麗奈は人間のマニュアルを手に入れた?
――とくに印象深いシーンはどこですか?
黒沢 私はやっぱり中盤の水道のシーンです。手を洗って帰るときのあのイチャイチャした感じがすごく好きで、このくだりだけで一本お話を作ってほしいくらい(笑)。
安済 あそこは動きもすごくかわいいんですよね。「久美子なら私以外と組まないって信じてたから」と話す麗奈が、手を後ろに組んじゃったりして女の子らしいんです。あそこは麗奈自身も意識してかわいこぶっている感じがしますね。
黒沢 そのあと、肩を押されて押し返す感じも、なんか人間らしくなってきていますよね。
安済 そうそう。これまではもっと動物みたいに野生的だったのに。どこかで人間のマニュアルをゲットしたのかな?(笑)
黒沢 いやあ、あの麗奈はかわいかった。
安済 でも、そのシーンの最後に「もし、来年、私よりもうまい子が入ってきたら、麗奈はどうするんだろう?」って久美子のモノローグが入るじゃないですか。なんでそんなフラグ立てるの?って(笑)。怖い怖いって思いました。
黒沢 しかも久美子は「その疑問に蓋をした」だからね。いったいどうなるのか。
安済 超怖いんですけど(笑)。
つばめちゃんに出会えて良かった
――本作では、釜屋つばめにもスポットが当てられています。
黒沢 つばめちゃんって、今の時代にマッチした問題を抱えていますよね。彼女自身の演奏能力が低いわけじゃないのに、環境や周囲にうまくなじめないことでパフォーマンスを落としてしまうというか。性格的に難があったり、悪意があったりするわけではなく、本当にいい子なのにそうなってしまう。でも、それがたったひとつの気づきでみんなとハマるようになっていくのは、素敵なストーリーだなと。今、つばめちゃんのようなキャラクターに出会えて良かったなと思います。
安済 久美子もすごいですよね。「つばめちゃん、息してる?」って一発で見抜いて。もともとまわりをよく見ている子ですけど、あらためてすごいなって。
黒沢 久美子は癖の強い人たちに囲まれていますから(笑)。そういう環境だからこそ磨かれた観察眼なのかなって思っています。
ようやく自分の人生を歩き始める久美子の物語が楽しみ
――2024年にはTVアニメ第3期も放送されます。久美子たちも3年生に進級し、いよいよクライマックスを迎えますね。
黒沢 やっぱり寂しい気持ちはあります。長くやらせていただいているシリーズだけに、身体の一部を失うことを予告されているような感覚というか。石原(立也)監督や音響監督の鶴岡(陽太)さんは「第3期からようやく久美子の物語が描ける」とおっしゃっているんですよ。これまでまわりの人からいろいろなものを受け取ってきた久美子が、ようやく自分の人生を歩き始めるお話になると思うので、彼女にどんな出来事が待ち構えているのかとても気になりますし、私自身も楽しみにしています。
安済 「身体の一部」っていうのは本当に私もそう思います。演じていないあいだもずっと身体のどこかにいるような気がしていて(と、左の脇腹あたりを触る安済)
黒沢 え? そこにいるの? 左の脇腹に?(笑)
安済 やばっ! 無意識だったけど、ここにいたのか(笑)。とにかく、やっぱり最後はみんなで「金」を取りたいと願っています。「悔しくて死にそう」から始まった麗奈の「うれしくて死にそう」な笑顔が見てみたいですね。
黒沢 10年近く待たされているからね。
安済 そう。でも、その一方で最後の夏でも取れないっていうのもまたリアルだし、そこから受け取ることができるものもきっとあるはずだから、そんな世界線も見てみたいという気持ちもあるんですよね。
黒沢 いずれにしろ、このまますんなりとは行かなそうですよね。部内で大きな衝突がまた起きる気もしますし。
安済 そうですね。麗奈が新1年生とトラブルを起こさなきゃいいんですけど(笑)。
黒沢 第1期と同じ展開になったらどうします? 新1年生のエースから挑戦状を叩きつけられて「トランペットソロ争奪戦再び!」とか(笑)。
安済 でも、麗奈からすれば望むところでしょうね。必要以上にボコボコにしちゃうんじゃないかな(笑)。
――では最後に、読者にメッセージをお願いします。
安済 この特別編では、北宇治高校吹奏楽部の日常が垣間見られるのが魅力だと思います。本編にはあまり登場していない部員たちもたくさん見られて、「この人ってこういうキャラクターだったんだ」という発見もたくさんあって、個人的にすごく楽しめました。あと吹奏楽の経験がない私からすると、アンサンブルコンテストってこんなに自由なんだと驚きでした。緑輝と(月永)求ペアのコントラバス二重奏から始まって、大所帯での八重奏まで、こんなにも幅広いんだなと知ることができて面白かったです。部員全員が登場しますから、ぜひ劇場に何度も足を運んでいただいて、細かいシーンの隅々までご覧いただけたらと思います。
黒沢 劇場仕様になっているので、音響の作りもTVシリーズとは違うんです。環境音も演奏音も、細かい音までしっかり聞こえると思うので、ぜひ劇場でご覧になっていただきたいなと思います。あと久美子たちが2年生になったことで、顔つきも少し大人っぽくなっていたり、髪型や目つきが変わっていたり、そういう変化を探すのもきっと面白いと思います。今はいろいろな配信サービスで過去作を見ることができますから、ぜひこれを機にTVシリーズも含めて楽しんでいただきたいなと思います。
- 黒沢ともよ
- くろさわともよ 4月10日生まれ、埼玉県出身。東宝芸能所属。子役を経て劇場アニメ『宇宙ショーへようこそ』にて声優デビュー。主な出演作は『アイドルマスター シンデレラガールズ』(赤城みりあ役)、『宝石の国』(フォスフォフィライト役)など。
- 安済知佳
- あんざいちか 12月22日生まれ、福井県出身。エイベックス・ピクチャーズ所属。TVアニメ『あにゃまる探偵 キルミンずぅ』にて声優デビュー。主な出演作は『SSSS.DYNAZENON』(飛鳥川ちせ役)、『リコリス・リコイル』(錦木千束役)など。