――前回お話を聞いた第7話の境界を越え、第8話からはサスペンス色がぐっと強まりました。
竹下　今までずっと謎のままだった、ヒカルの正体に切り込んでいく回ですからね。よしきとヒカルの関係を7話かけてじっくり描いたあとで、ようやく話が進んでいきます。クビタチ村の歴史や、どういう因習が行われてきたか。原作に描かれた膨大な情報を整理できるか不安なところはありましたが、脚本の村山沖さんがうまくセリフに落とし込んでくれました。コンテ・演出の安藤良さんが作ってくれたファミレスのシーンでは、全体が赤くなり坊さんのケガレが迫る雰囲気など、日常が突然消える恐怖が印象的でした。

竹下　第9話で好きなのは、やっぱりヒカルが田中に首を斬られるシーンです。ゴロンと転がる首視点の映像がすごくおもしろい。これは、中野祥典（なかのよしのり）さん率いるCygamesPictures 3D部の底力が出ているカットだと思います。コンテ・演出は、第2話にも登場した大迫光紘（おおさこみつひろ）くん。この話数も会話シーンが多かったので、絵作りや構図で飽きさせないようにしてほしいと伝えました。会話シーンって、何気なくコンテを描いてしまうと、頭に一瞬で入らなくなるんです。そういうときこそおもしろい構図、そして目を引くような新鮮な演出というのを、どの話数でも心がけていますね。

竹下　第10話では、田中と武田が話すシーンが好きです。マニアックなんですけど、田中と武田の関係がすごく好きで（笑）。アニメではもっともっと盛りたかったんですが、尺が足りなくて全然できなかったんですよね。武田は村の権力者で、常に「俺がなんとかしなきゃ」みたいに背負っている人間です。そういう人間が田中みたいに自分の目的が明確にあって、何にも縛られずに生きている人間と出会って変わっていく様、あのふたりが仲良くなっていく様をもっと描きたかったですね。

――そうだったんですね！　田中役の小林親弘さん、武田役の石井康嗣さんの演技も真に迫っていて、番外編で見たいくらいです。
竹下　おふたりとも本当に上手ですからね。でも、田中と武田、ふたりの関係のファンアートはあまり見かけないので残念です（笑）。キャストさんはみんな本当にうまくて、その演技がキャラクターを作ってくれたところもあります。田中などは、原作にまだあまり出ていない段階でのオーディションだったので、いろいろな声優さんに演じていただいて全員よかったんですけど、いちばん変人感がある小林親弘さんに決定しました。そういう意味では、小林さんがああいうキャラにした、みたいなところもあるんですよね。

竹下　第11話は、コンテ・演出の山内愛弥（やまうちあいみ）さんの丁寧さが光る回です。キャラクターの感情を細部までしっかり拾い上げ、視聴者を置いてけぼりにしない絵コンテでした。印象に残っているのは、やっぱり学校のシーン。ヒカルが暴走してよしきを殺そうとする、原作でも盛り上がったシーンです。原作から期待されているシーンは、アニメでその期待を超えていかないとみんなをがっかりさせてしまうので、気合を入れて作っていたと思います。TVシリーズの後半は、いつもものすごく時間がなくなってしまうものなんですが、第1話のドロドロの素材を流用しながらリッチに見せるなど、山内さんや撮影部の皆さんのアイデアも素晴らしかったです。

竹下　第1話に引き続き、僕が脚本・コンテ・演出を担当した最終話です。原作は続くし、アニメも第2期へと続くのですが、その中でいかに最終回の雰囲気を出せるかというのがテーマでしたね。どこを膨らませて、どういう構成にしたら、最終回のせつない感じが出せるのか、常に意識していました。絵コンテを描いているときは、オープニングやエンディングを作っている最中でしたし、とにかく忙しかった。だけど、「最終話で脚本・コンテ・演出をやる」というのがひとつの目標だったので、やりきれたことを誇らしく思っています（笑）。

――海のシーンは今も忘れられません。リアルな舞台美術はもちろん、よしき役の小林千晃さん、ヒカル役の梅田修一朗さんの魂のぶつかり合いまで本当に圧巻でした。
竹下　あの海はやっぱりロケハンをして、リアルな太陽の方向、夕日が沈んでいく方向も実際のビーチに合わせています。時間も夕方、よしきとヒカルがあの会話をする時間帯に合わせて行ったんですよ。キャストさんの演技についても秘密があって、じつはよしきとヒカルのオーディションには、あの海のシーンを入れていたんです。あのシーンにハマるふたりっていうのが僕の中では重要で、そこでいちばんだったふたりが選ばれている。そういう意味で、小林さん、梅田さんの演技の爆発具合は狙い通りでした。とくに小林さんの、よしきの感情を吐き出す演技はもう、最初の頃からみんなの心をつかんでいましたね。

――第3話のよしきがヒカルに対して「ガキくさいな」と感じるシーンが、最終話で逆転しているような印象もありますね。
竹下　逆転はすごく考えていました。ラストでよしきとヒカルの関係が逆転し、よしきがガキっぽくヒカルに縋（すが）り、ヒカルのほうが大人っぽく先を見ている。だからこそCパート、山に帰るというヒカルの決意が揺るがないと悟ったよしきは、流されていくオオサンショウウオの浮輪（ヒカルのメタファー）について「いらんわ、あんなの」と答えるんです。よしきはオオサンショウウオ＝ヒカルを手放し、それを田中が持ち帰る。原作では田中がヒカルの言葉を遮って、ヒカルは村に留まる流れになるんですけど、そこを最終話らしい余韻の中で表現したかったんです。

――ここまで12話を振り返ってきました。あらためて、私たち視聴者にとっても「アニメってこんなに自由なんだ」と震えるような作品だったと思います。
竹下　そういう評価は、とてもありがたいです。僕としては、原作のモクモクれん先生がマンガで新しい表現に挑んでいるので、同じクリエイターとして、そのスピリッツを受け継ぎたい。アニメを使い古された方法で作ったら恥ずかしいという思いがあって。だから僕も演出陣も、いろいろなチャレンジができたと思いますね。もう1年半以上『光が死んだ夏』に関わっていますが、とにかく愛を注がないと、誰かが愛してくれる作品にはならないと感じています。才能あるメインスタッフのおかげで自分のやりたいことに挑戦できましたし、宣伝やその反響を含めて、たくさんの人の情熱を感じる作品でした。演出陣も監督を超える情熱を持って作ってくれたので、それが僕にとってもすごくいい刺激になりました。

――情熱が情熱を呼ぶ、素晴らしい作品と解説をありがとうございました。
竹下　こちらこそです。『光が死んだ夏』は愛情を込めて、自分の限界を広げるという意気込みで取り組んだ作品ですから、放送終了後にこうしてインタビューで取り上げてもらえるのも、ファンの皆さんがいろんなファンアートや考察を上げてくださるのも、とにかくうれしいのひと言に尽きます。本当に、頑張って作った甲斐がありました。これからもアニメ『光が死んだ夏』を、どうぞよろしくお願いします。