それぞれの作品で、まったく違うことをやりたかった
――『クラユカバ』と同時公開された『クラメルカガリ』ですが、こちらは『クラユカバ』が完成したあとに制作が始まったのでしょうか?
塚原 制作期間の最後のほうが重なっていますね。『クラユカバ』の絵コンテを描き終わって、他のスタッフが実制作に入っている間に、僕のほうで『クラメルカガリ』のプリプロダクションを進めた、という感じです。もともとは『クラユカバ』の1回目のクラウドファンディングのときに、小説家の成田良悟さんからご支援をいただいて。そのときのご縁で、2回目のクラウドファンディングの返礼品企画として、ショート小説の執筆を依頼させていただいたんです。
――それが『クラメルカガリ』のシナリオ原案になっているわけですね。
塚原 そうですね。その小説をもとに、僕のほうで映画として成立させるために再構成しています。
――『クラユカバ』との違いは、どれくらい意識したのでしょうか?
塚原 意識はしていないです。もう違うものにしかならない、というか(笑)。僕はもともと飽きっぽいし、同じことをやるのが好きじゃないんです。「今回はこういうテーマだから」と思ってひとつの作品に全力を投入したら、次は違うことをやりたい。なので『クラユカバ』と同じ世界設定、共通したビジュアルではあるんですけど、お話や演出スタイルに関しては自然と今あるかたちになった、というか。
――『クラユカバ』は比較的ストレートなディテクティブストーリーになっていますが、『クラメルカガリ』に対してはどういう風にアプローチしたのでしょうか?
塚原 やっぱり成田さんが得意とするのは群像劇だと思うので、そこは小説のままやれば面白くなるだろうと思っていました。あと、成田さんが作中で僕の過去作品のネタを拾ってくれていて。そこに向き合うことに関しては自分の過去作品の大掃除というか(笑)、過去の自分と決着をつける、みたいな心境でした。『クラユカバ』が最近の自分がやりたかったことなのに対して、『クラメルカガリ』は昔の自分がやり残したことをやる、という。
――演出については『クラユカバ』がかなりハイテンポで話がどんどん展開するのに対して、『クラメルカガリ』はちょっとゆったりしたテンポ感ですね。
塚原 そうですね。ちょっと肩の力を抜いて、それほど気負わずに作っているかなと思います。
――『クラユカバ』と『クラメルカガリ』、どちらにも合戦シーンというかバトルシーンがありますね。ただ、ちょっと間が抜けているというか、決してシリアスにはならない。そこは塚原監督の持ち味なのかな、と思いました。
塚原 そこはたぶん自分の好みでしょうね。それこそ『ルパン三世』とか、テレビ時代劇くらいのリアリティ。それくらいがなんとなく心地いいんです。ただ、『クラユカバ』に1箇所、荘太郎が血を流すシーンがあるのですが、あれくらいが今作ではシリアスさのマックスです。ここはやらなきゃダメだと思って、ああいった演出にしました。そうしなければ、ちょっとカリカチュア(風刺的な表現)すぎてしまうかなと思ったので。
「境界線」や「水」に注目して楽しんでほしい
――あとは音楽も、塚原監督作品ならではの雰囲気を盛り立てる重要な要素になっていますね。
塚原 音楽については、自主制作の頃から組んでいるアカツキチョータさんにお願いしているので、彼にまかせれば、自然と自分のこだわりが反映された仕上がりになる、みたいなところがありますね。
――そうなんですね。両作品ともにフィルムスコアリング(映像に合わせて作曲をすること)なのでしょうか?
塚原 そうですね。ビデオコンテを作っているので、それに合わせて「何秒目でこういうことが起きるので、音楽もここで転調してほしいとか。あと曲調に関しては、わりとどれもモチーフがあって、ざっくりと「こういうジャンルで」とお願いすることもあれば、古い映画のサウンドトラックを持ってきて「こういう雰囲気でお願いします」と指示することもありますね。その一方で、チョータさんが過去作品のモチーフを持ってくることもあって「そうきたか!」みたいなこともありました。
――(笑)。これから映画を見る人に向けて「ここに注目してほしい」というポイントを教えてください。
塚原 ひとつは、いわゆる境界線ですね。日常の中にある境界線――たとえば、玄関の扉や川を渡る橋などのモチーフを、日常から非日常へ移行する場面で象徴的に使っています。あとは水の使い方も意識しているところなので、そういったことを考えながら見ると、また違った楽しみ方ができるかもしれません。
――では最後に、これから作ってみたい作品、やってみたいことはありますか?
塚原 たくさんありますね。まず「これだったら、できるだろうな」というレベルのものとしては、『クラユカバ』のような怪しい雰囲気がありつつ、『クラメルカガリ』のわちゃわちゃした感じが同居した作品を作ってみたいと思います。それをどういう風に味付けするのか。コメディがいいのか、ミュージカル要素が入ってきても面白そうだなとか、自分の中でいろいろと考えているところですね。
――この2作品の延長線上というか、それぞれの持ち味を混ぜたような作品。
塚原 それはたぶん、できるだろうなと感じています。あとはもっと怖いものを作りたいと思いますね。ホラーというよりは『クラユカバ』を、もっとダークなテイストにしたもの、というか。
――それこそ江戸川乱歩作品だったり、怪奇映画のような。
塚原 そうですね。他にも映画撮影所を舞台にしたものとか、団地を舞台にした作品を作ってみたいな、とか。いろいろ構想は広がりますね(笑)。
- 塚原重義
- つかはらしげよし 1981年生まれ、東京都出身。アニメーション作家。2002年ごろからアニメーションの自主制作をスタートさせ。2012年に発表された『端ノ向フ』や太宰治の小説をアニメ化した『女生徒』など、独自の世界観を持った作品群が大きな注目を集める。