20年前、「ガンダム」は盛り上がっていなかった!?
――劇場最新作『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』が2024年1月26日に公開されます。ほぼ20年越しの企画実現ということで、盛り上がりがすごいですね。吉野さんもいろいろなところでお話しする機会が多いのではないですか?
吉野 そうですね。いろいろな媒体に登場するせいで、劇場版の脚本を書いていると誤解されるくらい(笑)。実際は、世界観の設定でちょっとだけお手伝いさせていただいています。
――そもそもTVシリーズの『機動戦士ガンダムSEED(以下、SEED)』に関わる流れはどういうものだったのでしょうか? 放送は2002年の秋からですから、2年くらい前には動き始めていたんじゃないかと思いますが。
吉野 『GEAR戦士電童』(※吉野氏の脚本デビュー作。『SEED』と同じく、福田己津央監督と脚本の両澤千晶氏がメインで関わっている作品。2000年10月から2001年6月まで放送)の作業が終わったあとで福田さんに呼び出されたので、僕が関わり始めたのは2001年ですね。
――2001年の後半くらいですか。その時点で企画はある程度、形になっていたのでしょうか?
吉野 僕はスタジオぬえの森田 繁さんと一緒に呼ばれたのですが、その時点であったのは企画意図をまとめたペラ1枚くらいのメモと、「ガンダムとは何ぞや?」というものを両澤さんたちが考察してまとめた文章だけだった気がします。
―――呼ばれたときの吉野さんの目には、当時の「ガンダム」というシリーズのアニメシーンの中での立ち位置はどのように映っていましたか?
吉野 当時、アニメファンの間ではそこまで盛り上がっていませんでしたよね(笑)。
―――今は「『ガンダム』といえば、歴史あるビッグタイトル」みたいな感覚が広まっているので、2000年前後のその感じは、当時を知らない人には伝わりにくいかもしれませんね。
吉野 直前のTVシリーズだった『∀ガンダム』(1999年〜2000年放送)は大変面白い作品ではあったんですけれども、「みんなの求めていた『ガンダム』」かと言われると……みたいな作品だったんですよね。それもあって盛り上がらない……もう少し正確なニュアンスで言うなら「行くところまで行き着いた」感がシリーズに漂っていた印象でした。『∀ガンダム』の放送当時、僕は「アニメージュ」の編集部に出入りしていて記事も書いたことがあったので、そんな感覚が強かったですね。そうした、一度「行き着いた」感じのところから、福田さんたちに白羽の矢が立って……という状況だった気がします。
もう一度、『機動戦士ガンダム』をやる!
―――そこにスタッフとして参加していくって、どんな気持ちだったんですか?
吉野 そうはいっても、やはり「ガンダム」ですからねぇ!(笑) 僕はガンプラブームの直撃世代だし、そういう歴史のあるタイトルに関われるのは、大変面白いことだと感じました。あと、わりと早い段階で福田さんたちから先祖返りさせるというか、「もう一度、ファーストガンダム(※シリーズ第一作『機動戦士ガンダム』の通称)をやるぞ!!」みたいな空気感が出ていたんです。
――どういうことでしょう?
吉野 さっきお話しした両澤さんが「ガンダム」とは何かをまとめた中で、本質としてとらえられていた部分に立ち返ろうとしていた。最初に出てきたストーリーのアイデアをつらつら見ても、本当にファーストガンダムの出来事を辿っていく感があったので、ますます「ああ、なるほど」と思いました。『∀ガンダム』で行き着いてしまった「ガンダム」を、新たなものとしてやり直すのもありなんじゃないか、と。
――なるほど。
吉野 とはいえ、スタッフの間では気負った感じはなく「誰も期待していないかもしれないけど、やれることをやるだけさ」みたい気持ちでやっていたのですが、放送が近づくにつれて「思っていたのと違うぞ」みたいな感じになっていくんです。ホビーショーみたいな展示イベントで大きな扱いで玩具が展開されるなど、企画の外堀が埋まっていくにつれて「思ったよりすごい規模のビッグプロジェクトだな、これ。失敗できないぞ……」と。「やっぱり『ガンダム』ってタイトルは怖いわ〜」なんて、その頃は感じていました(笑)。
とにかくネットでは、さんざん叩かれました
――企画をとりまく空気の潮目を感じたのは放送直前ですか?
吉野 そこもそうでしたけど、もっと大きかったのは『SEED』の放送が始まって、1クールが終わるあたりの反応の大きさを見たときですね。「ああ、なんかひょっとしてすごくなる?」みたいな手応えがありました。
――それくらい反響が大きかったですか?
吉野 そうですね。まあ、叩かれることも多かったですけれども(笑)。当時はツイッターじゃなくて「2ちゃんねる」の時代でしたね。とにかくネットでは、さんざん叩かれました。でも、叩かれないより叩かれるほうが2万倍くらいマシですからね。そういう批判的なものも含めて、いろいろな反響・反応が聞こえてくるのがうれしかったです。
――ポジティブな反応としておぼえているものは?
吉野 モビルスーツが活躍するシーンの福田さんのカッコいい演出は、鉄板でウケていましたね。重田 智さんの画の魅力も相まって。『SEED』のモビルスーツって、いわゆるミリタリーロボット風ではありつつも、ヒーローロボットとして動く。そこは今見ても魅力的だと思います。それは今度の劇場版でも同じですね。あとは女性の視聴者が、キラとアスランの関係に惹かれて入ってきてくれたのも大きかったです。
- 吉野弘幸
- よしのひろゆき 1970年生まれ、千葉県出身。脚本家。シリーズ構成を手掛けた主な作品に『舞-HiME』『マクロスF』『ギルティクラウン』『ストライク・ザ・ブラッド』など。脚本を手掛けた映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が公開中。