TOPICS 2023.12.22 │ 12:00

あふれる原作愛を作品に昇華!
TVアニメ『ダンジョン飯』監督・宮島善博インタビュー①

九井諒子(くいりょうこ)による同名コミックを原作とするTVアニメ『ダンジョン飯』。2023年9月に完結した連載を追うように、2024年1月から放送がスタートする。ここでは、本作でTVシリーズの初監督を務める宮島善博へのインタビューをお届けしよう。第1回は、大ファンと語る原作への熱い思いについて語ってもらった。

取材・文/水葉龍弥(パワフルプロダクション)

ひとりの熱烈な原作ファン

――『ダンジョン飯』はダンジョンで魔物を料理して食べるという異色のグルメファンタジーですが、初めて作品に触れたときの気持ちを教えてください。
宮島 九井諒子先生のことは2011年に初めて発表された短編集『竜の学校は山の上』のときから知っていて、すごく面白いマンガを描かれる方だなと思っていました。九井先生の描く作品には、SFとファンタジーが混ざり合った不思議な世界観があって、そこに惹かれたんです。だから『ダンジョン飯』の連載が始まると知ったときはとてもワクワクしました。当時、料理をフィーチャーした作品はいくつかあったものの、そこにファンタジーが組み合わさるのは新しかったですし、どんな物語が繰り広げられるのだろう、という期待は大きかったですね。

――九井先生の作品のどんなところに魅力を感じますか?
宮島 まず九井先生の描く絵がものすごく好きですね。ストーリーも九井先生独自のファンタジー観を持っていることが伝わってきますし、とくに好きなのが魔法の扱いで、あくまで手段のひとつでしかない、という描き方なんですよね。魔法を使って派手に何かをするわけではなく、その抑制された感じが大好きなんです。もうひとつは、ギャグとシリアスのバランスです。短編のときから楽しんでいましたが、『ダンジョン飯』でも存分に笑わせていただきました。

――『ダンジョン飯』は九井先生にとって初の連載でしたが、魅力がより深まったと感じる部分はありましたか?
宮島 連載という形式になって、キャラクターひとりひとりがより深く描かれるようになったので、その分の厚みは感じますね。読み手側の考察する余地が増えましたし、連載を重ねていく中でキャラクターの魅力も深掘りされていく。長編の始まりから終わりまでの流れを追って読んでいくことができたのはとても素敵な時間でした。僕は連載初期の頃にはすでにTRIGGERに所属していましたが、「これ、ものすごく面白いし、ウチでアニメ化できたらいいな」と思っていました。

宮島監督が考える『ダンジョン飯』の魅力

――原作でとくに印象に残っているエピソードはありますか?
宮島 アニメのPVに出ている範囲で挙げると「動く鎧」のエピソードでしょうか。それまでは有機物を食べる姿が描かれていましたが、ついに無機物に挑む回じゃないですか。「動く鎧」を食べるためのギミックを読んだときに「この作品は本当にあらゆる魔物を食べる気なんだ」と感動しました。可食部の作り方も理にかなっていて、九井先生のファンタジーに対する造詣の深さに驚かされました。魔物に対して深い興味を持ち、魔物食にも積極的なライオスの、いい意味での気持ち悪さが顕著に出ている回でもありました。第1話から打ち出していた「魔物を食べる」という方向性がバシッと決まった印象があるので好きですね。単行本だとこれが第1巻の最後のエピソードになっているのも素敵です。

――ライオスを含む主要キャラクター4人に対する印象はいかがですか?
宮島 ドラゴンに食べられた(ライオスの妹の)ファリンを助ける、という大きな目標のもとに集まっているとはいえ、みんなそれぞれに信念や優先したいことがある。そんな4人が魔物を食べる過程で協力して心を通わせていくわけですが、必要以上にベタベタしないじゃないですか。センシはやたらと飯を食わせようとしてきますが、それは魔物食を10年以上研究してきたセンシなりの目的があってやっていることですし、ひとつのチームだけどお互い絶妙な間隔を保っている。その距離感が大好きです。

――このキャラクターたちの関係性が好き、などはありますか?
宮島 ライオスたち3人とセンシの立場の違いからくる関係性でしょうか。ライオス、マルシル、チルチャックはもともと一緒に冒険していた仲なので「ああ、こういうやりとりを昔からしてきたんだろうな」と感じますけど、そこにセンシが加わることでさまざまな会話が生まれる。3人とセンシが少しずつ仲よくなっていく過程は好きですね。罠解除のプロフェッショナルであるチルチャックと、分野は違えど同じくプロフェッショナルのセンシがふたりで話すときのかけ合い。魔物食をすすめるセンシに対して、ゲテモノが苦手で抵抗があるマルシルの、打ち解けてはいないものの会話自体は通じ合っている様子。センシとの会話を通して、そういった関係性が見えてくるのがいいなと思います。

食べるなら断然レッドドラゴン!

――原作の食事シーンでとくに魅力的だと感じる部分についても聞かせてください。
宮島 料理の絵がドーン!と提示されると、たしかに美味しそうには見えるんですけど「どのくらい美味しいんだろう?」ということまでは伝わってこない。誰かが食べて、リアクションをとって初めて味が伝わる。その伝え方がすごくうまいですよね。とくにマルシルは4人の中で読者と価値観がいちばん近いキャラクターですから、そのマルシルにわかりやすくリアクションをさせることで「なるほど、この料理を食べたらそういう反応になるのか」と納得できるようになっているのがすごいです。

――ちなみに監督が食べてみたい魔物はいますか?
宮島 やっぱりレッドドラゴンの味は気になります。原作をリアルタイムで読んだときも、「ファリンを助けるためにレッドドラゴンを倒したあと、そのドラゴンをどんな風に料理するんだろう?」とずっと気になっていました。ライオスたちがどのようにレッドドラゴンに立ち向かうかに関してはネタバレになってしまうので、気になる方はぜひアニメを見ていただけるとうれしいです。endmark

宮島善博
みやじまよしひろ アニメ制作会社・TRIGGER所属の監督、演出家。2014年にTVアニメ『異能バトルは日常系のなかで』で演出家としてデビュー。2021年にTVアニメ『SSSS.DYNAZENON』で助監督、2023年の『劇場総集編 SSSS.DYNAZENON』で監督を務める。2024年放送スタートの『ダンジョン飯』が初のTVシリーズ監督作となる。
作品情報


TVアニメ『ダンジョン飯』
2024年1月4日(木)よりTOKYO MX他全国28局にて放送開始!

  • ©九井諒子・KADOKAWA刊/「ダンジョン飯」製作委員会