TOPICS 2023.12.13 │ 18:00

劇場版の前に読みたい!
吉野弘幸と振り返る『機動戦士ガンダムSEED』の熱狂②

いよいよ公開が近づいてきた劇場最新作『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』(Febriからもキャラクター本が発売されることが決定しました!)。はやる気持ちを落ち着かせるために、ここでは『機動戦士ガンダムSEED』『機動戦士ガンダム SEED DESTINY』の脚本を手掛けた吉野弘幸氏に、当時の制作秘話を語っていただいた。メインスタッフである吉野氏だから見えた『機動戦士ガンダムSEED』の真実とは?

取材・文/前田 久

キラとアスランの関係は少女マンガの文法で考えていた

――女性ファンの人気が大きかった印象がありますが、そこは当初から想定していたのでしょうか?
吉野 キラとアスランの関係は、両澤さんがある種の少女マンガの文法で考えていたんですよ。竹宮惠子先生の『ファラオの墓』とか、あのあたりの70年代の少女マンガがベースとして、ライター陣に共有されている雰囲気がありました。だから方法論として女性に受けるのはわかっていたんですけど、それが「ガンダム」という作品の文法にちゃんと乗るのかどうかは、やってみるまで未知数なところがありました。だからまったく想定していなかったわけではないけど、放送されてみて「ああ、これでよかったんだ」と安心したといいますか。先祖返りをしながらも『機動戦士ガンダムSEED(以下、SEED)』がファーストガンダムと大きく違うのはやっぱりそこなんですよね。

――もう少し詳しく聞かせてください。
吉野 ファーストガンダムは普通のオタク少年だったアムロが、父親との関係のなかで物語に関わっていく。でも『SEED』はキャラクターの軸として、キラとアスランの関係……「幼なじみのふたりがいて、それが敵と味方に引き裂かれている」というものが設定されている。それが2002年当時に、いちばんの先進性がある軸だったわけです。両澤さんもシリーズ構成を考えるにあたって、そこをもっとも重視していました。逆に言えば、両澤さんはどんな出来事が起きるかには、それほど興味がないわけです。
そのあたりは、僕ら「男の子」のスタッフが楽しく決めていました。「よし。じゃあ、ここから『大気圏突入』だ!」とか(笑)。そういう意味での現場のバランス感も、作品の魅力につながったのかもしれませんね。スタッフが役割を分担することで、キャラクターたちのドラマとロボットバトルとしてのクライシスとカタルシスの構造が、いい感じに混ざりあった。そこにさらに「コーディネイターとナチュラルの対立」みたいな深淵そうなテーマも入って、絶妙なバランスになっていたと思います。

手加減なしの表現ができたのは竹田プロデューサーのおかげ

――ハイターゲット向けの要素も容赦がないですよね。コーディネイターとナチュラルの差別構造もですが、男女関係でもヒロインのフレイが色仕掛けで主人公のキラをコントロールしたり……。
吉野 あれも少女マンガの文法で、わかる人にはわかる話をすれば、青池保子先生の『Z(ツェット)』の「寒かった」なんですけど(笑)。ともあれ、そのあたりの描写も手加減なしだったのは、当時MBSにいた竹田靑滋プロデューサーの存在が大きいですね。「俺、クレームの電話を取るの好きやで。かかってきたら俺が対応するから、何でも好きにやったらええやん」みたいな人でしたから。

―――さすが伝説のプロデューサー……。
吉野 「人間、生き死にに関わる状況やったら『女とやりたい』とかあるやろ!」みたいなことを現場で平気で言う人でしたし、「キャラクターが死ぬんなら、ちゃんと死ぬところをバシッと見せな!」みたいなことも言っていましたね。だから、この作品では血の代わりに何か黒いものが飛び散るとかではなくて、ちゃんと血が噴き出す。

―――すごいですよね。規制のゆるい深夜ではなく、夕方枠なのに平気でやってしまう。
吉野 竹田さんはそれまでずっと報道部にいらしたこともあってか「子供だましはよくないやろ。あるもんはあるもんとして描かな意味がない」と。ハイエンドな社会問題風のところに切り込んでいくときも、わりとノリノリでした(笑)。そういう意味でも手加減なしでできたのが、とてもよかったかもしれませんね。

―――どんどん奇跡的に要素がかみ合っていった……。
吉野 当たる作品ってそうなんですよ。最終的に当たった作品をいろいろ分解してみると、すごく細かいところまで奇跡がたくさん起こっている。僕はおかげさまで、大当たりしたタイトルにいくつか噛ませてもらっていますけど、やっぱりあとから振り返ると、どれもいろいろなところで奇跡が起きていますね。

最初はキラとアスランが最後まで殺し合う予定だった

―――『SEED』がビッグヒットを記録して以降、シリーズ後半から吉野さんはより深く脚本家として作品に関わっていきます。
吉野 あの頃はシナリオがせいぜい4カ月か5カ月分しか放送に先行していなかったので、後半の展開に入る頃には、とにかくスケジュールに追われていました。人気はうれしかったですけど、それをプレッシャーにも感じながら、目の前のシナリオをなんとか書いていく。さらに制作現場の状態も良くなくて、そのプレッシャーもありました……(苦笑)。シナリオが遅れ、絵コンテが遅れ、そのしわ寄せが作画にまわってしまっていたので、とにかくこちらとしては心苦しいばかりで。作画の皆さんには本当に助けられました。

―――3クール目・4クール目は展開が初期案から大きく変わりもしたとか。
吉野 そうですね。最初はキラとアスランが最後まで殺し合う予定だったんです。オチも『サイボーグ009』の「きみはどこにおちたい?」状態で、ふたりとも火の玉になって地球に落ちると決まっていて。ところがある日、突然、福田さんと両澤さんの間で話がまとまって「アスランは寝返ります。キラの味方になります」と。そこからどうやってその状態に持っていくかが、いやあ、苦労しました……。

――後半にいくほど、吉野さんの担当話数が増えたのはそのあたりの事情が?
吉野 以前、Febriの記事で『GEAR戦士電童』について触れたときもお話ししましたけど、僕は脚本家としては両澤さんの弟子だと思っているんです。そういう関係性だから無茶が言いやすかったのか、わりといろいろやらせてもらうことになりました。ラスト3話のあたりなんて、直接電話で3時間くらい話しながらシナリオを書いていましたからね。両澤さんの頭の中にシーンのイメージがはっきりとあるので、それを口頭で聞いてシナリオにしていく……。

――凄まじいペースですね。
吉野 そうしないと間に合いませんから。最終話のシナリオなんて、決定稿ができたのは放送の3週間前だったんですよ。

―――ゾッとしますね……。通常、30分アニメは最低でもシナリオから3カ月はかかるとされるのに。決定稿からどういうペースで作業をするんですか?
吉野 シナリオが決定稿になってから、週末の3日間でいくつかのパートに分けられた絵コンテが、ベテランの手の速いコンテマンの皆さんから上がり、それを福田さんが3日でつなげて、直して、その週末にはアフレコ。その間に作画も進んで……みたいな感じでしたね。同月内に決定稿と放送があるなんて、今考えても信じられない状況でした(笑)。endmark

吉野弘幸
よしのひろゆき 1970年生まれ、千葉県出身。脚本家。シリーズ構成を手掛けた主な作品に『舞-HiME』『マクロスF』『ギルティクラウン』『ストライク・ザ・ブラッド』など。脚本を手掛けた映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が公開中。
作品情報

劇場最新作『機動戦士ガンダムSEED FREEDOM』
2024年1月26日公開!

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