TOPICS 2025.05.23 │ 12:00

シリーズ歴代No.1スタート‼ 劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像』監督・重原克也インタビュー②

長野県警・大和敢助(やまとかんすけ)の隻眼に秘められたミステリーと壮絶なアクションで、シリーズ歴代No.1スタートを記録した劇場版『名探偵コナン 隻眼の残像(せきがんのフラッシュバック)』。監督・重原克也(しげはらかつや)が語る制作秘話の第2回は、毛利小五郎の魅力やコナン、公安警察との関係性について。バックストーリーがあるからこそ生きるキャラクターたちと、青山剛昌が描いた「最後の写真」のラフの秘密に迫る。

取材・文/高野麻衣

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

今作で描かれた「本来の小五郎」

――前回話した長野県警と並んで、大活躍するのが毛利小五郎です。たとえば、会う人会う人に当たり前のように「鮫谷浩二(さめたにこうじ)=ワニ」で話して、それがクライマックスの謎解きで生きてくる。あれは覚醒した小五郎があえてやっているのでしょうか?
重原 最初は意図していなかったと思うんですよね。普通に友人との会話の延長で話していて、途中で「あ、これじゃあ伝わらないんだ」と気づく。同時に違和感にも気づいたんだと思います。

――なるほど。小五郎が情に厚い人物であることはわかっていましたが、その激情の先に、冷静なひらめきがあるわけですね。
重原 はい。僕の印象では、小五郎って普段から今回のようなキャラクターなんですよね。たとえば、コナンに対する「子供がこんなとこに来るんじゃねえ」みたいな受け答えって、スタンスとしては常に変わっていないし、仲間のために自分が絶対謎を解くという心意気も普段と変わらないですよね。『名探偵コナン』は基本的にコナン目線なので、ちょっと情けないところばっかり目立ってしまうけど(笑)、今回は「本来の小五郎」にフィーチャーして、ちょっと主人公っぽくメインで見せています。覚醒した、というと今回が特別みたいに思えるかもしれませんが、小五郎は変わっていないんです。みんなの見る目や、視点が変わっている。そんなつもりで描きました。

――納得です。小五郎と、『ゼロの執行人』で因縁のある公安警察官・風見裕也(かざみゆうや)とのタッグも熱かったのですが、安室透(降谷零)も含めた公安と、コナンや小五郎の関係性で意識した点はありますか?
重原 全員が完全な味方じゃないという点ですね。青山先生も「安室とコナンっていうのは完全な味方同士じゃなくて、ちゃんと腹の探り合いしなきゃ」ともおっしゃっていたので、そこには注意を払いました。お互いに知っている情報を小出しにして共有しながら、「ここまで知っているなら、ここまで話してもいい」みたいな、駆け引きをしている感じです。そうやって、全員で事件の真相に近づいていく。だから彼らのやり取りは、ストレートにならないし、なんとなくみんな遠回しなんですよね。

――明確な「仲間」じゃない人たちならではの、絶妙な距離感ですね。
重原 互いの探り合いですよね。風見と安室ですら、探り合いなんです。安室はどうかわからないですけど、風見はいつもどこか言いづらそうに、聞きづらそうにやり取りするじゃないですか。それも探っているわけですよね。

青山剛昌先生がラフを描いてくださった「最後の写真」

――風見は安室やコナン、今回は小五郎にも振り回されて大変そうでした。風見(『純黒の悪夢(ナイトメア)』(2016年)にて初登場)のように、劇場版から原作に進出しそうなゲストキャラクター、長谷部陸夫(はせべりくお)も印象的でしたが、監督が最初にラフを描いたのですか?
重原 そうですね。最初にラフを描いたのは自分ですが、青山先生と須藤(昌朋)さんの作画を通して、いちばん変化したのがこの長谷部でした。青山先生から上がってきた長谷部のイメージが、僕の最初のイメージとはかなり違っていて、それがきっかけで「絵の芝居も声の芝居も、もっと盛っていいんじゃないか」という気づきにつながったので、ものすごく印象に残っています。キャラクター的に、エリート検事のイメージは頭にあったんですけど、あの特徴的なくせっ毛は、僕の注文にはなかったんです。青山先生から「こんな感じでどうだろう? もっと(髪の毛に)癖を作っていいかな」と。青山先生は、本当に律儀に全部描いてくださるんですよ。ワニ(鮫谷)に関しても、僕が本編と関係なく「たぶん、こういう性格のキャラだと思います」「昔、小五郎とこういうことあったと思います」とラフで出していたアイデアなども、全部描き起こしてくださって。でも、本編ではそれを描けないですからどうしようかと考えて、最後に写真として登場させました。

――ああ、あの小五郎が大切にしていた昔の写真ですね!
重原 はい。あれは青山先生が描いてくださったラフを下敷きにしています。エピローグを描いているとき、「あ、ここで使える!」と思って。

――そうしたバックストーリーがあるからこそ、魅力的なキャラクターが生まれるんですね。
重原 そうですね。デザインを考えるときに、そういう、本編にはないけど「たぶん、こいつはこういう性格ですよ」というストーリーは重要だと思います。頭の中にあったストーリーを集約して、一旦絵に起こすことによって、本編でこの性格を出せないかと広がっていく。そこに生かせたんじゃないかな、と思います。

小五郎には美味しいところを決めてもらいたかった

――小五郎とワニ、長野県警など、大人たちの警察ドラマは本当に染み入りました。ちなみに監督が、個人的に思い入れのあるパートはどのあたりでしょう?
重原 自分でコンテを切ったのは、序盤と終盤です。ここは決めないと!っていうところにはこだわりましたね。あと、やっぱりラストに全部つなげたいというのは意識していました。「ラストは小五郎が決める」ということは、もちろんシナリオで確定していたんですけど、それは長野県警ありきの決め方じゃないといけない。そしてコナンとの共闘もしっかり描きたい。全部ひっくるめて、「これは長野の事件であり、コナンが主役であり、小五郎が決めるけど、その全員で解決しました」というラストを意識していました。

――『名探偵コナン』の醍醐味ですよね。毎回魅力的なメインキャラが活躍するけれど、ラストはコナンが、絶対的主人公の余韻を残してくれる。
重原 そうですね。だから、人間離れしたアクションはコナンにある程度お任せしました。そこに至るまでは長野県警で頑張ってもらって、で、小五郎には今回美味しいところを決めてもらう。でも、その活躍は誰にも知られません。いつもはコナンが事件を解決して、手柄は「眠りの小五郎」じゃないですか。でも今回、小五郎は表舞台には出ないんです。事件を解決したのはあくまで長野県警だし、風見の工作によって、たぶん「小五郎は現場にいなかった」みたいな報告になっちゃうと思うんです。そういう、いつものコナンみたいな役まわりなんですよね、今回の小五郎は。だからこそ観客には、小五郎も主役に見えるかもしれません。endmark

重原克也
しげはらかつや アニメーション監督。主な参加作品は『モブサイコ100』、『勇気爆発バーンブレイバーン』など。2018年『名探偵コナン ゼロの執行人』よりシリーズの演出を手がけ、『名探偵コナン 隻眼の残像』で初監督を務める。
後編(③)は5月26日(月)公開予定
作品情報

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