TOPICS 2022.05.24 │ 12:00

監督・長井龍雪と振り返る
8年目 の『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ』①

第1話の放送から8年目を迎えたものの、この2022年4月にはTVアニメ全50話の一部エピソードを全9回に再編集したダイジェスト版、『特別編』が放送されるほどの人気を博す『機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ(以下、鉄血のオルフェンズ)』。あらためて注目が集まる今、長井龍雪監督とともに『鉄血のオルフェンズ』を振り返るインタビューを前後編でお届けする。

取材・文/富田英樹

暴走族マンガの任侠をテーマに始まった『ガンダム』

――長井監督の『ガンダム』シリーズとの出会いは、どの作品でしたか?
長井 最初は『機動戦士ガンダム』の再放送からでしたが、どちらかというと入り口は「ガンプラ」ですね。友達のお兄ちゃんがガンプラを使ったジオラマを作っていて、それを見ていたからモビルスーツの名前だけは知っていたという感じです。だから、リアルタイムでアニメを見たのは『機動戦士Zガンダム』からです。その当時は小学生でしたから、サンライズのロボットアニメが大好きでかなり見ていましたし、富野由悠季監督の作品は全部追っていました。

――ご自身の作品として『ガンダム』を作ることになったとき、どのような作品にしようと考えましたか?
長井 まず自分が『ガンダム』を監督するということに現実味がなくて、信じられないような気持ちがありました。ただ、『ガンダム』という作品は見てきていたので、ある種のフォーマットというか「『ガンダム』とはこういうものだ」という理解はあったと思うんです。その中で独自色をどうやって出していくのか、新しいものに見えるようにはどういう工夫をすべきか、ということは考えていました。

――製作サイドからの要望はありましたか?
長井 要望というかお題というか、あの当時よく言われたのが「そろそろ『Gガンダム』みたいな作品が欲しい」ということでした。でも、あれは今川泰宏監督でなければできない作品なんですよね。だから自分としてはそういう要望は聞きつつも、こちらから「任侠」という企画コンセプトを出させてもらったところ、そのワードが響いたらしくて、そこからは比較的すんなりと進んだ印象でした。

――なぜ「任侠」をコンセプトに挙げたのでしょうか?
長井 軍隊を正確に描写するのは難しいんじゃないか、というのがそもそもあったのですが、任侠と言っても昭和の極道という雰囲気ではない、いわゆる平成以降の暴走族系マンガの任侠なんですよ。ヤンキー文化というか暴走族のチームのつながりといった空気感を、スタッフの皆さんと共有できるキーワードとして提案してみた感じなんです。

――ご自身の経験が反映されているとかではなく?
長井 いや、そういうことは全然なく(笑)。フィクションとしての空気感ですよね。キャラクター同士のつながりやコミュニティ内での絆を表すために任侠という言葉を使ったということです。

鉄華団に見る滅びの美学

――『鉄血のオルフェンズ』は、主人公の三日月やオルガを含む「鉄華団」が滅びへと向かって突き進んでいく物語でしたね。
長井 僕としては、ただただひたすら頑張っている少年たちを描きたかっただけなんです。だからそこにイデオロギー的なテーマや政治性はなくて、どんな状況でも進むしかない人たちが実際に突き進んでいったらどうなるだろうという思考実験に近いところから始まっています。当初から結末の方向性は決まっていましたが、それでも何かに向かって突き進んでいく姿を最後まで描けたらいいなという思いから始まったのが『鉄血のオルフェンズ』なんです。

――そういう「鉄華団」に対する憧れというか、あそこに所属したいという心理がファンの中にはあったように感じます。
長井 え、そうですか!? 僕の周辺ではそういう話をあまり聞かなかったので、それはうれしい感想です。でも、たとえば、暴走族マンガって面白かったじゃないですか。ああいう限定されたコミュニティには、ある種の魅力があると思うんです。その魅力を描きたいと思っていたので、自然とそういう表現になっていたのかもしれません。

――第2期第2クールED(「フリージア」)の、あの「記念写真」に写りたいという意見も聞きます。一緒に頑張りたい気持ちにさせられますよね。
長井 部活の延長線上という意識はあったかもしれません。企画当初からは10年くらい経過していると思いますが、当時はそういう「最後まで突き進む」という意識が薄れていた時代だった。でも、どこかで燻(くすぶ)っていたそういう思いを拾い上げたかったという気持ちもあったのですが、あらためて見るとモラル的にどうなのかと感じるところはありますね。今の時代だったとしたら難しいかもしれないなって。でも、だからこそ、平和なときでしか描けない物語だったとは思います。今まさにダイジェスト版の『鉄血のオルフェンズ 特別編』が放送されているわけですが、編集している都合上、どうしても強い言葉のシーンが連続してしまう。これを見ると本当に鉄華団って大変な奴らだなって。強いセリフの応酬が続くとあまりにも危険な集団に見えてしまうというか。あれから世界は大きく変わってきたからこそ『鉄血のオルフェンズ』に対しても企画当初とは違う視点での受け取られ方や感想、意見が出ると思うんです。やっぱりこういう物語は、世界が平和でなければ面白くないなとは痛感しています。

暁には火星の片隅で静かに幸せに暮らしてほしい

――鉄華団が壊滅したあと、後日談がきちんと描かれていたのがとても印象的でした。
長井 戦いに関係ない子供たちは生き延びて、それこそテーマであった「進み続けて」ほしかったというのもあります。だからこそ、戦闘終結後のエピローグも含めて『鉄血のオルフェンズ』という物語なのだろうと思っています。

――『特別編』のオープニング映像にも三日月の息子、暁(アカツキ)が登場しますし、これは成長した息子が大暴れするという展開も期待できそうですか。
長井 いやあ、それはないかな。個人的には、暁には火星の片隅で静かに幸せに暮らしてほしいと願っているので、彼が鉄華団を再編することはないと思います。

――『鉄血のオルフェンズ』を経たことで、ご自身のクリエイティブ活動に影響はありましたか?
長井 クリエイティブ活動というかアニメ制作においての影響というのはあまりないと思いますが、私生活では大きな影響がありましたね。地元の友達から「え。お前、『ガンダム』の監督やってんの!?」って言われたり(笑)。いやいや、その前から映画とかでも監督やってるんだけどなーっていう。やっぱり『ガンダム』というネームバリューはスゴイんだなと実感しました。endmark

長井龍雪
ながいたつゆき 1976年生まれ。新潟県出身。フリーランスのアニメーション監督、演出家として活躍する。主な監督作品として『とらドラ!』『とある科学の超電磁砲』『あの日見た花の名前を僕達はまだ知らない。』『心が叫びたがってるんだ。』『空の青さを知る人よ』などがある。
作品情報

機動戦士ガンダム 鉄血のオルフェンズ ウルズハント

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