『約ネバ2』のEDは物語の結末から遠い未来が舞台
――『約ネバ2』のEDは、どういったコンセプトで作られたのでしょうか?
紺野 じつは、最初はハウスから出荷されていくノーマンの主観で描くという内容でイメージをまとめていたんです。出荷されることが決まり、最後の日にハウスの窓から見た日が暮れていく風景や、門までの道中、ラムダでの生活からエマたちとの再会、鬼の世界からの脱出などをノーマンの姿は出さずに描こうと。もちろん、後半の展開はそのままやるとただのネタバレなので、あくまでハッピーエンドを示唆する映像イメージとして表現しようと考えていました。
絵コンテに入る前段階で、EDの構想をまとめたアイデアイメージ。ED曲を聞いて浮かんだイメージが描かれている。
――穏やかな曲調にマッチした構成だと思いますが、なぜこちらの案は採用されなかったのでしょうか?
紺野 ノーマンの主観にして、その姿を出さないことで「ノーマンはじつは生きている」というネタバレを避けるのも、あのあとノーマンが「見てきたもの」だけで構成するのにも限界があって。また、その「見てきたもの」がそもそもネタバレになってしまったりして、それが使えないとなると、もう何も描けなくて……。ノーマンという視点を外して、食用児の総体としての視点やハウスの記憶としての視点なども検討してみたのですが、それもうまくまとまらず行き詰まってしまって……。それで、なんとなくムジカとソンジュのEDっぽいカットを気晴らし感覚で描いてみたら、意外にもしっくりきて、彼女たち中心の構成に方針転換したんです。
こちらはボツになったEDの絵コンテ。ネタバレを避けるため、ノーマンの姿は描かずに彼の目を通して見た光景で構成されている。ここで描かれているハウスで遊ぶ子供たちは、これまでに出荷された子供たちの幽霊とのこと。
――ムジカとソンジュ視点で描くことにしたのは、たまたまだったんですね。では、彼らを使ったEDにどんなテーマ性を込めたのでしょうか?
紺野 舞台は物語の結末から数百~千年後の遠い未来。エマたちの活躍で世界の様相が大きく変わったあとも、ムジカとソンジュは旅を続けています。正確には定期的にしている小旅行、といった感じでしょうか。かつて心を交わしたエマたちのことを忘れないために、彼女たちが過ごしたハウスの跡地を訪れ、ともに過ごした日々を思い起こしている――。そんなストーリーを込めました。完全にオリジナルの設定でしたが、原作サイドからも支持していただけてホッとしました。
紺野が手がけた『約ネバ2』EDのビデオコンテ。
――廃墟がハウスに似ていたり、廃墟の近くに生えている木々になんとなく見覚えがありましたが、あれは遠い未来のグレイス=フィールドハウスの姿だったんですね。
紺野 じつは、この設定は後付けで考えたものなんです。ムジカたちを中心にするのはいいけど、どんな内容にするかのアイデアが出ず、歩きながらあれこれ考えていたところ、なんとなく廃墟とムジカたちの構図をひらめきまして。そこから、食用児たちはみんなハウスを無事に脱出して人間が住む世界へと移り、役目を終えたハウスは打ち捨てられ、廃墟と化したという内容を肉付けしていきました。今回のEDでは最初に決めた構造がありまして、日が沈むところから始まって夜になり、そして朝で終わる、というものです。1期はエマたちがハウスを脱出して、外の世界で最初の朝日を見て希望を得る、というところで終わりますが、2期では再び困難におそわれるところから始まります。そして、物語は最後ハッピーエンドで終わる。それらを再びやってきた夜が明けて、朝へ……という流れで表現しようと考えていました。ムジカ視点のEDに変えたときも、根底のテーマはうまく踏襲できたと思います。
――たまたまひらめいたアイデアが、最終的にすべてかみ合ったということですね。
紺野 ただ、少々込み入った内容なので、説明なしでそうしたストーリーが伝わるかどうか心配でした。そのため、冒頭とラスト付近に同じ窓の過去と現在を入れるなどして、時間の経過が視覚的に伝わるよう配慮しました。
ED冒頭に出てきた窓と、ラスト近辺に出てきた窓の残骸は、じつは同じもの。
――では、この映像でとくにこだわった部分や苦労した部分は?
紺野 いちばん大変だったのは、とにかく草木をたくさん描かなければならなかったことです。コンテの段階で大変だろうなとは思っていましたが、夜営をしているシーンは歌のサビ前の決め手となるカットなので、気合を入れなければと思いながら描きました。僕は絵を描く際、まず線画で描いて、ベタで色を置いたところにグラデーションや影を置いて、テクスチャを乗せるというスタイルでやっていまして。基本的に線画の段階で密度を上げておいたほうがクオリティを担保しやすいので、物理的な作業量の多さから逃れられないんです。もっとうまい方法があればいいんですけどね。
夜営のカットだけでなく、草木のシーンはこうして線画で見ると緻密に描き込まれているのがわかる。
――『約ネバ2』のEDを手がけてみての感想は?
紺野 『炎炎』ED1は初めての大役ということもあり、がむしゃらにやって燃え尽きたという感じで、自分のなかのハードルをグッと上げた感覚がありました。今後は、あれ以上のものを作らなければならないぞ、と。『約ネバ2』のEDは『炎炎』と比べると動きは減っていますが、代わりに絵の密度はさらに上げられたので、自分のなかのハードルは超えられたかなと思っています。まわりの同業者からの反応も良くて、うれしかったですね。
キャラクターを記号ではなく、生物としてとらえたい
――今度は紺野さんの来歴について伺っていきたいと思います。紺野さんはいつ頃、何がきっかけでアニメーターになることを志したのでしょうか?
紺野 もともと子供の頃から絵は得意なほうで、よく落書きをして遊んでいたんですが、絵を仕事にしようとは考えていませんでした。でも、中学生のときにたまたまアニソンの紹介番組で『残酷な天使のテーゼ』を聞いたのがきっかけで、遅まきながら『新世紀エヴァンゲリオン』にハマりまして。そこから将来はアニメーターになりたいと思うようになったんです。高校卒業後は成安造形大学に進学して、絵の勉強をしました。僕はデッサンというものをマスターできずに進学したので、ちゃんとできるようにならなければ、と強く意識していました。そこで古生物の復元画家であり、イラストレーターでもある小田隆先生のもとで、デッサンや筋肉、骨の付き方などを学びました。
――なるほど。芸大で学んだ技術が、緻密な人物描写に生かされているんですね。
紺野 僕はアニメーターをやっているのに、じつはアニメキャラを描くのがあまり得意じゃないんです。アニメキャラはさまざまな「記号」の集合体なんですが、僕はキャラクターを記号ではなく、作品のなかに息づく生物としてとらえたいと思っているんですよね。アニメキャラの体内にも我々のように内臓が詰まっていて、それらを支える骨格と筋肉があり、外側を皮膚が覆っている……という具合に内部構造まで意識したいという気持ちがあります。小田先生のもとで学んだ経験がにじみ出ているのだと思いますね。
――紺野さんの名前で検索すると、『物語』シリーズの羽川翼やキスショットが動くシーンの動画が出てきますが、それらを見ると人体の構造を意識しながら描いているのが伝わってきます。
紺野 キャラクターのあらゆる部分に執着して描きたいんです。実際には、タイトなスケジュールのなかでやれることは限られていますが、つねに「この部分がこう動くと、ほかの部分はこう動く」というように細かいところまで意識して描いていこうと思っています。
――最近関わった作品で、印象に残っているお仕事は何でしょうか?
紺野 一部の作画監督やOPなどの原画で関わった『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』は印象深いです。初めて作監をやらせてもらったんですが、とにかくまわりのアニメーターがめちゃくちゃうまい人ばかりだったので、あまり力になれなかったなという思いが強いです。その一方で、僕にとってはいろいろと収穫がありました。僕はキャラクターデザイン・総作画監督を務めている高瀬智章さんとお仕事がしたくて参加したんですが、高瀬さんが描かれたキャラ表や修正の入った原画がすばらしくて、とても勉強になりました。
――では、最後に今後の野望や目標などをお聞かせください。
紺野 今後もアニメのEDのようなショートムービーは定期的にやっていきたいと思っています。あとは、もうちょっと尺の長いアニメのミュージックビデオなどもひとりで全部仕上げてみたい、というのもありますね。そして、最終的には作品全体を統括する監督とか、演出方面の仕事も視野に入れていきたいです。
- 紺野大樹
- こんのたいき。フリーランスのアニメ演出家・アニメーター。成安造形大学の美術領域日本画クラスを卒業後、シャフトに入社。『劇場版 魔法少女まどか☆マギカ』や『物語』シリーズなどで動画を経験した後、『<物語>シリーズ セカンドシーズン 鬼物語』や『メカクシティアクターズ』で一部の演出・作画を担当。シャフト退社後は『Fate/Grand Order -絶対魔獣戦線バビロニア-』などで作画監督(共同)などを手がけている。