映像ならではのテンポを作りたい
――原作との出会い、そしてシリーズ構成を兼任した経緯から教えてください。
竹下 CygamesPicturesの上内健太さんから原作の話を聞いて、手にとったのが出会いです。読んだ瞬間、アニメ化してみたいと思いました。脚本・コンテ・演出を兼任して「自分のフィルム」を追求したいというのはいつも考えているのですが、モクモクれん先生の『光が死んだ夏』はテーマに筋が通っているので、シリーズ構成をやりやすいと感じたんです。そこで、自分から兼任を提案しました。原作の本質的なよさを見失うことなく、アニメならではの演出やオリジナル要素を入れたいということも、当初から考えていました。
――アニメならではの表現として、大切にした点はどこでしょうか?
竹下 やっぱりテンポですね。ずっと同じシーンを見せるのではなく、あえて視点を別のところに振ったりして、映像ならではのテンポを作りたいと常に考えていました。あと、「世界を広げたい」という狙いも少し。原作ではよしきとヒカルのパーソナルな空間にぐっとフォーカスしているので、その空間は残しつつ、それ以外の世界――大人たちがどんなことを考え生きているのか――を描こう、その中でよしきとヒカルを描こうと思ったんです。
――たしかに、村の日常にリアリティがあるからこそ、よしきたちの危うさや、ホラーの非日常性が際立ったように思います。取材はどのように進めたのですか?
竹下 原作に描かれた閉鎖的な村にリアリティを持たせるため、まずはひとりで3泊4日、田舎の村で暮らしながらアイデアを練りました。本当は1カ月ぐらい暮らしながら作品作りがしたかったんですけど、打ち合わせもいっぱいあるし、現実的に難しくて(笑)。第1話の風景描写は全部、僕がロケハンをした村を訪れたときに感じた田舎あるあるです。自然の美しさはもちろん、鉄柱にペットボトルが刺さっていたり、ボロボロになった車がぽつんと置いてあったりするのは、東京ではなかなか見られない景色ですよね。1回目で「この場所はここに使える」と目星をつけて、2回目で美術のスタッフと制作、プロデューサー陣を案内しました。3回目は演出陣6人と行って、最終的に計4回。お金はものすごくかかったはずですが、それに見合うフィルムになっていると思っています。
Episode 1 代替品
――納得のリアリティでした。ここからは、全12話のこだわりを聞いていきたいと思います。
竹下 ちょうど1年半前、2024年の夏に第1話の絵コンテを描き始めました。12話までの構成を作ったあとなので、12話までの伏線をひと通り入れようと思ったのがひとつ。あと、これはアニメ業界あるあるなんですが、複数の演出が入るとき、監督の担当話数は作品の指標になります。そういう意味で「他の話数の演出にプレッシャーをかけられるフィルムとは何だ?」っていうのをすごく考えました。演出陣が刺激を受け、「この作品は最大限の力を発揮して取り組まなきゃいけない」と思えるような第1話にしなきゃと気負っていたところもありますね。日常シーンでは、自分が実際に村に行って感じた風景とか、実写に近い質感みたいなものをフィルムに入れられたらなと思っていました。たとえば、従来のアニメでは、汗の表現は焦ったときなどに記号的に使われます。でも、この第1話に関しては、お日様の下にいるときなど、普通のシーンでも使用していて、夏の湿度みたいなものを表現できたと思います。
――色彩もリアルでありながら、どこか湿って仄暗い「日本の夏」を感じました。
竹下 美術監督の本田(こうへい)さんにオーダーして、常に画面のどこかしらに黒い部分(BL)を入れるという演出を全編通してやっています。『光が死んだ夏』の画面って、影の部分は全部BLになっているんですよ。ただ美しいだけじゃなくて、暗闇の怖さみたいなものが根底にあるような雰囲気を出せればと思っていました。
――ホラーというジャンルの既成概念にとらわれない美しい音楽も、監督の世界観に寄り添っていますね。
竹下 僕は、梅林太郎さんの作るピアノの青春っぽい音楽がすごく好きで。そういう音楽に彩られた日常シーンと、ホラーシーンのギャップを見せたかったんです。原作でも、田舎の高校生の美しい日常が急に崩れる瞬間が怖いところですよね。それを音楽で表現できるのは梅林さんだと考えました。ホラーシーンも、普通のジャパニーズホラーとは違った音楽にしたいから、エイフェックス・ツインのような、あんまり生物を感じない無機的な音で作ってほしいと発注しました。とにかく、カッコいい映像を作りたかったんですよね。実写を使ったり、実験的な表現をしたり。今までやってきた作品の中でいちばん、そういう尖った表現が許されそうな、懐の深い原作だと感じたからかもしれません。
Episode 2 疑惑
竹下 後輩の大迫光紘(おおさこみつひろ)くんがコンテ・演出を手がけた、カット割のセンスがいい話数です。「く」のバケモノのシーンもカット割によってものすごく怖くなっていて、とくに撮影監督の前田(智大)さんと大迫くんが綿密に話し合いをして作られたバケモノの動きは注目してほしいです。CygamesPicturesは3Dや撮影に強い。そこを最大限に引き出したいということは演出陣にも伝えていて、各話数で最適なホラーシーンを作ってもらいました。
――オープニングとエンディングの主題歌も初登場しました。
竹下 オープニングはVaundyさんの「再会」。もともとVaundyさんの曲をたくさん聞いていましたから、絶対自分で演出したいと思いました。自分の好きなアーティストと一緒に映像を作れるチャンスは絶対逃したくないですからね。オープニングでは作品全体のテーマを表現するわけですが、今回は現代アート美術館みたいな感じで見せられればと思っていました。あの速い音楽に対して、速いカット割で1分半の映像を作れたことで、自分の中に新しい引き出しができたと感じています。一方、エンディングに関しては、キャラクターたちの一側面を掘り下げる映像が好きなんです。オープニングはマクロな視点で全体を、エンディングはミクロな視点で何か特別なものを描きたい。その違いがオープンエンドに出ていますね。
――エンディングの映像を見て「よく考えたら、私たちはよしきの記憶の中の光しか知らないのだ」と気づかされましたが、監督も意識したのでしょうか?
竹下 そうですね。アニメは12話をかけてよしきがヒカルを知っていき、最終的に代替品をオリジナルとして認める終わり方になっていますが、そこでヒカルと生前の光を対比させたいというのが、あのエンディングの創作意図です。「俺の変顔で笑わへん」というヒカルのセリフがありますが、「じゃあよしきは、生前の光の変顔に笑っていたんだろうな」と思ったのがきっかけでした。エンディングと、第12話ラストのCパートは完全に同じ構図。生前の光は自分の使命でいっぱいで、よしきをあまり見ていないから、エンディングでは海の向こうを見つめています。でも、今のヒカルはよしきと向き合おうとしている。それを対比させたかったわけです。
――なるほど、ラストでの回収が美しい。TOOBOEさんの歌詞とのリンクも見事です。
竹下 TOOBOEさんは作品を曲に落とし込むのがうまくて、じつはエンディングのために4曲も作ってくださったんです。『光が死んだ夏』の激しい側面、青春の側面、日常の側面と、それぞれ違うジャンルで4曲。もちろん、全部よかったのですが、「あなたはかいぶつ」を選んだ決め手は、やっぱり第12話のラストにいちばん合っていたから。音楽の余韻は大切ですからね。![]()
- 竹下良平
- たけしたりょうへい アニメーション監督。『月刊少女野崎くん』でチーフ演出、『NEW GAME!』で副監督を務めたのち、『エロマンガ先生』で監督デビュー。監督を務めた主な作品に『夜のクラゲは泳げない』『ポケットモンスター 放課後のブレス』などがある。























