TOPICS 2024.05.25 │ 12:00

劇場版『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』
脚本・大倉崇裕インタビュー②

重厚な歴史ミステリーと恋の行方を描き、大ヒット公開中の『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)(以下、100万ドルの五稜星)』の脚本家・大倉崇裕へのインタビュー。第2回は、主要人物の服部平次と、怪盗キッドを中心に考察したキャラクター論。名探偵のライバルと宿敵。江戸川コナンを取り巻くふたりは、なぜ愛され続けるのか――?

取材・文/高野麻衣

平次は新一よりも人間臭くて身近に感じられる存在

――前回「平次は時代劇のイメージ」というお話がありましたが、大倉さんが考える服部平次像をくわしく教えてください。
大倉 平次は「西の高校生探偵」ですが、私は彼の「剣道の達人」という設定が好きなんです。要は剣術使いですよね。(工藤)新一と並び立つような探偵なので、もちろん優秀なんですけど、新一よりも圧倒的に人間くさい(笑)。けっこうダメなところがあったり、不器用だったりな面もあって、とても身近に感じられる存在なんです。泥臭いところもあって、ボケとツッコミにいくらでも耐えられて。いわゆる名探偵ってちょっと嫌味で、それこそ新一みたいにちょっとキザで「何でもお見通しだぜ」みたいなキャラクターが普通なのですが、平次には抜けている部分もあって、そのあたりに時代劇っぽさを感じるのかもしれません。

――たしかに。昼行灯(ひるあんどん)だが、じつはキレ者、という時代劇のイメージがありますね。
大倉 そうそう。実際、いざバイクに乗せれば、剣を持たせれば強いぜっていうヒーロー的な部分がありますよね。一見ダメだけど本当はすごいという、時代劇のキャラクターに合うと思っていたんです。私は時代劇が大好きなので、そんな平次が好きなんですよね。ずっとそういう平次でいてもらいたい。だから今回も「平次vsキッド」というお題をいただいた当初から、刀でチャンバラをやらせたかったんです。

――一方の、怪盗キッド(以下、キッド)という存在を大倉さんはどのように受け止めていますか?
大倉 難しいキャラクターであることは間違いありません。キッドは存在自体がファンタジー(笑)。どうしてコナンの世界になじめているのか不思議なくらい、じつはちょっと異質な存在ですよね。別作品の主人公なので当然かもしれませんが、あのキャラクターをなじませるのは意外と大変なんです。ただ、それ以上に苦労したのが、コナンたちとの距離感。どうしてもキッドとコナンを仲良くさせたくなっちゃうんですよ。彼らは敵同士ですが、劇中ではひとつの目的に向かって進んでいくので、深い意味での共闘をさせたくなってしまう。でも、やっぱりコナンは探偵で、キッドは怪盗であって、絶対に相いれない存在。平次とコナンはよきライバルですが、キッドとコナンはライバルですらない。青山先生はそこを大事にしているので、もうちょっと距離感を保ってほしいということと、キッドがいいことをしすぎないようにというリクエストをいただきました。そこをクリアすると非常に華のある、何でもできる楽しいキャラクターなんですけどね。

――ご苦労の甲斐あって、今回は名探偵たちと怪盗の絶妙な空気感を楽しめたと思います。
大倉 華のある男の子3人ですからね。キッドはその輪の中にあんまり入ってはいけないのですが、キッドをミステリーの謎解きから外してしまうのは、さすがにちょっと寂しいじゃないですか。だから、謎解きの場面にも雰囲気というか、気配としてキッドにいてほしいと思って、今回コナンと平次と行動をともにするキャラクターにできるだけ多く変装させることにしました。何人か積み残してしまったのが残念だったんですけど、結果的に監督がとてもうまく処理してくださいました。キッドが「いるようでいない」という空気を観客の方に感じてほしかったんですよ。物語はどんどんコナンと平次の謎解きにフォーカスをしていくので、一瞬キッドの存在を忘れると思うのですが、忘れた頃にふいにキッドが出てくる。「あ、キッドいたじゃん!」というカッコよさも出したかったんです。とくに終盤、セスナから落ちた平次を、キッドが助ける場面。あそこは本当に自分で書いておきながら、映画を見てぐっときました(笑)。予告にもセリフが入っていて、うれしかったです。

華やかな3人組の活躍を日常を忘れてとにかく楽しんでほしい

――たしかにぐっときました! 今回は大トリで「キッドの真実」も明かされますし、中森警部銃撃のエピソードも印象的でした。やっぱり大倉さんの脚本で、刑事たちの活躍は見逃せませんね。
大倉 刑事たちが大好きだって、いつも言っていますもんね。北海道が舞台なので、道警の西村の再登場は最初から決まっていましたが、中森があれだけ出てくるのは私のゴリ押し(笑)。個人的に大好きなんですよ、中森。『名探偵コナン 紺青の拳(フィスト)』のときは海外が舞台だったので、ラストの帰国シーンに無理やりねじ込んだんですけど、いつか劇場版で大活躍させたかったんです。今回は「キッドの真実」のこともあって『まじっく快斗』との本格的なクロスオーバーの意味合いを持たせたいというのもありました。名探偵ものの刑事たちと同様、中森もわりと間抜けな役回りになりがちなのですが、基本的にはやっぱり優秀。キッドのほうが一枚上手で、いつも最終的には出し抜かれるけど、そこで初めてコナンたち名探偵の出番だよ、という段階を踏みたかったんですよね。ちゃんとやっているんだよ、警察はって。ただ、今後書きたいものとして「県警オールスターズ」は毎回言っているので、そろそろ別のものも考えなきゃいけないですね(笑)。『踊る大捜査線』みたいな、市民目線に近い警察物語はいつかやりたいです。

――楽しみにしています。すでに見返したい気持ちが高まっていますが、『100万ドルの五稜星』を2回、3回と楽しまれる方に向けて、注目してほしいポイントを教えてください。
大倉 今回は、函館という街から膨らませて、街にこだわって考えたストーリーでもあるので、背景に描かれた函館の街もじっくり楽しんでいただきたいです。背景美術の方たちが、それはもう大変な思いをされたという話も聞いているので、そのこだわりをぜひ。あと、菅野祐悟さんの音楽も素晴らしいんですよ。音楽の入り方がカッコよくてしびれる。たとえば、悪役であるカドクラの部下にキッドが変装していて、カドクラが爆弾の起爆スイッチを押そうとした瞬間に、キッドが正体をぼんって出すところがありますが、あそこの音楽がやたらとカッコよくて、いちばんのお気に入りだったりします(笑)。あの正体を現す場面は構図も作画もカッコよくて。監督もこのシーンのキッドの登場の仕方は他とかぶらないようにこだわったといっていました。あの場面を見るために、劇場へまた足を運びたいと思っています。

――まさに必見ですね。物語も作画も音楽も、あますところなく楽しみたいと思います。
大倉 はい。華やかな3人組が活躍するので、日常を忘れてとにかく楽しんでいただければ。函館の街を見る映画としても気に入っていただけたなら、ぜひ現地を旅していただければうれしいです。endmark

大倉崇裕
おおくらたかひろ 1968年生まれ。京都府出身。2001年『三人目の幽霊』で作家デビュー。『福家警部補』シリーズ、『警視庁いきもの係』シリーズなどの多彩な作風で人気を集め、ドラマ化多数。2019年『名探偵コナン 紺青の拳』に続いて、永岡智佳監督とのタッグとなる。
作品概要

『名探偵コナン 100万ドルの五稜星(みちしるべ)』
2024年4月12日(金)より、大ヒット公開中

原作:青山剛昌 「名探偵コナン」(小学館「週刊少年サンデー」連載中)
監督:永岡智佳
脚本:大倉崇裕
声の出演:高山みなみ(江戸川コナン)、山崎和佳奈(毛利蘭)、小山力也(毛利小五郎)
山口勝平(怪盗キッド)、堀川りょう(服部平次)
スペシャルゲスト:大泉洋

主題歌:aiko「相思相愛」(ポニーキャニオン)

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