まことしやかに囁かれている「隠れ公安」の存在を描いたのはこれが初めて
――本作では長野県警の面々をメインとしつつも、裏では公安の暗躍も描かれています。具体的には「司法取引」や「証人保護プログラム」を取り上げていますね。
櫻井 そうですね。第2回でもお話した通り、もともと長野県警と公安の2本柱を提案されていたので、そのために用意したネタです。コナンの世界って、FBIやCIAといった情報機関がちゃんと存在する世界観なので、それなら「司法取引」や「証人保護プログラム」というものも、そこまで違和感なく描けるだろうと思ったんです。なにより、公安の任務は地域の安全を守る警察とは異なっていて「国家の安全を脅かす犯罪の捜査と防止」なんですね。それこそテロやスパイなど、国そのものに危険が及ぶような事件でないと出てこないので、それで今回のような構図になりました。
――さらに今回は、県警内に潜伏して活動する「隠れ公安」という存在も描かれました。これは現実にも存在するんですか?
櫻井 公安のメンバーや所属については機密扱いで、一切公表されないんです。なので、真偽は不明なんですけど、まことしやかに囁(ささや)かれている話ではあります。いわれてみれば、僕自身、いろいろな作品で公安を描いてきましたけど「隠れ公安」という存在を描いたのは今回が初めてかもしれません。まあ、ちょっと聞きかじったので出してみたということで(笑)。

――取材時点ではまだ映像は完成していませんが、個人的に楽しみにしているシーンはありますか?
櫻井 第1回でも触れた、高明が窮地に立たされるシーンです。ロケーションとしては雪と氷に閉ざされた雪山ですが、弟の諸伏景光(もろふしひろみつ)との再会シーンは幻想的な雰囲気もあると思うので、そこがどのように表現されるかは楽しみにしています。映像的なところでもうひとついうと、天文台のレーザーが空に放射されるシーンも楽しみですね。最初に使用されるときは美しい映像になっていると思いますし、終盤で使用されるときは迫力満点の映像に仕上がっていると思うので、そこはぜひ楽しんでいただきたいです。あとはやっぱりキャラクターたちの魅力を存分に味わってもらいたいですね。長野県警の3人はもちろんですけど、小五郎もオープニングこそいつもの呑んだくれな感じですけど、要所要所で超人的な射撃を見せますし、鮫谷(さめたに)との関係性もグッとくると思います。また人間ドラマとしては、「司法取引」に翻弄(ほんろう)された事件関係者たちが感情を爆発させるシーンがあって、そこは今回のドラマのピークだと思うので、どんな芝居の応酬になっているのか、演出や作画も含めて楽しみです。
組織ごとの「正義」の在り方の違いはコナンの大きな魅力のひとつ
――黒ずくめの組織をはじめ、公安や赤井ファミリー、捜査一課、長野県警など、毎回異なる組織やキャラクターをフィーチャーしてきた櫻井さんですが、今後描いてみたい組織やキャラクターはいますか?
櫻井 水無怜奈(みずなしれな)と本堂瑛祐(ほんどうえいすけ)ですかね。怜奈は『黒鉄の魚影』でも登場しましたけど、彼らが背負っているものもかなり面白いと思うんです。たとえば、怜奈はCIAに所属しているけれど、じゃあ100%アメリカのために動いているかといわれると、僕にはそうは思えないんですよ。もちろん、CIAの諜報員になるには国家に忠誠を誓わないとなれないんですけど、でもそれだけじゃないような気がして。そういう点では、完全に国のために動いている公安の降谷零(ふるやれい)とはまた違っていて、その違いが気になります。コナンの登場キャラクターにはそれぞれ信念がありますけど、それは所属している組織にかなり影響を受けているところがありますよね。コナンはあくまで探偵であって警察ではないし、公安やFBI、CIAでもそれぞれ違う。でも、それでいてみんなが「正義の味方」というのが重要なポイントで、そこが面白いなと感じます。守るべきは人なのか国なのか、はたまた別のものなのか、正義の在り方や優先順位が違うからこそ、時にはぶつかってしまったりもするんですよね。そういう信条の違いというものは、長年脚本を書いていても興味が尽きないところだなと思います。

――最後に、ファンに向けてメッセージをお願いします。
櫻井 なんか小難しいことを言ってしまいましたけど、基本は自由に楽しんでいただきたいです。とくに今回は敢助と由衣の恋愛にもちょっと進展がありますし、敢助が10か月間行方不明で死んだと思った由衣がどんな想いを抱えて生きてきたのかが垣間見えるセリフもあったりと、原作を補完する意味合いもあるので、そこはぜひ見ていただきたいと思います。一方、事件モノや警察モノが好きな人は、真相や顛末(てんまつ)はもちろん、今回の事件を招いた本当の原因は何だったのか、さらに深いところまで想いを馳(は)せていただけるとうれしいです。ぜひ何度でも楽しんでください。