「できることは全部やるぞ」という意気込みで取り組んでいる
――宮島監督にとっては本作がTVシリーズ初監督となりますが、担当することになった経緯について教えてください。
宮島 『ダンジョン飯』の原作第8巻の発売時(2019年)に作られたアニメーションCMを監督させていただいたのですが、そのときの縁で今回、TVシリーズの監督もまかせていただいた流れになります。原作付き作品で監督デビューすること自体はこの業界では普通のことですが、それが自分の好きな原作というのはすごく幸運なことで、CMの監督をまかせてもらえたときも、今回も、めちゃくちゃうれしかったですね。
――アニメーションCMはどういった経緯で監督することになったのでしょう?
宮島 タイミング的には映画『プロメア』の制作が終わったあとくらいだったと思います。アニメーションCMをTRIGGERで制作することになったので「やりたいです!」と手を挙げました。そのときの都合が許すかぎりの全力で臨んだのですが、それでもまだまだやりたいこと、表現したいことがたくさんあって「もっと長い尺があったらいろいろなことができるのに……!」と悔しさを感じたことは今でもおぼえています。そのときの心残りがあるので、今回のTVアニメは「できることはすべてやるぞ!」という意気込みで取り組んでいます。
「アニメになるメリット」を考えることからスタートした
――制作するうえでとく苦労したのはどういった点でしたか?
宮島 僕にとっては原作が最高に面白くて魅力的なので、自分の中にある「原作が至高だ!」という熱烈なファン心理とどう折り合いをつけるかが大変でした(笑)。いちばん大きな目標は、いろいろな方の目に留まる機会を増やすこと。まだ原作を知らない方や、気になっているけど読んでいなかった方たちが、『ダンジョン飯』という作品を知るきっかけになるなら、おおいに意味がある。そのためにも、原作の魅力を最大限に伝えられるアニメにしたいです。
――魅力を伝えるためにどんなところを意識したのでしょうか?
宮島 『ダンジョン飯』という作品の中で生きているキャラクターたちを、より生き生きと描くこと。視覚情報を増やすことでさまざまな動きを見せて、キャラクターの魅力を引き出すよう意識しています。「あのキャラクターたちが動いている!」という感動を付け加えた『ダンジョン飯』を皆さんに届けたい一心でした。そのために九井先生とも相談して、さまざまなアドバイスをいただきました。
――九井先生とはどんなやり取りをしたのですか?
宮島 こちらから「この場面でこのキャラクターはどんな心情だったんですか?」といった質問をすることが多かったですね。原作を読んでいたときから気になっていたことや、制作の過程で出てきた疑問を聞いていきました。その他にも「こうやって描くとライオスはよりライオスらしく見える」とか「マルシルを描くときはこのように心がけている」とか、九井先生のキャラクターの描き方をできるかぎり聞き取って、それを制作に反映しました。九井先生はシナリオ打ち合わせの段階から参加してくださっていますし、そうした原作側の手厚いバックアップを受けることができたのは本当にありがたいです。九井先生から受けたアドバイスをすべて吸収して絵に反映してくれるスタッフも頼もしいです。
――スタッフの皆さんにはどのようなディレクションを?
宮島 まずスタッフにも原作を読んでもらいました。とくにシリーズ構成のうえのきみこさんには「アニメのよさも原作のよさも両方を引き出せるようにしてほしい」というオーダーを出しましたが、見事に応えていただけました。キャラクターデザインの竹田直樹さんは僕と同じく原作ファンで「『ダンジョン飯』好きの同志」だったんです。キャラクターデザインの仕事も、「竹田さん、一緒にやりましょう」と自分が頼みに行ったほどなので、とても信頼しています。
「魔物感」と色彩が豊かな料理デザイン
――ストーリー面の見せ方で工夫した点についても聞かせてください。
宮島 原作が1話区切りで進む作品なので、その部分をまず生かしたいと思っていました。どのエピソードも1話の中に起承転結がしっかり用意されているのですが、アニメという媒体で原作の魅力を最大限伝えるために、1話の中に基本、原作2話分のエピソードを収める方式をとっています。
――料理描写についてはどのようなこだわりがありましたか?
宮島 原作の魔物食をアニメに描き起こすにあたって、もみじ真魚(まお)さんという料理イラストが得意なイラストレーターさんに「料理デザイン」をお願いしています。料理に「魔物感」を残しながらいかに美味しく見せられるかを考えたときに、専門的に料理のイラストを描き続けている方にお願いしたほうが魅力を引き出せると思ったんです。料理の内容を説明してから2週間くらいでもみじ真魚さんからラフが上がってくるんですけど、Web会議で画面を共有しつつ、お互いに意見を出し合いながらリアルタイムで料理の絵を完成させていきました。色彩豊かな魔物食の数々を見事に描き上げてくださるので、本当にお願いしてよかったです。
――気合が入っている分、制作にあたっての労力もすさまじいものになっていそうです。
宮島 そこは優秀なアニメーターが多いTRIGGERの力が遺憾なく発揮されているところです。制作陣が一丸となって取り組んでいるので「ダンジョン飯のアニメを見ることができてよかった」という感想がもらえたらうれしいです。
- 宮島善博
- みやじまよしひろ アニメ制作会社・TRIGGER所属の監督、演出家。2014年にTVアニメ『異能バトルは日常系のなかで』で演出家としてデビュー。2021年にTVアニメ『SSSS.DYNAZENON』で助監督、2023年の『劇場総集編 SSSS.DYNAZENON』で監督を務める。2024年放送スタートの『ダンジョン飯』が初のTVシリーズ監督作となる。