TOPICS 2023.06.21 │ 12:00

ウッソ役・阪口大助とカテジナ役・渡辺久美子が語る
『機動戦士Vガンダム』30年目の真実②

TVアニメ『機動戦士Vガンダム』放送開始30周年記念企画、ウッソ・エヴィン役・阪口大助とカテジナ・ルース役・渡辺久美子のスペシャル対談。第2回は、引き続き当時のアフレコ模様を掘り下げながら、『Vガンダム』の多面的なキャラクター造形を紐解いていく。

取材・文/前田 久

『Vガンダム』は女性が主役の物語だった

――渡辺さんは『機動戦士Vガンダム(以下、Vガンダム)』の現場でそれまでに出演していた作品と違う空気を感じることはありましたか?
渡辺 自分がそれまで出ていた作品では、メインの若い子のまわりを中堅の方々が固めて、のびのびと出せるものを全部出せばいいという状態を作ってくださっていたんです。だから、あまり難しいことは考えていませんでした。そもそも作品の内容も、あまり難しいことを求められるタイプではなかったんです。その点、『Vガンダム』は全然違いますよね。考えれば考えるほど、悩んでしまう。しかも、考えすぎて演じると、富野監督から「そういうお芝居は嫌いなんだよ」と言われてしまって。「嫌い? 嫌いって?」と。
阪口 どういうことだよってなりますよね。
渡辺 どれが好きなのかなって。
阪口 くーさんと(シャクティ役の黒田)由美ちゃんのシーンは、富野監督が積極的にコミュニケーションをとっていた印象があります。僕には浦上さんが基本的に付いてくださって、お芝居が全然わからない僕の基礎をそこでイチから作ってくださった感じなんですけど。
渡辺 富野監督、女子に優しいから(笑)。
阪口 あはは。でも、それだけじゃなくて『Vガンダム』は主役が「女の人」だったのもあると思う。シュラク隊がわかりやすいですが、女性が話を引っ張っている感じがするので、富野監督はそこに力を使っていたのかな、と思います。

©創通・サンライズ

渡辺 『ガンダム』シリーズで、ラスボスが女性だったのは初めて?
阪口 『機動戦士ガンダムZZ』で榊原良子さんの演じたハマーン・カーンがいますけど、カテジナ・ルースはまたそれとは違う感じですね。
渡辺 あ、そっか。私はハマーンさんみたいにはできないな(笑)。あんな知的な感じは。
阪口 ハマーンは「カリスマ」という感じでしたよね。カテジナさんは、もとは普通だったのに、次第におかしくなっていった人というか。
渡辺 トリッキーなキャラでしたよね。登場した頃とは全然違うところに行っちゃった。演じていた私も、あんな風になるとは思わなかったです。
阪口 最初はね。
渡辺 ウッソの「あなたは家の2階でもの思いにふけったり、盗み撮りする僕をバカにしてくれていればよかったんですよ!」というセリフ、アフレコ現場で大ちゃんが演じるのを見て、頭の中で「その通り!」と思いましたもん(笑)。それにしてもウッソも、シャクティも、声質が役に合っていましたよね。黒田由美さんはお友達なので、いまだによく会うのですが、もう声がそのままシャクティです。大ちゃんもそう。

――たしかに、こうしてお話を聞いていると、声からウッソの顔が自然と浮かびます。
渡辺 それができている時点で、あとは技術的な問題だけ。富野監督が思っている通りの芝居が出せるかどうかなんですよね。

最初はいちばんまともな人だったカテジナ

――今作は当て書きだったわけではないと思いますが、演じていた皆さんのパーソナリティに、どこか役のベースとなるところがあるのでしょうか? カテジナ役の方に対してこれをお聞きしてもいいのかと思いつつ……。
渡辺 当時はそうは思わなかったですね。でも、今振り返ると「自分にも意外と、こういうところがあるなあ」と感じる部分もあります。

――ど、どういったところでしょうか?
渡辺 もちろん、人を殺めたりはしませんよ?(笑)
阪口 それはもちろんでしょ! そんな人だったら、僕、ここで並んでインタビューを受けられないですよ!(笑)
渡辺 コロナ対策のアクリル板が違う意味を持っちゃうね(笑)。そうですねえ……誰しも思いもよらないことに出くわして「うわーっ!」となったときに、自分を見失ってしまう部分があると思うんです。カテジナは結局、最終回に到っても、そこから我に返れたかどうかはわからない。私は今のところ、そういうことがあっても、我に返っているから、今もちゃんと話ができている。そこが差なんですけど、混乱しているときは重なる部分もあるなと。少なくとも、私はシャクティのような人ではないですし、マーベットさんのような母性の塊でもないんですよね。大ちゃんはさ、カテジナさんみたいな人が彼女だったら絶対嫌でしょ?
阪口 それが、あらためて見返してみると、わからないんですよね。
渡辺 えーっ。「チョコ作ったの」ってニコニコしながら渡されても、絶対に毒が入っているようなタイプよ?
阪口 でも、最初の数話は、カテジナさんがいちばんまともに見えますよね。マーベットさんも、リガ・ミリティアのお年寄りたちも、みんなでウッソを戦いに行かせようとするけれども、カテジナさんとシャクティだけは止めてくれる。13歳の子供を戦場に送り出すのはどうなのか?と考えるのが、普通の感覚だと思うんですよね。

――子供の頃はわからなかったのですが、大人になってから見ると、カテジナがリガ・ミリティアに対して抱く反感は正しいなと思いました。
阪口 でしょう? 「こんなところにはいられない」と思っても、おかしくないんじゃないかな、と。『ガンダム』は、見るタイミングで感じ方が変わってくるところがありますよね。
渡辺 子供の頃、見ていてどういうところが刺さっていました?

――ウッソに近い感じで、描かれる状況に混乱していました。でも、その混乱が魅力的で、どうにも目が離せない……みたいな。
阪口 なるほど。違和感を持って見てもらえたのは、よかったのかもしれないです。主人公たちのやることといえども、あらゆることに対して肯定できるような作品ではないので。何かに対して必ずアンチ的な視点が入っているというか。物語にもキャラクターにも歪(いびつ)さがあるんです。思想の強い両親に育てられたという設定はありますが、ウッソもやっぱりどこかおかしい。
渡辺 シャクティの思い込みの強さもちょっとおかしいよね。
阪口 そう。彼女が動くたびに、必ず誰かが死んでしまう。善意が悪い方向に転がるタイプですよね。

キャリアが浅かったから役に選ばれたのかもしれない

――キャラクターもドラマも重層的で、その分、演じる役者さんには要求されることが多く、難しかったのではないかと思います。でも、そんな難しいことが要求される作品であるにもかかわらず、おふたりも含めて、キャストは声優としてのキャリアが浅いメンバーで固められている。これはなぜだったのでしょう?
渡辺 富野監督がピンと来たのかな?
阪口 かもしれない。基本的に富野監督の作品は若い、キャリアの浅い人をキャスティングしがちなんですけど……。
渡辺 中でも『Vガンダム』はとくに多かった。
阪口 そう。僕がそれまで見ていた『ガンダム』の中でもダントツだった。
渡辺 今はどうかわかりませんが、当時の富野監督は「アニメらしすぎるものが嫌いだ」とよくおっしゃっていたんです。だから、すごくかわいい感じの声を出してみたり、「こういう風にしたらそれっぽいのでは?」というような知識を持っている人は避けたかったのかな、と思います。
阪口 だから、キャリアを5年くらい積んだ僕がオーディションを受けていたら、受かっていなかったかもしれないですね。
渡辺 大ちゃんは『ガンダム』シリーズの、その当時の最年少主人公ですよね。
阪口 そうですね。
渡辺 そこでこなれた芝居をされてしまうと、戦場での悲しみが薄れてしまうんじゃないかなと。素で淡々としゃべる部分がよかったり、声の出し方も「ここまで出してしまうといけないから少し抑える」というような、下手に音響の知識を持っていたらダメだったのかも。それじゃあ、ウッソみたいな純粋なキャラクターはできなかったんじゃないかなと思いますね。endmark

阪口大助
さかぐちだいすけ 10月11日生まれ。新潟県出身。青二プロダクション所属。1993年に初のレギュラー出演作『機動戦士Vガンダム』で主人公のウッソ・エヴィンを演じる。他の出演作に『あたしンち』(立花ユズヒコ役)、『銀魂』(志村新八役)、『氷菓』(福部里志役)、『血界戦線』(レオナルド・ウォッチ役)など。
渡辺久美子 
わたなべくみこ 10月7日生まれ。千葉県出身。シグマ・セブン所属。主な出演作に『勇者エクスカイザー』(星川コウタ役)、『ぼのぼの』(ぼのぼの役)、『ブレンパワード』(伊佐未依衣子役)、『あたしンち』(母役)、『ケロロ軍曹』(ケロロ軍曹役)、など。
※記事初出時、一部内容に誤りがございましたので、訂正してお詫び申し上げます。また、ご指摘、ありがとうございました。
作品情報


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