TOPICS 2024.08.28 │ 12:00

『ガールズバンドクライ』
シリーズ構成・花田十輝が「バンドもの」で描きたかったこと③

2024年春クールを席巻した、東映アニメーション発のオリジナルTVアニメ『ガールズバンドクライ』。その魅力に迫るシリーズ構成・花田十輝インタビューの最終回。ラストはトゲナシトゲアリの「間違っていない」在り方を、あらためて考えていく。

取材・文/前田 久

「主人公たちが負ける」結末に迷いはなかった

――SNSで少し披露していましたが、脚本にはあったけど絵コンテには残らなかったシーンも多いのでしょうか?
花田 そうですね。ライブが入る回だとどうしても多くなりますし、SNSで明かした第8話もそうなんですが、いちばん大きいのは第10話かな。脚本では、ラストにお父さんは追いかけてきません。玄関を出ると、枝が折ってあるじゃないですか。

――家に入ってくるときに仁菜がひっかかった枝ですね。
花田 脚本では、折られた枝に鍵がかけてあるんですよ。その鍵を仁菜が取って、何か言いに行こうか迷うんだけど、結局、何にも言葉が浮かばなくて門の外まで出る。すると熊本までルパが車で迎えに来ている……というラストになっていたんです。僕はなんとなく、この作品は各話が「めでたしめでたし」で終わらないほうがいいなと思っていたので、そういう流れにしていたんですけど、あれは酒井さんの優しさですね。僕はどちらかというと「これで本当に、仁菜には帰る場所がなくなったぞ」という、ちょっとハードボイルドな気分で書いていた。でも、お客さんにはあの優しさが響いていたので、あのかたちでよかったんだと思います。僕としても、仁菜のお父さんの「いってらっしゃい」はすごく印象に残っているシーンですし。

――「帰る場所がなくなった」状態だと、第13話のラストに向かう流れはさらにシビアでしたね。事務所も辞めて、5人である意味、バンドのスタートに戻っていく。
花田 事務所に残る選択肢もなくはないと思うんですけど、やっぱり「嘘をつかれてしまった」という事実は残ってしまうんですよね。それでも三浦が5人に謝ったとき、仁菜が「なんで嘘をつくんですか!」と食ってかからなかったのは成長だと思っています。三浦の行動は正しくないかもしれないけど、でも、その気持ちはとてもよくわかる。思いやりを持って接している同士でも、うまくいかないことってあるんだな……と、仁菜がある程度飲み込んでいる瞬間だと思いながら書いていました。ただ、それに巻かれていいのかといわれたら、それはまた別問題だと思うのがあの5人で、そう考えると着地点はあれしかなかった。なので「主人公たちが負ける」結末に迷いはなかったんですよ。「やっぱり最後は大団円」を想像していた視聴者の方も多かったみたいですが。

――テーマを貫徹させるという意味では、本当に素晴らしいラストだと感じました。
花田 長い間、脚本を書いてきて感じていることですが、結局、作品の評価というのは5年、10年経たないと出ない。だからこそ、今、受けるかどうかを考えるより、ブレないことのほうが大事じゃないかな、という思いがあります。その意味では、この作品では全13話を通してテーマをちゃんと描ききれました。「悪い人はいないけれども、世の中はうまくいかない。そんなときにどうする?」「思い通りにいかなかったときにこそ、人間性が出るもんだぞ」という話を、ちゃんとやってみた。そこにこそ、本当のキャラクター性があらわれるんじゃないかな、と僕は思うんです。

20歳を過ぎた仁菜の姿を描くこともできる

――あらためて、この作品で花田さんが当初から抱いていた「バンドもの」への思い、そこで描きたかったものは貫けましたか?
花田 そうですね。二転三転したわりには、テーマはブレずに描ききれたと思います。キャラクターや視聴者をやや突き放してしまう僕のクセを、酒井さんにうまくフォローしていただいたところもすごくあるんです。第10話もですし、第13話でヒナが仁菜を引っかけて「バカは見る」というところ。あのシチュエーション自体は僕が書いているんですけど、仁菜とヒナがひとつのイヤホンを分け合うところは脚本にはなくて、たぶん酒井さんが作ってくれたものなんです。そういうところがうまい具合に噛み合っていた作品だったと思います。

――この先の仁菜たち、トゲナシトゲアリは、どんなバンドとしてやっていくんでしょうね……。
花田 きっと仁菜は相変わらず、何かあるたびに「おかしいです!」と言っている気がします(笑)。そして桃香にギャーギャー言われながら、それでもバンドを続けているんじゃないかな。……僕はこれまでずっと「卒業式で終わる話」を書いてきたんです。でも、本当は卒業式の先を書かなきゃいけないんじゃないかと、ずっと思っていた。『ガールズバンドクライ』ではそれが少しできた感じがあって、その点でも手応えを感じているんです。たとえば、仁菜が20歳を過ぎて、お酒を飲んでいるようなところまで書こうと思えば書ける話になっている。自分にとって、今までとは少し違う景色を描き始めることができた作品だったなとも、今は感じていますね。endmark

花田十輝
はなだじゅっき 1969年生まれ。宮城県出身。アニメ脚本家になるため大学在学中に小山高生に師事し、1992年『ジャンケンマン』第46話「ジャンケン村の宝を探せ!」で脚本家デビュー。シリーズ構成を担当した主な作品に『ラブライブ!』『響け!ユーフォニアム』『宇宙よりも遠い場所』などがある。
作品情報


TVアニメ『ガールズバンドクライ』 Vol.3<豪華限定版>
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¥8,800(Blu-ray+CD)
¥7,700(DVD+CD)
[発売日]
2024年8月28日

 
トゲナシトゲアリ 2nd Album『棘ナシ』
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2024年8月28日


トゲナシトゲアリ 2nd ONE-MAN LIVE『凛音の理』

[開催日時]
2024年9月13日(金) 開場17:00/開演18:00

[会場]
川崎・CLUB CITTA’

[配信チケット詳細]
https://girls-band-cry.com/news/post-213.html

 

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