TOPICS 2024.08.27 │ 12:00

『ガールズバンドクライ』
シリーズ構成・花田十輝が「バンドもの」で描きたかったこと②

2024年春クールの衝撃作、東映アニメーション発のオリジナルTVアニメ『ガールズバンドクライ』。その面白さの秘密に迫るシリーズ構成・花田十輝インタビューの第2回は、主人公・井芹仁菜にとってのキーパーソン、桃香とヒナとの関係性を掘り下げる。

取材・文/前田 久

「悪役を倒せば平和になる」ような話にはしたくなかった

――では、ダイダスの3人と桃香の関係性はどのように考えていたのでしょうか?
花田 ふたつあって、まずひとつは、桃香とダイダスの関係は基本的にどっちが悪い、というかたちにはしたくなかったんです。ダイダスはダイダスで頑張っている。桃香も脱退したとはいえ、その邪魔をしたくないと思っているし、向こうも桃香のことをとくに憎いとも思っていない。そんな関係性にしたかった。なぜかというと、仁菜の視点だとダイダスの3人が悪いやつで、桃香がいい人で3人に追い出された、という構図を絶対に想像するはずなんです。でも、現実ってそんなに簡単な話じゃないですよね。

――ですねえ……。
花田 それを仁菜にもわからせたかったし、桃香としても、どっちも悪くないだけに自分の中で踏ん切りがつかない、という構図にしたかったんです。そしてもうひとつが、この作品を「悪役を倒せば世界が平和になる」みたいな話には絶対したくなかった。それはもう、はっきりと最初からありました。仁菜はいじめを経験していることもあって、ことさら「世の中には悪いやつといいやつがいて、悪いやつが邪魔をしているからうまくいかないんだ」と幼い感覚で思いがちなんです。彼女が「そうじゃないんだ」とバンド活動を通じて知っていく話にしたいというのが、大きなテーマとしてあったんですよね。だからダイダスに限らず、終盤の中田さんや三浦といった他の大人たちも、そのあたりは強く意識して書いていました。

――バンドを語るとき、商業主義的なセルアウトしたバンドと、そうじゃないDIY精神でやっているインディペンデントなバンドとを二分法的に対比させがちですが、そんなに単純ではないことはバンド文化に深入りするほどに見えてきますよね。
花田 実際のバンドの解散って大抵、ひと筋縄ではいかない感じがすごく伝わってくるじゃないですか。本当に「あいつが悪い」と言い合って別れているというよりも、もうちょっと複雑な人間模様で解散している。なので、この作品でもそう簡単な構図にしたくないなという思いがありました。あとはバンドものの映画などを見ていると、よく大人の象徴みたいな嫌なレコード会社のプロデューサーが出てきて「お前らの音楽性じゃ売れねえんだよ!」みたいなことを言うじゃないですか。とにかくあの展開はやりたくなかったんですよ。見るたびに「それで話が解決するなら世の中簡単なんだよ……」と思っていました(笑)。そうじゃないから面倒くさいんじゃん、ということを描きたかったし、学校ものじゃない作品をやれると決まったときから、社会の縮図として絶対に見せたかったんですよね。

初稿では最終回まで存在していなかったヒナ

――仁菜と因縁のあるヒナがダイダスに加入している展開は、どうやって出来たんですか?
花田 これがたぶん、いちばんすごいところで……ヒナって、じつは初稿だと最終回までいないんですよ。

――なんと! それはたしかに驚きです。
花田 最初、「桃香の歌が正しいことを証明するために仁菜が頑張る」話として、このアニメは構想していました。でも、ダイダスも悪いやつらじゃないとなると、桃香とダイダスの間にはそれほど強い因縁がなくなって、仁菜のモチベーションが微妙になってしまったんです。「いったいこいつは何を目的にこの先、歌っていけばいいんだ?」と。「私、やっぱり歌が好き!」って感じの子でもない……というか、そっちに持っていくと、仁菜の魅力ってなくなっちゃうし、さて、どうしよう?となったんです。

――わかりやすい敵がいないと、ストーリーを進ませるのは難しいですよね。
花田 第11話、第12話まで書いたあたりで「やっぱり、なんか悪いプロデューサーを出して、それをやっつける話にするか?」みたいな構成も考えました。平山さんや酒井さんとも話して、一度そういう脚本を書いてもみたんです。でも、出したら即、なかなか激しい勢いで「これはない!」とふたりに却下されました(笑)。そこまできてようやく「仁菜には仁菜の因縁があるよな」と思いついて生まれたのがヒナですね。思いついた翌週には「すみません。第3話くらいまで戻って書き直してもいいですか?」と平山さんと酒井さんに相談して、第3話からゼロ稿に戻して書き直しました。

――ひえぇ……。
花田 ただ、それでも正直なところ、最初は自分でも「さすがにダイダスのボーカルに収まっているのは、ご都合主義すぎるよね」と思いました(笑)。もう少しなんとかしたいなとも思ったんですけど、第1話まではさすがに戻れないし、ああいったかたちで登場させるのがベターかなと。仁菜がなかなか気づかないように、髪をピンクにするなど工夫したのはスタッフの皆さんのアイデアで、感謝しています。

――衝撃的です。それでいてヒナはヒナなりの筋が通ったキャラクターになっていますし。
花田 その時点で脚本的に桃香とダイダスの話だったり、仁菜と他の子たちの話だったりにある程度ケリがついていたから、そこはむしろ考えやすい部分ではあったんですよ。出来上がっていたストーリーに、あとからヒナを流し込むようにして書くことができました。書き終えたときには、思ったよりもいいキャラクターになったから大丈夫なんじゃないかなと思えましたね。endmark

花田十輝
はなだじゅっき 1969年生まれ。宮城県出身。アニメ脚本家になるため大学在学中に小山高生に師事し、1992年『ジャンケンマン』第46話「ジャンケン村の宝を探せ!」で脚本家デビュー。シリーズ構成を担当した主な作品に『ラブライブ!』『響け!ユーフォニアム』『宇宙よりも遠い場所』などがある。
作品情報


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トゲナシトゲアリ 2nd ONE-MAN LIVE『凛音の理』

[開催日時]
2024年9月13日(金) 開場17:00/開演18:00

[会場]
川崎・CLUB CITTA’

[配信チケット詳細]
https://girls-band-cry.com/news/post-213.html

 

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