TOPICS 2025.12.12 │ 18:00

TVアニメ『光が死んだ夏』 竹下良平監督が語る全12話の制作舞台裏②

とある集落の謎めいた因習と、それに翻弄される高校生たちを描いた青春ホラー『光が死んだ夏』。夏の翳りと繊細な感情を美しく斬新な映像で表現し、話題を呼んだTVアニメ全12話を竹下良平監督に語ってもらった。今回は、よしきとヒカルの関係が深まる第3話から、その「パーソナルな世界」が終了する第7話までを振り返る。

取材・文/高野麻衣

※本記事には物語の核心に触れる部分がございますので、ご注意ください。

Episode 3 拒絶

――第3話では、心に生じた疑惑を黒インクで視覚化するなど、ふたりの感情がさまざまな手法で表現されていますね。
竹下 原作でも重要な回ですよね。よしきとヒカルの間に不信感が生まれ、一度離れて、また一緒に歩んでいこうとする。ここがアニメ前半の山場だと認識していました。『光が死んだ夏』はいろいろな魅力のある原作ですが、やっぱりよしきとヒカルの感情が渦巻く感じが鍵ですよね。とくによしきは、大切な親友が死んでしまってバケモノに置き換わって、でもそのバケモノと離れられない、いちばん葛藤がある人間です。だからこそ試行錯誤をして、自分の演出の引き出しからたくさんの表現を入れ込んでいます。

――ラストの枯れていくひまわりも印象的でした。
竹下 ひまわりは、よしきの中での生前の「光との思い出」の象徴です。その思い出がどんどん汚れて落ちていくわけです。第3話ラストのよしきの決断、「俺が教えてやらんと」っていう思考は危うさもあって、最終的に朝子を危険にさらす流れにつながっていきますよね。ひまわりを使って、そのことを示唆したかったんです。

Episode 4 夏祭り

竹下 第3話を経たふたりが、会話をしながらお互いを理解していく回です。コンテ・演出の白幡良志之(しらはたよしの)くんが日常芝居までものすごくこだわって、クオリティの高い回になったと思います。映像的に派手なシーンはないのですが、田中を使うことで、よしきとヒカルの関係が大人たちに妨害されるんじゃないか、という恐怖を表現できればと思いました。よしきとヒカルは一貫して、これはふたりだけの問題だと思っているんですよね。でも、実際はそれは徐々に村全体を取り巻く大きな問題になっていく。原作だと今、村全体が大変なことになっていますが、アニメでは大人たちが危惧していたことを最初から見せたいと思っていたので、この第4話でも対比を強調しています。

Episode 5 カツラのオバケ

竹下 ヒカルの中によしきが手を入れるシーンでは、ものすごくカッティングにこだわりました。第2話と同じようにするのではなく、ちょっとカッコいい感じにしたいなっていうのがあって。Aパートのコンテ・演出を手がけてくれたWang Chihsiaくんと話し合ってテンポよく作り、曲を貼るときもすごく速い音楽をつけています。また、Bパートのコンテ・演出を担当してくださった河原龍太さんはものすごくたくさんアイデアを出される方。脳みそのシーンでは、脳みその模型を買いに行ってくれました。第5話は自分で見ていても、エンタメ性が強い回だと思います。

Episode 6 朝子

竹下 夏休み前の週末に、高校生たちが集まって花火をする回ですね。コンテ・演出の片岡史旭さんが描いた絵コンテはとにかく緊張感があって、自分が第6話をすごいものにするんだっていう意識にあふれていました。この第6話は、第7話の前編のような話数だと思うんです。そういう意味で、よしきとヒカルの信頼が完全に崩れてしまうまで、しっかり描いてほしいという打ち合わせをしましたね。サブタイトルにも登場する朝子は、素直で快活ないい子です。朝子がああいうキャラじゃなかったら、終盤の事件のあと、ヒカルに対して強い不信感を持つと思うんですよね。それなのに分け隔てなく接してくれたことは、ヒカルにとってものすごく救いだったと思います。

――分岐点でありながら、朝子のおかげで青春のノスタルジーも感じる話でした。そういえば、サブタイトルも監督が全部手がけているんですよね。
竹下 そうです。シリーズ構成をしたとき、便宜上その話数を表現する仮タイトルをつけることを自分に課していたんです。けっこう直球なサブタイトルもありますが、その話数を表現しているという意味では適切だったと思います。

Episode 7 決意

竹下 この第7話で、よしきとヒカルのパーソナルな世界が終了します。次の段階に進む話でもあり、自分の中でもいちばん気合いを入れて作った回でした。それを際立たせるために、合唱コンクールというアニメオリジナルの演出を入れました。

――梅林太郎さんによる合唱曲の素晴らしさはもちろん、よしきとヒカルがふたりだけで歌うエンディングが感動的で話題になりました。このアイデアは、当初から監督の中にあったのでしょうか?
竹下 はい。合唱コンクールを出した理由のひとつに、よしきとヒカルが学校を休んだあの日、学校で何が起きたんだろうという疑問があったんです。できれば、ふたりの不在を強調するようなイベントが起きていてほしい。そこで合唱コンクールを挿入して、整列した生徒の中にふたりがいないという空白を作りました。そのうえで、ラストの事件後にふたりだけのエンディングを入れました。ふたりは、この第7話を境目に本当の共犯者になりますよね。互いに人を殺そうとして、互いの罪を背負っているふたりは、クラスメイトたちと決定的に道を違えてしまった。ふたりがいない合唱シーンと、事件後のふたりだけの歌には、そういう意味合いをこめています。

――圧巻です。単にエモーショナルなだけでなく、論理的な意味づけがあったとは。
竹下 よしきは第6話のラスト、ヒカルを迎えに行った時点で心中の覚悟をしていたと思うんですけど、心中する直前のよしきの行動についても熟考しました。原作に描かれた「ヒカルに楽しい思いをさせよう」という感情にプラスして、やっぱり親しい人たちのことを考えるだろうと思ったので、Aパートにそうした人たちのオリジナルシーンを足しています。

――あたたかな情景が積み重ねられるほど、事件への緊張感も高まっていきました。
竹下 よかった。よしきがヒカルを刺すシーンも、原作とは演出を変えているんです。原作では、なんでもない会話の中で前触れもなく刺すという展開で、それもめちゃくちゃ素敵で悩んだのですが、アニメでは曲のボリュームが上がり、怖いことが起こりそうな雰囲気に演出しました。『フォレスト・ガンプ 一期一会』という映画でヒロインが飛び降り自殺を踏みとどまるシーンがあるのですが、彼女がマンションのベランダに駆け上がっていくにつれ、部屋の中の音楽のボリュームがどんどん上がっていくんです。「ああ、彼女はもう自殺してしまうんだ」と心が鷲づかみになったあの演出が好きで、それを使いたかったのもありますね。endmark

竹下良平
たけしたりょうへい アニメーション監督。『月刊少女野崎くん』でチーフ演出、『NEW GAME!』で副監督を務めたのち、『エロマンガ先生』で監督デビュー。監督を務めた主な作品に『夜のクラゲは泳げない』『ポケットモンスター 放課後のブレス』などがある。
作品情報

第二期、制作決定──
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  • ©モクモクれん/KADOKAWA・「光が死んだ夏」製作委員会