続編で苦労するのは、前作で強くなりすぎた主人公の扱い
――そしてさらに『機動戦士ガンダムSEED(以下、SEED)』の終盤から途切れなく、続編の『機動戦士ガンダムSEED DESTINY(以下、DESTINY)』の準備が始まるわけですよね。
吉野 そうですね。ほとんど休みなく仕込みに入りました。ただ、僕はこのとき、『舞-HiME』(2004年9月〜2005年3月放送)がもう動き出していたので『DESTINY』の前半の作業時期は、あまり深く関わっていないんですよ。
―――どのくらいの関わり方だったんですか?
吉野 毎週のシナリオ打ち合わせには、いちおう参加していた気がします。休むときもありつつ。実際にホン(脚本)を受注するのは、遅めになりました。設定の作成も『DESTINY』は『SEED』のときほど事前に年表を決め込まなかったんですよね。でも、「ユニウス条約」だとかの細々とした設定は僕の仕事です。
―――大ヒット作の続編ということで、ゼロベースから立ち上げた『SEED』とはまた違ったタイプの苦労があったのではないかと思うのですが。
吉野 これはのちに自分も別作品で苦労するんですけど、ヒット作の続編で苦労するのは、まず間違いなく、前作で強くなりすぎた主人公の扱いですね。
――出てきたら問題を解決してしまいますもんね。
吉野 そうしたキラとアスランの扱いに苦しめられつつ、同時に福田さんたちには他の狙いもあって「大人の思い通りにならない十代の男の子」のリアルな感覚を新しい主人公のシン・アスカに反映させようとしたんです。そうするとそっちで何が起きるかというと、主人公なのにヒーローたりえなくなってしまうんですよね。「リアルな十代」ということは「成長しきれない」ということだから。そして結局、福田さんは途中で「やっぱさ、主人公はキラだと思うんだよね」と言い出したりもして(笑)。
――うーむ……。シンの描写のエッジさはユニークだと思うんですけどね。
吉野 『スター・ウォーズ』のカイロ・レンっぽいんですよね。どっちも椅子に八つ当たりする。当時現場で、両澤さんが「椅子と戦っている男はやっぱりダメよ」みたいなことを言っていたのをよくおぼえていたので、後年、カイロ・レンが似たようなことをやるのを見たとき、爆笑しましたよ(笑)。
――あはは。
吉野 カイロ・レンもシン・アスカも、偉大な父親、偉大な初代に対してのアンチテーゼを掲げながら成長していく。そういうキャラクターを描こうとすると、日本もアメリカも変わらんな……みたいな気持ちになりました。だからハン・ソロよろしく、キラ・ヤマトも気持ちよく序盤で殺してしまったほうがよかったかもしれない。まあ、そうなっても、あとから仮面をかぶって出てくるかもしれないけど(笑)。ムウ・ラ・フラガじゃなくて、キラが仮面をかぶっている展開も、それはそれで面白かったかもしれないですよね。
ミーアのポーズ集がエロ可愛くて、俄然やる気になった
――ちなみに『DESTINY』で吉野さんが脚本を担当した最初の回は、ミーアがライブをする回(PHASE-19「見えない真実」)で「『SEED』の世界観でこれってアリなんだ!?」というくらい、アイドルのライブに熱狂する人が大量に登場します。
吉野 『DESTINY』は『SEED』に比べると記憶がおぼろげなのですが、その回はおぼえていますね。「ザクの手のひらで歌わせていい?」みたいな提案をしたので(笑)。
――これはやはり「アイドルのライブシーンがあるなら吉野さんに頼もう」みたいな、現場として狙った発注があったのでしょうか?
吉野 どうだったかな……『マクロスF』を書くより前ですよね?
――『DESTINY』が2004年で『マクロスF』が2008年ですから、作業期間は重なっていないかと。
吉野 「アイドルが好き」みたいなアピールをしていたおぼえはないけど、やっぱりもともと『超時空要塞マクロス』が好きだったので「歌姫が出てきて、ロボットと関わる」といったら、まあ、そうなったって感じですよね(笑)。ミーアについては「ラクスにそっくりな偽者が出ます」と聞かされたときは「えーっ!」と思ったんです。でも、平井久司さんが描いたラフを見て、さすがだと思って。平井さんってキャラクターデザインを起こすときに、表情集に加えてポーズ集みたいなのをいつもちょっと描くんですよね。キャライメージをつかんでもらうために。ミーアのポーズ集が、デザインは同じなのにラクスとはっきり違うキャラクター性を感じさせるもので、うなりました。エロくて、可愛くて、それを見て俄然やる気になった記憶があります。
――吉野さんらしいエピソードでたまらないですね。
吉野 ラクスって、Mっ気の強い男じゃないと好きになれないですからね。
――あはは。毅然とした、カッコいいタイプのヒロインですよね。いわゆる萌え美少女的な親しみやすさはないというか。好きな人には、そこがたまらないんでしょうけど。
吉野 ルックは可愛いですよね。当時のサンライズの3スタのパソコンデスクの上には「ラクスの花園」と呼ばれる、あらゆるスケールのラクスのフィギュアだけで面が全部埋まっている棚があって。あれはインパクトがありました(笑)。ミーアはそれと見た目が同じで、しかもエロ可愛いところが、僕的にはよかったです。
容赦のない人間関係など、ある種の「痛み」を抱えた物語
――思い出話が尽きませんが、最後にあらためて『SEED』と『DESTINY』の魅力をアニメファンの皆さんにアピールしてください。
吉野 そうですね……今はもうたっぷり50話を使ってキャラクターの変化を描く大河ロマンは、アニメではほぼ壊滅しているじゃないですか。
――はい。
吉野 分割4クールではなく連続した1年間で、キャラクターたちと一緒に作品世界を歩んでいく感覚を味わえるのは、今となっては貴重な視聴体験だと思いますね。あとはそう、容赦なく人間関係がギスギスするし、容赦なく人も死ぬ。そういうある種の「痛み」を抱えた物語である点が、このシリーズの魅力かなと思います。当時としてはすごく新しい要素の多いアニメで、そこが魅力だったんですけど、今となってはその新しさの部分は拡大再生産されてしまっているため、どれくらい響くかは正直、わかりません。でも、逆にそうなったときに『SEED』や『DESTINY』の中にあった「昭和のアニメ」の名残っぽい容赦のなさこそが魅力になっている。ぜひ、最近のアニメではなかなか味わえない「痛み」を楽しむつもりで、新たに触れてみたり、あるいは見返して再発見してもらえたらうれしいです。
- 吉野弘幸
- よしのひろゆき 1970年生まれ、千葉県出身。脚本家。シリーズ構成を手掛けた主な作品に『舞-HiME』『マクロスF』『ギルティクラウン』『ストライク・ザ・ブラッド』など。脚本を手掛けた映画『鬼太郎誕生 ゲゲゲの謎』が公開中。