声が入ることで立体感が生まれた
――これまでの谷監督の作品では、物の怪であったり、キャラクター性の強いものが多く登場していましたが、今作での人間キャラクター同士のストーリー作りはいかがでしたか?
谷 これまで公開されている作品には人間キャラクターは少ないですが、ちゃんと人間も好きなんですよ(笑)。今回は、まず自分が楽しく描きやすい絵にしようと思い、ジブリ的なテイストにプラスしてピクサーのような、柔らかい動かし方ができる雰囲気にしたいと考えていました。画面がキレイということはもちろん大事ですが、常に何かしら動いている、という感じをとにかく出したくて、多少大げさでもキャラクターが生き生きとアニメートしている芝居をつけたいという思いがありました。
――なおかつ、ふたりでいるシーンでは関係性がうかがえるお芝居をつけていますね。
谷 そうですね。序盤ではフォトグラファーの子がしっかりしているように見えるのですが、終盤で一緒にソファーに座っているとき、もたれかかるのはフォトグラファーのほうからなんです。外と家での違いや、ふたりの仲を表現できたのではないかと思います。
――フォトグラファーの女性はコロッケを揚げているところまではしっかりした印象でしたね。
谷 もたれかかったときに「ふふっ」と笑うのですが、上田瞳さんのお芝居が最初は元気な感じだったので、僕から先ほどのような意図を説明して、ギャップを表現してもらっています。プロの声優さんに声をあててもらうのは初めてだったのですが、映像がより立体的になったなと感じました。絵を動かすと命が宿った感覚があるのですが、声によってそれと同じような感覚をもう一段階味わえたというか。今回はカット割りが実写寄りだったので、いかにもアニメという雰囲気の声やお芝居にはしないようにお願いしました。ただ、実際に収録すると、その意図を汲みつつもCMとして人を振り向かせる、アニメ的なキャッチーさも残した声の表現をしてくださったので、そのあたりにより「立体感」をおぼえましたね。
30秒間・16カットに詰め込まれた情報量
――実写的なカット割り、という言葉がありましたが、映像演出において工夫した点はどんなところでしょうか?
谷 競馬場に関しては写真ベースでレイアウトを作っています。家の中も同じくらいのリアリティを出そうと、間取りとパース図を組み立てて制作しました。川崎競馬場でロケハンをさせてもらったのですが、実際に行ってみると、まずその大きさに驚きましたし、貴賓室やケンタッキーラウンジなど、それぞれのテーマで作られた観覧席にはテーマパークのような面白さがあって、競馬を楽しむための仕掛けがいろいろと用意されているんだと新たな発見がありました。売店はそこで見たもので、面白そうだなと思って組み込みました。
――売店のカットと最後のカットは時系列的にはふたりが出会う前のことを描いていますが、CMの短い尺の中でこうした時系列の交差を行った理由は?
谷 「川崎競馬をおうちで楽しむ」がコンセプトのひとつだったので、映像的には競馬場と家の両方を出す必要がありました。そこでふたりの過去と現在をそれぞれの状況で登場させようと盛り込みました。映像の空間的にメリハリをつけるために、競馬場は広い画角で撮って、人物と距離の近いカットや馬の銅像のカットは部屋でのカットと同じようなスケール感で映すようにしています。この映像は30秒・16カットなのですが、その中に多くの情報を詰め込めたと思います。コンテを描いているときはテンポ感が速くなりすぎるかなと思ったのですが、意外と大丈夫なんだなと感じました。
絵コンテの最終ページ。情報密度の高さがここからも読み取れる。
――もしかすると足元のカットが好きだったりしますか? 冒頭の芝生からターフビジョンを望むカットやフォトグラファーの子を玄関で迎えるカットがローアングルでしたし、過去作にもそうしたカメラワークが見られますね。
谷 あれ、多いですか?(笑) 言われてみるとそうかもしれないですね。玄関のカットは最初に思い浮かんだところです。ローアングルにするとパースをきつくしたり歪ませやすかったりするので、そこの自由さが好きなのかもしれません。
- 谷耀介
- たにようすけ 1992年生まれ。京都府出身。立命館大学映像学部卒。東京藝術大学大学院映像研究科アニメーション専攻修了。在学中より作品を発表し、国内外の映画祭で数多くの賞を受ける。主な作品に『横浜市営交通100年物語』『BONZIE – Reincarnation』(MV)など。
川崎競馬PRアニメーション 『二人の“馬の日”』
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