TOPICS 2022.06.02 │ 12:00

監督が語る大ヒットアニメ 『その着せ替え人形は恋をする』の制作秘話②

「ヤングガンガン」(スクウェア・エニックス刊)で連載中の人気作を原作としたアニメ『その着せ替え人形は恋をする(以下、着せ恋)』。リアリティあふれるラブコメ描写などが評判となり、第2期を熱望するファンの声も多い本作について、篠原啓輔監督のインタビュー後半をお届けする。

取材・文/斉藤優己(パワフルプロダクション)

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

アニメのラストにふさわしい海夢の「告白」

――篠原監督が考えるヒロイン・海夢の魅力は?
篠原 海夢は素直に「かわいい」って思える女の子だと思っています。見た目だけの話ではなくて、明るく元気なところや、他人にリスペクトを持っているところも素敵です。これは僕の想像ですけど、海夢だけでなくジュジュ(紗寿叶)も他人へのリスペクトを持っている子なので、原作者の福田(晋一)先生がそういう考えをお持ちなのだと思います。あと海夢の魅力はギャップにあると思っています。たとえば、普段はすごく積極的なのに、恋愛面では面と向かって好きっていえないとか。見た目は少し軽薄そうかもしれませんが、中身はしっかりしていて、でも10代らしいところもある。そういうところに海夢の魅力を感じます。

――では、もうひとりの主人公・新菜の魅力とは?
篠原 新菜は自尊心が低く、他人とのコミュニケーションを苦手としていますが、変にこじれているわけでなく素直なところがいいなと思います。普通はもっとこじれそうなものだと思うのですが。頭師(かしらし)になるためにずっと人形作りと向き合っていたので、芯が強くまっすぐで、そういうところが素直な人柄につながっている気がします。

――アニメでは最後、海夢が寝ている新菜に「好きだよ」と言ったところでひと区切りとなりました。あのエピソードを最終回に持ってきた理由は?
篠原 脚本会議が始まった時期は、ちょうど原作コミックスの第5巻に収録されている話が「ヤングガンガン」に掲載されていた頃でした。そこまでのどの話がアニメのラストにふさわしいかをスタッフ間で話し合ったときに「ここがいい」と決まったおぼえがあります。その前の夏祭りのシーンも候補に上がりましたけど、「好きだよ」のシーンがいちばんふさわしいのではないか、という人が多かったです。

――ふさわしいと思ったのは、どんな理由が?
篠原 「海夢が新菜への気持ちを初めてはっきり言葉に出した」とても大切なシーンだと思ったからです。あそこで海夢が、どうせ新菜は聞いていないと思っていたのか、それとも新菜に聞かれてもかまわないと思っていたのかは自分にもわかりません。でも、海夢が新菜に対しての想いを口にすることで、ようやく物語が終われるというか……。言葉にするシーンを描くことで、この作品が何を描いてきたかがハッキリするように感じました。

――他にシナリオ構成の際に気をつけていたことは?
篠原 原作を読んだときに、この作品は毎回の「引き」の部分も面白いと感じていました。たとえば、原作の第1話(「自分とは真逆の世界で生きている人」)は、新菜から何のコスプレをしたいのか聞かれた海夢が「『聖♡ヌルヌル女学園』の~」と答えたところで終わります。あれは読者にもインパクトがあったと思うので、そういったパワーの強いところをアニメでも負けないパワーで描写するにはどうしたらよいか、というのは意識しました。

「自分の解釈」をできるだけ入れないストイックな意識

――作中に登場した劇中劇『フラワープリンセス烈!!』は、4:3の画面比で古めの魔法少女作品テイストになっていました。こういう画面作りにした理由は?
篠原 『フラワープリンセス烈!!』は高校2年生のジュジュが幼い頃に見ていたアニメという設定だったので、時期的に4:3になりそうなのでそうしました。ただ、単純に時代設定に合わせた場合、その頃のアニメはすでにデジタル化も進んでいて「古いアニメ」だということが伝わりづらいかと思ったので、2000年代にこだわらず、美術背景などはあえて1990年代テイストのアナログな画面作りを目指しました。現代的な画面と差別化したほうが、スタッフの方も楽しんでくれそうだなというのもあります。とはいえ、制作の都合上、実際にはアナログではなくデジタルで全部作っているので、アクションとかは現代っぽい動きになっているかもしれません。

――第6話(「マ!?」)で新菜が『フラワープリンセス烈!!』のことを調べているシーンがありました。あそこで書かれていた設定はどのように決めたのですか?
篠原 2006年から2008年という具体的な放送時期は、制作デスクの染野(翔)さんが考えた設定です。染野さんはそういう細かい設定を考えるのが大好きな方なので、おまかせしたらいろいろ考えてくださいました。あのwikiっぽい画面のテキストは、染野さんがすべて考えてくれたものです。

――第6話以降は、海夢が新菜への恋心を自覚してラブコメ要素が多くなりました。ふたりの関係性を描く際に気をつけていたことは?
篠原 原作にある描写やセリフをアニメに落とし込むだけだと説明的になりすぎてしまうので、原作よりテンポが悪くなってしまいます。なので、セリフを細かく間引いてテンポが遅くならないようにしつつ、表情を拾って心情がしっかり伝わるようにメリハリをつけたりするとかですね。ただ、描写を入れる際は、自分の作品解釈をできるだけ入れないように気をつけました。

――自分の作品解釈を入れない、というのは?
篠原 海夢と新菜の関係性って、さまざまな解釈ができると思うんです。「もう実質付き合ってるじゃん!」とふたりの先を早く見たいと思う方もいれば、「くっつきそうでくっつかない、このもどかしい関係がいい」と思う方もいると思います。そういうときに自分が「このふたりは両想いだからそれっぽい描写を足そう」としてしまったら、ファンの方が思っている解釈とのズレが生じやすくなると思います。もちろん、アニメで描写を足す以上、自分の解釈をまったく入れないというのは難しいのですが、できる限りフラットに原作の雰囲気を映像に落とし込もうと意識はしました。

――とてもストイックな考え方で作品制作に臨んでいたのですね。
篠原 これは勝手なイメージかもしれませんが、『着せ恋』のファンは若い方が多いと思っています。自分の感覚だけで作ったら絶対にうまくいかないと思ったので、恋する10代の女の子の気持ちを想像したり、10代の自分がどんな気持ちだったのか思い出したりしながら制作に臨んでいました。自分なりに試行錯誤しながら作ったアニメが、多くの方の心に残るものとなっていたならうれしいですね。endmark

篠原啓輔
しのはらけいすけ 1987年生まれ、茨城県出身。フリーのアニメ監督・演出家。監督としての代表作は他に『BLACKFOX』がある。
商品情報

『その着せ替え人形は恋をする』
Blu-ray&DVD 第1巻~第3巻 好評発売中
第4巻は6月29日(水)発売

第4巻収録内容
完全生産限定版 Blu-ray ¥7,700(税込) ANZX-15927~15928
完全生産限定版 DVD ¥6,600(税込) ANZB-15927~15928
収録話数 第7話~第8話(2話収録)

<完全生産限定版特典>
◆キャラクターデザイン・総作画監督:石田一将 描き下ろしジャケットイラスト
◆スペシャルブックレット VOL.2
◆卓上着せ替え♡カレンダー イラストカードセット(10月・11月)
◆特製リーフレット

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