囲気を取り入れてみました。
――本作の収録中、音響監督の明田川仁さんから受けたディレクションで記憶に残っていることを教えてください。
日野 コミカルなシーンでも周囲に流されず、テンション自体は魔王としての威厳を保つということですね。視聴者目線では面白いシーンであっても、ベルトール自身は面白くしようとしてやっているわけではないですし、魔王としての威厳のある佇まいからこぼれる自然な驚きなどが、結果的にコミカルに見えるところが面白いんですよね。
――これから新宿編のラストに向かっていきますが、ここからの物語を見るうえで見逃してほしくないポイントはどこですか?
日野 過去にベルトールを打ち倒した元勇者・グラムとの関係性など、ファンタジー的にも熱い展開がこれから繰り広げられるのでお見逃しなく! ベルトールもグラムもカッコいいですよ!
- 日野聡
- ひのさとし 1978年8月4日生まれ。サンフランシスコ出身。主な出演作は『鬼滅の刃』(煉獄)、『ハイキュー‼』(澤村大地)、『オーバーロード(アインズ・ウール・ゴウン/モモンガ)』など。