TOPICS 2022.08.02 │ 12:00

『リコリス・リコイル』
足立慎吾が初監督作で描きたかったこと①

7月より放送中のオリジナルTVアニメ『リコリス・リコイル』。キラキラとかわいい少女たちとクールなガンアクションですでに大反響を呼んでいるのはご存知の通り。Febriでは、監督・シリーズ構成を務める足立慎吾への全3回のインタビューを掲載。第1回は、作品がかたち作られるまでを聞いた。

取材・文/岡本大介

5分に一度はクスリと笑える作品を目指した

――『リコリス・リコイル』は足立さんにとって初監督作品でもありますが、どのような経緯で参加したのですか?
足立 企画自体は、僕が参加する以前からアニプレックスさん主導で動いていたみたいですよ? すでにアサウラさんのプロットがあり、そろそろ監督を探そうかということで声をかけていただきました。その時点では引き受けるかどうかは保留で、とりあえず会議に出ていろいろと意見を出していたら、そのまま流れで監督をすることになった感じですね。

――会議に参加した時点で、世界観やキャラクターはどの程度固まっていたのでしょうか?
足立 喫茶リコリコのキャラクター5人についてはすでに設定があり、そこは名前も含めて変わっていません。逆に世界観についてはカッチリとしたものはほとんどなく、当時は「女の子で『シティーハンター』的な……」というコンセプトだったようです。表向きは喫茶店だけど、その裏では銃を片手に危険な任務に挑む感じですね。ただ、冴羽獠でしたらいい大人なので、自由に仕事を選べばいい。でも、未成年の少女たちということになれば、そういうわけにもいかないでしょ? なぜ彼女たちは学校にも行かず、こんなに危険なことをしているのか、理由が必要になる。まず、そこをアサウラさんと話し合いつつ、「DA(Direct Attack)」という組織やそのエージェントである「リコリス」といった設定を作ることで世界観を構築していきました。

――設定はコンセプトからかなり変わっていったのですね。
足立 そうですね。とはいえ僕の中では、なるべく暗い作品にはしたくないという気持ちがあったので、5分に一度はクスリと笑えるような見やすい作品にしたかったですね。アクションや銃器の所作を正しく描くことはモチロンだけど、ガンマニア以外にも受け入れてもらえる作品を目指したつもりです。

キャラクターデザインは「自由に作ってください」

――キャラクターデザインはマンガ家のいみぎむるさんが担当しています。これは足立さんからオファーしたんですよね。
足立 そうです。ある年の冬コミ(冬のコミックマーケット)で偶然お会いして、ダメもとでお願いしたらOKしていただけました。いみぎさんの絵はとても好きで、自分もこんな風に描けたらなといつも思っていたので、引き受けていただけてうれしかったですね。

――絵柄の方向性はこれまで足立さんが描いてきたキャラクターたちとも親和性が高いなと感じます。
足立 そこはあまり考えていなかったけど、前述のコンセプトやターゲットに合うデザインを求めてはいました。いみぎさんは、僕がこの作品に求めているものを最高レベルで表現できる方だと思いましたので。

――いみぎさんにはどのようなオーダーをしたのですか?
足立 ほとんどしていないです。テキストのキャラクター設定をお渡しして「あとは自由に作ってください」とお願いしたら、このデザインが上がってきた感じです。じつは企画段階で別の方が描いた仮のイメージがあったんですけど、それはいみぎさんにはあえて見せずにお願いしました。

――リコリスの制服は、乃木坂46などの衣装を手がける尾内貴美香さんがデザイン原案を担当していますね。
足立 自分にも経験があるからわかりますが、一発でその作品とわかる学制服のデザインを作るのは本当に難しいんですよ。劇中の大半のシーンで登場するので、専門家にお願いしたかった。幸いにも製作がアニプレックスさんですから、ソニーつながりでお願いできないもんなのか?と無茶を言ったら実現しちゃいました。尾内さん、ありがとうございます。

「監督はとにかく孤独」と痛感した

――初めて監督という立場で作品に関わった感想はいかがですか?
足立 「監督ってとにかく孤独なんだ」ということを痛感しました。とくに今回はオリジナル作品でシリーズ構成も担当しているので、展開もセリフもすべて自分で決めないといけなくて。作業中はずっと「これでいいのかな」とか「怒られないかな」とか「コンプライアンス的に大丈夫かな」とか、とにかく悩みましたね。脚本会議では「最高っすよー!」とは言ってくれないですから(笑)。僕の判断がよかったのか悪かったのか、いまだに疑心暗鬼が続いている状態です(笑)。

――このインタビューは放送開始直前に行っているので、いちばんドキドキしている時期ですね。
足立 そうですね。とくにスタッフは1~2年という歳月をこの作品のために費やしてくれているわけなので、なんとか彼らの働きに報いる作品に導く責任が監督にはありますし、結果はともあれ、少なくとも「楽しい仕事だった」と思ってもらいたいです……監督をやってよかったなと思えるのだとしたら、それは作品が評価されて視聴者も作業者も「楽しかった」と振り返ることができたときなのかなと思います。

――作品が当たるかどうかは運の要素もあるので、こればっかりは読めないですよね。
足立 僕自身はわりとこれまで運だけでここまで来られたと思っているんですけどね。でも、すでに運を使い果たしている可能性もありますから(笑)。とにかく今は人事を尽くして天命を待つしかない心境です。endmark

足立慎吾
あだちしんご 大阪府出身。アニメーター、キャラクターデザイナー、アニメーション監督。代表作は『WORKING!!』(キャラクターデザイン・総作画監督・作画監督・OP&ED作画監督)、『ソードアート・オンライン』(キャラクターデザイン・総作画監督・作画監督補佐・OP&ED作画監督)、『映画大好きポンポさん』(キャラクターデザイン)など。
作品情報


『リコリス・リコイル』
毎週土曜23:30~ TOKYO MXほか各局にて放送中!

  • ©Spider Lily/アニプレックス・ABCアニメーション・BS11